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りょりょりょのてへぺろりんっですのっ!

 

 上手く動かない腕で私渾身のガッツポーズを見せて差し上げましたが、対する総統さんは悩み深そうなお渋顔をしていらっしゃいました。


 腕を組んで静かに目を閉じていらっしゃいます。


 このご表情、察するに組織のトップとして、そしてときには非人道的な行いも辞さない研究者的な立場として、何か別のコトを考えていらっしゃるように感じられましたの。


 いえ、あくまで憶測でしかありませんけれどもっ。


 数秒後、ゆっくりと口を開いてくださいました。



「俺はまだ実物を見ていないから何とも言えないが……もし本当にそんなデタラメな魔法少女が生み出されてしまったのだとしたら、そしてそれが、ここに居るお前(ブルー)の完全な上位複製なのだとしたら、だ」


「ふぅむ?」


「ソイツを倒せるのはブルーだけかもしれないな」


「はぇ……っ……!?」


 あ、いや、まぁ、確かにそう思ってはおりました、けれども……っ。


 そう間髪入れずにズババッと告げられてしまいますと……っ。


 一瞬動揺してしまいましたが、深呼吸をして頭と胸を落ち着かせます。


 そうして改めて真剣な瞳で彼を見つめて差し上げますの。


 私も既に決意は固まっているのです。少しだけ苦笑いを交えつつも、冷静にお答えさせていただきます。



「やっぱりご主人様もそう思われまして?」


「……ああ。お前ばっかりに任せちまって忍びないところではあるがな」


「まっ、他に適任はおりませんものね」


 何となく予想はしておりました。



「ちょちょっと待ってよ。プリズムレッドじゃダメなの? 私だって戦えるんだよ? 除け者はゴメンだよ!?」


「……そう仰りたい気持ちも分かりますの」


 茜ったらなんだか不服そうですわね。ぷぷいと唇を尖らせていらっしゃいます。おまけにワンツージャブを宙に空打ちしてますの。俄然やる気のご様子です。


 別に除け者にしているわけではございません。


 もちろんのこと、貴女が戦えない子ではないことも存じ上げておりますの。けれども、貴女以上にやらねばならない人間がいるだけなのです。


 それがこの蒼井美麗ってことなんですのッ!



「茜。あの子は私の複製体ですの。ということはつまり、得手も不得手もまるっと含めて、攻略の鍵は私の中に存在するとも考えられますの。これでも私の癖は自分が一番よく分かっているつもりです」


 意気揚々と続けさせていただきます。



「私の能力をベースにしているのなら、私を通じて見えてくる世界もあると思われます。

ですからどうか茜は私の粗探し(・・・)を手伝ってくださいまし。貴女には貴女にしかできないことをお願いしたいんですのっ」


 ……それと、実はもう一つ。

 こちらは口が裂けても言葉には出来ません。


 たとえプリズムレッドが適合率100%の完全なる魔法少女になれたとして。


 元から強化人間として生み出された存在に対して勝ち目があるかを考えてしまうと……正直、首を傾げてしまうというのが本音です。


 元のベースがただの少女か、それとも戦うためにイチから造られた存在か、良くて対等までであって、優位が取れるとは思えないのです。


 その点、私であれば魔装娼女の新アップデート的な感じで変身装置のブラッシュアップも可能でしょうし。最悪身体のアレコレをアレコレしてしまって、魔法少女を超える存在になってしまえばいいだけですしっ。


 この地下施設の中で連合連中の光に耐えられるのは、現役の魔法少女である茜と、〝元〟魔法少女として黒泥の力(黒色の光)を扱える私だけ……!


 となれば二者択一で私側にスポットライトが当たるというものでしょう?

 

 メリットを鑑みたら、私のほうがより多くの選択肢を以て、最善の策を導き出せるはずです。



「……というのは建前でして。このまま黙ってやられたままというのは、私の腹の虫が収まりませんの。あの子とお父様のそれぞれを、一発ぶん殴ってやらないと気が済みませんのっ!」


 このお気持ち、分かってくださいますでしょう?


 ましてお相手が私の複製体なのだとしたら、真っ向から立ち向かって差し上げるべきはこのオリジナルの私の役目でございましょう?


 戦えるとは言っても茜自身には何の因縁も咎もございませんもの。


 やるべき乙女がやるだけなのでございます。



「……まぁ、美麗ちゃんがそこまで言うなら、わざわざ横取りするつもりもないけどさ」


 かなり渋々といったご様子でしたが、ため息一つと共に首を縦に振ってくださいました。


 ありがとうございますの。お手柄をお譲りいただく分、しっかりと頑張らせていただきますわね。


 最初から不貞腐れるつもりも、尻尾巻いて逃げ回るつもりもありませんでしてよ。私の運命に対して真正面からタックルして差し上げるだけですの。


 上位互換には更なる上位互換(未来の私)をぶつけるしかないのですッ!



「というわけでご主人様。今一度、改めてご命令をくださいまし。貴方からのお願いなら、もっとずっと頑張れそうな気がするのです」


「……分かったよ。俺を始め、この悪の秘密結社の全員がブルーに協力してやる。そうしてお前が〝お前自身の限界〟を超えるんだ。お前がみんなを守ってやってくれ」


 まっすぐな瞳が、私に向けられております。


 かつて私の窮地を救ってくださった方から、真摯な思いをぶつけられてしまいましたの。


 逃げ隠れするつもりはございません。



「あったりまえですのッ! そして了解ですのッ! 玉砕覚悟で頑張りますのッ!」


「追加でもう一個命令な。自己犠牲は絶対に許さん。無事に帰ってくるまでが当然の任務だ。いいな?」


「りょりょりょのてへぺろりんっですのっ!」


 はーっ。そこまで仰るのなら仕方ありませんわね。鈍重になってしまったこの腰を、もう一度だけ持ち上げて違って差し上げましょうか。


 今このときが彼に恩返しできる最高最大のチャンスなのです。


 日々のっ、ただの慰安要員としてのっ、身体を用いるだけの業務的なご奉仕ではなくっ!


 蒼井美麗としてのっ、至極真っ当なやり方でっ!


 過去と見つめ合って、現在と向き合って、そして今こそ、未来へと歩みを進め始めるときですのッ!!!



「お、おぉお、おっけですのッ!

ぶっちゃけ手元も声も震えて仕方ありませんけれどもっ! さすがの私だって覚悟を決めるしかないことくらい分かっているつもりですのっ!

や、やややってやりますの! 黒泥舟に乗ったつもりでドーンと来なさいましっ!」


「その黒泥で、歯が立たなかったんだけどね」


「……うっさいですのっ。……だから、この決意とは裏腹に、今は結構しゅーんってしちゃってるんですのっ」


 魔装娼女のままでは勝てそうにありません。


 やはり、過去の禍根を潔くサヨナラしておかなければ、前には進めなそうな気がしております。


 幸いにも仇敵だった馬男と鳥男はこの世から居なくなっておりますゆえに、私の〝復讐〟自体にはカタが付いております。


 残っているのは……後悔の清算、でしょうか。


 

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