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ヤられる前にヤるんですのっ!

 

 多少は横になって身体を休められたというものも、完全回復できたわけではございません。


 本当は今すぐにでも寝っ転がって意識を手放したいところではございますが、本日の役割を放棄するわけにもいきませんの。


 たった今、最下層の司令室前に到着できたことですし。


 仕事が終わったらキチンと報告するのも彼の愛玩要員としての正式な勤めなんですの。


 まずは当面の活動方針を仰がせていただきましょう。眠り惚けるのはその後にいくらでもできるのでございます。


 この重厚なドアの向こう側に総統さんが待っていてくださるはずです。



 鉛のように重くなってしまった腕を何とか持ち上げて、私自らドアをノックいたします。


 ほんの数秒ほど待ちました。


 微かでしたが足音が聞こえてまいります。



 いつもであれば勝手に自動で開いていくものですが、今日のドアの動き方は何と言いますか、人による介入感がございましたの。


 まるで反対側から誰かが開けてくれたかのような……って、実際にそのとおりでしたの。



「よう。ブルー、レッド。お疲れさん。一目見ただけで分かるよ。かなりの満身創痍らしいな。さぁ、中に入ってくれ」


「ご主、人様……っ」


「お仕事中にごめん。お邪魔させてもらうね」


 総統さんが手づからドアを開けて、入室を促してくださったのです。優しげな微笑みで出迎えてくださいました。


 お言葉に甘えさせていただきます。



 司令室の中は相変わらず書類の山で足の踏み場も見当たりませんが、それでも来客用のソファまでの動線は用意してくださっていたのか、足を引きずったままの私でも難なく辿り着くことが叶いました。


 高級そうなふんわりソファが私の身体を優しく支えてくださいます。転移室の床よりもずっと寝心地がよさそうですの。


 それこそ気を抜いたら、すぐにでも目を閉じてしまいそうな……。


 っとと。まだ寝るには早いのです。


 ソファに横たわらせていただきながらも、半身だけは起こして、向かいに腰掛けなさった総統さんにご報告差し上げます。


 いつもの自信満々さはお預けですの。


 真剣に、そして真摯にお伝えさせていただきます。



「……ご主人様。どうか落ち着いて聞いてくださいまし。実家にて、私の完全なる上位複製(アッパークローン)が造られておりましたの。認めたくはありませんが、まず間違いなく歴代最強最高の魔法少女でございました」


 私だって希代の魔法少女の一人だった自覚はございます。


 10万人に1人の才能を己に見出して、そこからメキメキと頭角を現して、辛い修行にも鍛練にも常に真摯に取り組んできた、敏腕凄腕な魔法少女だったのです。


 それでも、全く歯が立たなかったのですっ!


 終始複製さんの手のひらの上で転がされて、不意打ちで足止めをするのがやっとのことでございました。


 眉間にシワが寄るのも気にせずに、言葉を続けさせていただきます。



「……さきほど、直接この手で戦って確かめてまいりましたの。正直に言って魔装娼女のチカラでは手も足も出せませんでした。あの子はホンモノですの。マジのガチで規格外すぎますの」


「魔法少女スペキュラーブルーって名乗ってたよ。多分、現役時代の私(プリズムレッド)のチカラを合わせて立ち向かってみても、全然お話にもならないレベルだと思う。

あんな桁外れな光を使いこなすなんて……反則でしかないよ」


「……そうか。そんなヤバそうな奴を相手にして、お前ら三人とも無事に帰ってこられたわけか。素直に誇っていいと俺は思うぞ」


「んもう……! 少しは深刻にぃ……っ」


 ちや、そう仰っていただけますと、少しはこの心のモヤモヤも晴れるというものですけれども……っ!


 簡単な労いの言葉に浸っていては、目先に聳え立った崖を登ることなど出来ないのでございます。


 私史上、最大級のピンチが到来しているのです。


 もちろん数日寝て起きてを繰り返したくらいで好転するわけがないとは分かっておりますが、それでも、これから起こるであろう悲劇に、少しでも先手を打っておきませんと。


 後で後悔してからでは遅いのですっ。



 複製さん(彼女)の脅威はこれから(・・・・)なんですのッ!



「おそらく、近いうちにあの子が外で活動を始めると思いますの。もしもスペキュラーブルーが世の中に解き放たれてしまったら……外回り営業をしている怪人さんたちがみぃんな、一瞬で塵と化されて消されてしまいます。それだけは……絶対に避けなければなりませんの……!」


「〝消滅の光〟って言ってた。物質も邪なる者も全てを無に帰す圧倒的なチカラ。正義も悪も関係ないよ。あんなのはもうただの蹂躙でしかないよ……!」


「……ふむ……そんな奴が……」


 あんな化け物クラスの魔法少女なんて、一般戦闘員さんが何人束になっても勝てるわけがありません。返り討ちにあってしまうだけです。


 それどころか、上級怪人さんであっても状況は変わらないでしょう。


 弊社にはハチさんやローパーさん、それにオークさんにカメレオンさんなど、沢山のお強い方々がいらっしゃいますけれども!


 あの消滅の光を使われてしまっては誰だって対抗のしようがありませんの。相性が最悪なんですの。触れただけで一発アウトの即消滅など、どんなイライラ棒ゲームよりもタチが悪いのです。



 私を元にした力をよって、愛する方々を消されてしまうなど……っ!


 それだけは絶対に避けなくてはなりません。


 私はもう、敬愛する皆さま方を一人たりとも失いたくはないのでございます。



「どうか今だけは、組織の皆さまの安全を第一に考えてくださいまし。そうして……この窮地を脱する策をみんなで練るんですの」


 組織運営の都合上、外回り営業を行わなければ経営が成り立たないのも分かりますが、せめて今だけでも見送らないといけないのです。


 実際問題、悪の秘密結社存亡の危機なんですの。

 もはや対岸の火のお話ではありません。目の上にできた巨大なたんこぶです。


 あまり力が入りませんが、拳をグッと握りしめて天に掲げます。



「けれども、ご主人様よろしくて? 逃げ隠れているだけでは状況は変わりませんの。真の意味でこの組織を守る為には、あの子に打ち勝つしかないのです! ヤられる前にヤるんですのっ! その、どうにかして!」


 勝って私たちの平和を取り戻すのです。


 この身一つの私を受け入れてくださった温かな居場所が、このままでは成す術もなく消されてしまうかもしれないのです。


 そんなの絶対イヤですのッ!


 魔法少女スペキュラーブルーを倒さなければ真の自由は訪れません。


 この深い地の底で、今以上にしっぼりネチネチ隠々とした日々を過ごす他に、余生を過ごす方法が無くなってしまうのです。


 ……わ、私は別に構いませんけれどもっ。


 それでは他の方々があんまりなんですのっ。


 皆が皆、そう物静かにいられるわけではありません。いつかは不平不満が溜まってしまって、爆発してしまうのは目に見えております。


 ですからっ!

 早いうちに対抗策を得ておきませんとっ!


 打倒、魔法少女スペキュラーブルーですのッ!

 

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