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あっ! ここ前の学校でやったところですわ!

 


 色々考えがまとまる前に早くも学校に着いてしまいました。道もずっと平坦のままで10分と歩きませんでしたの。悔しいですがこれなら難なく通えそうですわね。


 到着早々職員室へとお邪魔させていただいたのですが、皆さんとてもご丁寧な方々でした。何より校長先生の腰が一番低かったことに面を食らってしまいましたの。たかが一生徒にそこまでペコペコへり下る必要はないと思いますのに。


 他の先生方からは家族構成などについてご質問いただきましたが、色々お答えしている間に朝のHRの時間になってしまい、やむなく話の途中でお開きとなりました。


 今は担任の先生に連れられて、これからお世話になる教室へ向かっているところでございます。刻一刻とデビューの時間が近付いてまいりますの……。


 あまり深くは思い詰めたくないので別の話題でも挟んでおきましょう。ちなみになんですが、前を歩く担任の方はTシャツに短パン姿というとてもラフな格好でいらっしゃいます。また服の隙間から見え隠れする引き締まったガタイを見るに、きっと彼は体育の教師なのだと推察いたしました。


 けれど話を聞き進めていたら、意外にも担当は国語とのことなんですの。人を見た目だけで判断はしてはいけませんわね。純文学から古典まで幅広く抑えていらっしゃるそうです。はい、余談は終わりです。


 職員室を出て階段を上がり、少しばかり廊下を進むと私の通う教室へと到着いたします。扉上のプレートには2年A組と書いてありますね、中からは元気いっぱいなガヤガヤ声が聞こえてまいりますの。私が教員の方々と話し込んでいる間に生徒の皆さんもお揃いになられていたようですわね。


 はじめに担任さんが教室内に入られます。

 ざわざわとガヤついていた教室内も、姿を見るや否やすっと静かになりました。

 私の登壇はもう少し先です。名前を呼ばれたら教室の中に入る、という段取りになっておりますの。


「前々から話していたと思うがー、今日からこのクラスに新しいメンバーが加わる」


 野太い担任のお声に反応して、男女様々な方のリアクションが聞こえてきます。

 転校生? 転校生? ええそうですの。

 男? 女? 私は紛うことなき乙女ですわ。

 飛び交う声に心の中でそう回答しつつ、今か今かと息を呑み込みます。


「それでは、蒼井美麗さん。入ってきなさい」


 あ、今名前呼ばれましたわね。緊張で手が小鹿のように震えておりますが、蒼井家の令嬢として恥ずかしい姿は見せられません。さぁ気をしっかり持つんですのよ、私。


 一歩一歩踏みしめるようにして、教室の中へ入っていきます。はえー……何故だか拍手でお出迎えされておりますの。



 教壇の横に立ち、小さく一礼いたします。そして。



「……コホン。皆様ご機嫌麗しゅう。蒼井美麗と申しますの。不束者ではございますが、これからどうぞよろしくお願い申し上げますわ」


 口上に合わせ、スカートの裾をちょこんと摘んで上品にご挨拶いたします。

 乙女たるものいつでも可憐かつ優雅かつ気品溢れる存在であらねばございません、これはその初歩中の初歩の作法なのでございます。人様の前に立つ以上、たとえ無難な行為でも規範となる動きを見せるのが淑女たる者の務めなのですもの。


 クッと顎を引いて前を見据えます。

 あまりの美しさにスタンディングオベーションしていただいてもよろ……あら?


 なんだか空気がおかしいですわね。むしろその拍手が止まってしまいました。おまけに皆さんお口をポカンと開けられて、一体どうされたのでしょう。


 何か変なものでも見られました? 

 もしや私の頭にゴミでも付いておりますの?


 そう思って前髪をサラリと確認してみましたが、そのような様子はございません。


 担任のお顔も見てみましたが、あー、という小さな唸り声と共に、ちょっとだけ困ったかのような複雑な表情をしていらっしゃいます。

 ふぅむ? 状況があまりよく分かりません。頭の中でいくつかのはてなマークが舞い踊っております。



「あーっとだな。この様子からも察せた奴が居ると思うが、蒼井さんが通っていた前の学校は、とても歴史のある由緒正しい進学校だったそうだ。

最初は戸惑うことも多いかもしれんが、これからお互いに歩み寄って、少しずつ仲良くなっていってほしい。皆、いいな?」


 はーい! と返事する声が聞こえます。よかったですの。一瞬変な空気を感じましたが私の勘違いだったようですわね。皆さんにこやかに笑っていらっしゃいます。


「席は……小暮の横が空いてるな。蒼井さん。そこに座ってくれ」


「はいですの」


 小暮さんという方がどなたかは存じませんが、見た感じで空いているのは中央列の奥側、後ろから三番目の席ですわね。おそらくはそこで合っておりますでしょう。


 自席に向かう間、周りから何度も奇異の目を感じましたがさすがにそれは仕方ありませんの。私は転校生なのですから注目の的であるのは仕方がないことなのです。



 着席しますと、お隣の方からグイグイ視線を感じます。この方が小暮さんでしょうか。


「……蒼井さん。これからよろしくねっ」


 人懐っこそうな笑顔が素敵な、かなり小柄な女の子ですの。


「はい。こちらこそ」


 にこやかに返答いたします。

 こういうのは第一印象が大事ですからね。




「それじゃ早速だが授業を始めるぞ。今日は教科書21ページからだ。蒼井さんは分からないことがあったら気兼ねなく周りに聞いてくれ」


「かしこまりましたわ」


 どうやらこのままシームレスに授業へ移るらしいです。大事な初日です。遅れないようにしっかりついていきませんと!


 教科書の言われたページを開きます。

 どれどれ……。








 あっ! ここ前の学校でやったところですわ!



 ……それも去年の話です。








――――――

――――


――




 正直、拍子抜けしてしまいましたの。


 午前中、国語、英語、化学とそれぞれ授業をこなしておりましたが、全て前の学校では既に学び終わっていた箇所でした。

 私の通ってた学校、結構進みの早い学び舎でしたのね。初めて気が付きましたわ。半ば復習的になってしまうのは否めませんが、これなら最初のうちは余裕を持って授業に取り組めそうです。


 午後は音楽と体育だそうですね。我が家の教育上、私は幼い頃から多種多様な教養を身に付けるよう徹底されておりましたから、歌でも楽器演奏でもスポーツでも器械体操でも何でもござれでございます。


 と、その前に昼休みと給食のお時間ですの。


 前の学校では皆一律に同じものを食すなんてことは無かったものですから、給食は初体験です。やっと新鮮味あるイベントがやってまいりますのね。非常に楽しみです。

 

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