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美麗の腹筋6LDKかーい!

 


 体勢を整え直すため、メイドさんの右手をお借りいたします。


 思ったよりも身体にガタがきていたのか、立ち上がるだけでふらついてしまいました。


 んもう、しっかりなさいまし。


 緊張の糸を切るのはまだ早いんですの。

 最後のお仕事をキチンと果たしませんと。


 大丈夫です。もう既に三人とも傍におります。

 お互いに手を伸ばせば繋がり合える状況です。


 強制転移の準備は整いました。


 あとは逃げの口上を言い放っておくだけなんですのっ!



「ぅおっほんっ。魔法少女スペキュラーブルー! そのお耳をかっぽじってよーくお聞きなさいましッ!」


「ッ!?」


 未だ顔面にへばり付いたベタベタと格闘なさっておりましたが、私の声に反応してこちらに振り向きなさいます。



「今回はアナタに勝ちを預けておきますの。けれども諦めたわけではありません。近いうち、必ず取り返しに戻りますゆえにッ!

それまでせいぜい首を洗って待っていなさいましッ!」


「は、ハァッ!? いきなり何を言ってんの!?」


 ふっ。決まりましたの。


 あとは私たちが無事に逃げ帰るまで、黒泥と遊んでいればよろしいのです。


 私の黒泥も、そのうちに消滅の光で跡形もなく消されてしまうことでしょう。簡単に使い捨ててよい代物ではございませんが、背に腹は代えられません。



「……続きまして」


 もうあと数十秒の猶予くらいはあるはずです。


 お父様にも、同じように逃げ口上を放っておきたいと思いますの。


 弱くてちっぽけで少しのご期待に応えられない娘ではございますが、絶対に諦めるつもりはございません。


 どんなにカッコ悪くとも、この身には伸び代しかないのだということを体を張って証明して差し上げたいのです。



「お父様もッ! どうか聞いてくださいましッ! このまま黙って生きていけるほど、アナタの娘は温厚でも実直でも従順でもございませんのッ!

……改めてここに宣言させていただきます。

私、ただ今絶賛〝遅れてきた反抗期〟堪能中ってことにいたしますのッ!!!

そのうちまた一方的にご連絡差し上げますので! 絶対に無視しないでくださいまし! よろしくて!?」


「………………フン」


 まーた同じ反応をなさいましたの。是とも否ともお示しにならず、返してきたのは静かな嘲笑いだけでございました。


 ホント、鼻で笑うのがお好きな方ですわよね。

 その高慢ちきな態度、私にソックリですの。


 いえ、きっと私が彼に似てしまったのでございましょう。


 何があってもどうなろうとも、私は娘なのですから。


 とにかく今のは勝手に肯定と受け取らせてましてよ。

 高慢ちきかつ図々しいのが私のウリなのです。



「ではではっ! マジめのガチめなピンチになる前にっ! ここらでオサラバさせていただきましょうっ!」


 第三ラウンドは後日にさせていただけたらと思います。


 ついでに次の手綱もこちらで握らせていただきます。

 

 アジトに戻ったら、魔法少女スペキュラーブルーを倒す術をアレコレ模索する必要がございます。


 研究開発班の皆さまには多大なるご迷惑を掛けてしまうかと思いますが、代わりに私は鍛練に鍛練を重ねて、ピッカピカの鋼の肉体を手に入れてやるのですッ!


 ……必ず見つけ出さなければいけませんの。


 魔装娼女を超える新たな〝蒼井美麗〟になる方法を!


 強靭な精神は強靭な肉体にこそ宿ります。


 今のままではまだ足りないってことですの。


 怪人さんや戦闘員さんの皆さまが思わず〝美麗の腹筋6LDKかーい!〟と野次を飛ばしたくなるほどの肉体をッ! ガッチガチに仕上げて差し上げますのッ!


 負けたままでいられるほど、私の堪忍袋は丈夫ではないのでございますッ!


 

「ぐぐぅ……ッ! そうはさせないよ。簡単に見逃してあげるほど、最高最強の魔法少女(スペキュラーブルー)は甘くはないんだからねッ!」


「ふぅむっ!?」


 ようやく顔まわりの黒泥を除去し終えなさったのか、複製さんがこちらをギッと睨みなさいます。


 そうして手のひらを向けてきましたのッ!


 周囲から眩い光を集めて、バチバチビリビリと音を立てさせております。


 アレは先ほど見た消滅の光です。


 苛立ちの感情に任せて、今まさに私たちに対して、チカラの塊を差し向けようとしなさっているのですッ!


 直撃でもしたら一発アウトなんですのっ!


 絶対にこの場に居続けてはなりませんっ!



 今こそっ! トンズラするときですのっ!



「メイドさんッ!」


「はいっ!」


 私と茜の双方の腕をお掴みなさって、メイドさんが声高らかに宣言なさいます!



「強制転移ッ! お願いします!」


 彼女が言い放った、その刹那。


 首輪が怪しく発光いたしました。


 間髪入れずに、私たちの周りからも、白とも群青とも濃紫とも言えない、実におどろおどろしい光が巻き起こり始めます。


 夏の陽炎のようにぐんにゃりと世界を歪め始めましたの。


 ほんの数コンマで床も天井もへったくれもなくなってしまいます。


 いつもの転移特有の浮遊感はございませんでした。

 足の感覚としては地面に付いたままなのです。


 けれども、あの、何でしょうか。


 この胃を直接ニギニギされているかのような、強烈なな吐き気は……!?


 身体は直立硬直したままなのに、内臓やら感覚器官やらはぐるりと逆転されられてしまったかのような、猛烈なまでの不快感は……ッ……!?



「食らっちゃえっ! 消滅のひか――」


 この耳に最後に聞こえてきたのは、刺すような鋭い殺気のこもった複製さんの声だけでございました。


 しかし、全てを聞き取る前に、思考も世界も真っ暗闇一色に染まってしまいます。



 ぐわんぐわん、と。


 ただただ気持ち悪さが襲います。



 あ、本気でダメそうですの。


 眩い光が一瞬見えましたが、ただそれだけで。




 もう、意識が、ブラックアウ――








――――――

――――


――




 

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