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イービルブルーの真っ赤な

 

 こんな大損しか残されていない戦場なんて、一刻も早く離脱して差し上げるのが吉なのですっ!


 ええと、よろしくて!?

 つまるところ勝負とは負けなきゃ勝ちなんですのっ!


 それこそギャンブルに例えるのであれば、ちょい負け上等、合計プラマイゼロは普通に儲け(・・)と言ってもよろしいくらいなのですっ!


 相応にくたびれてしまったとしても、薄汚れたプライドに更なる傷を付けられたとしても!


 逃げられるのであればスタコラさっさと逃げますの!


 むしろ今回はポヨを回収できるだけ、タコ負けなんかよりも何十倍も価値があると言えましょう!


 つまりコレはただの戦略的撤退ッ!!

 次へ繋げるための重要な布石ですのッ!!!



「うっく、目的は全て達成しましたのッ……! あとは、私が合流するのみッ……! くっ」


 しかし、お一つだけ誤算をしてしまいました。


 自ら跳ね飛ばした円柱状の機械を避けるため、私もリンボーダンスさながらの仰反り方をしてしまいましたの。


 つい先ほどに腰が悲鳴を上げましたの。


 別に痛めたわけではないのですが、少しばかりバランスを崩してそのまま尻餅をついてしまったのです。


 秒を争うバトルの最中では一瞬の隙が命取りとなってしまいます。自由に動けないのはかなりのディスアドバンテージなんですの。


 後ろで見届けてくださっているお二人に、これ以上のご迷惑をかけるわけにもまいりませんし……っ!



 しゃーなしですわね。

 今から見せるコレが、正真正銘、本日最後の必殺技ですの。


 後先のことは考えません。

 全ては無事に〝逃げ果せる〟ためだけに!

 

 あえて後ろに倒れ込む勢いに身を任せて、逆に床をごろごろと転がって差し上げます。


 そして程よいタイミングで体勢を整えておきますの。


 立ち上がるその直前に、腹の底から叫んでお伝えしておきます。



「茜ッ! 今しがたそちらに放り投げた機械、ガッチリ捕まえて離さないでくださいましッ! アジトに持って帰りますのッ!」


「え!? あ、よく分かんないけどおっけ了解!」


 後方から威勢の良いお返事が聞こえてまいりました。

  どうかよろしくお頼み申し上げますの。


 彼女の姿は見えませんでしたが、これでひとまず安心できそうです。


 あとは、目前の障害に対処するだけですわね。



「…………偽装ッ! - disguise - 」


 急いで手元に黒泥レイピア杖を引き寄せて、そのまま薄く広く引き伸ばして、投網の要領で複製さんに投げつけて差し上げます。


 たちまちグバァッと広がって視界を遮りますの。

 それだけではありません。触っても厄介なのです。


 ベッタベッタと纏わりつくだけ、本物の網よりもずっとタチの悪い代物になっておりましてよ。


 おまけに空中でも自在にサイズ変更可能なのです。

 方向転換だってお手のモノですの。


 消滅の光に焼かれる前に、突き出したその右手にも私そっくりな美人顔にもッ!


 ベッタリと貼り付かせて、バッチリと身動きを封じて差し上げますッ!



「ぐっ……悪あがきを……ッ!」


「ふっふんザマァ見ろですのッ! こっからタコ殴りタイムの始まりですのッ! せいぜいビビり散らかしなさいましッ! さぁッ! いきますわよぉッ!」




 …………こっほん。ウソですの。


 イービルブルーの真っ赤なウソなのです。



 私、継戦する気なんで小指ほどもございません。

 今すぐにでも戦線離脱するつもりです。


 できる限り音を立てないよう、忍び足で少しずつ距離をとります。



「チィ……ッ! っていうかまーた卑怯技ァッ!? お姉ちゃん(オリジナル)さぁ、やってて恥ずかしくないのホントにィ!」


「……お生憎(あいにく)ながらっ、恥などとっくの昔に捨て置いてきましてよっ」


「ああもうッ! ホントうざったいッ!!!」


 既に彼女の手から放たれた光によって、ベタベタだったはずの黒泥が端から塵と化し始めております。


 ふぅむぅ。やっぱり明確な足止めには使えませんか。


 それでもコンマ1秒でも隙を作れたのならそれだけで充分ですのっ。


 つま先にチカラを込めて、後方に向けて思いっきりジャンプして差し上げます。


 着地のことは一旦度外視いたしますッ!


 茜かメイドさんか、お近くにいらっしゃるどちらかが受け止めてくださるはずですッ!


 願うことならメイドさんのほうであってくださいましッ!


 茜が掴んでいる固い機械に腕やら背中やらお腹やらをぶつけたくはありませんものッ!



 ふわり、と。


 私の身体が宙を舞いました。



 そして。



「――お嬢様っ!? お怪我は!?」


「ふぅ。ありがとうございますの。ナイスキャッチでしたの。正直死ぬほど助かりましたの」


 ぽすり、と。

 柔らかな双丘が私の身体を支えてくださいました。


 両目に映さずとも香りだけで分かります。


 ふんわりと優しく包み込んでくださる雰囲気……間違いなくメイドさんのものですわね。



「ああよかった。ご無事のようで何よりです」


「私がポカするわけないではありませんのっ」


 親の声よりも聞いたメイドさんの声が、すぐ耳元から聞こえてまいります。


 つい微笑みが零れてきてしまいます。



「あの、美麗ちゃん。もしかして、この機械……」


「ええ、おそらく。回収ありがとうございますの。詳しい話は後にいたしましてよ」


 クイと真横を見てみれば、円柱状の謎機械を抱きかかえた茜もいらっしゃいました。


 三人+α(ポヨ)、これでようやく揃いましたの。


 つまりは最後の賭けにも勝てたということッ!

 あとは意気揚々と凱旋して差し上げるだけなのですッ!


 

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