コレに至っては普通の美麗ちゃんスマイルでしてよ?
もう一度複製さんに対峙いたします。
私と彼女の間はほんの5メートルも離れてはおりません。
どちらかが前に駆け出せば、それこそ手に持った杖の先が届いてしまうような距離ですの。
「どう? 活路は見出せた? 今度はどんな姑息な手を使ってくるつもりなのかな?」
「ふっふっふんっ。簡単にバラしたら面白くありませんでしょうっ?」
鬼ごっこやら隠れんやら、お遊びからは打って変わって、今からはお互いの剣と拳とをぶつけ合うインファイト戦が始まろうとしております。
「せいぜい足を掬われないように気を付けておくことですわねっ! あ、アナタなんてこの細杖一本で充分ですのっ!」
「どうだか。声震えちゃってるし」
「むむむ武者震いですのっ!」
細く尖らせた杖の先を相手に向けて、ついでにキュートなウィンクも飛ばして、最後の挑発を放って差し上げます。
ポーズと気分だけなら高貴でプリティな女騎士ですの。
けれども私には騎士道のカケラもございません。
もちろん侍のような武士道精神もありません。
私は逃げ足だけは早くて、負け犬もビックリ仰天してしまうくらい弱々しい遠吠えを放ち続けるだけの哀れな存在なのです。
けれども別に、それでもいいのですっ!
あの子が私に注目してくださるのなら、それだけで御の字すぎるくらいの度合いなんですの。
もし後ろに控えたお二人に手を出したら、そのときは絶対に容赦いたしませんからね。
今は勝てずとも、床に転がされようとも。
それこそ地獄のケルベロスにでも衣装を変えて、地の果てまで追いかけ回して、一生足を引っ張り続けて差し上げる覚悟でございます。
「特に言い残すことがなければ、私のほうから攻めさせていただきますけれども。それでもよろしくて?」
「別に構わないよ。さっさと終わらせちゃったら、それはそれで面白くないもんね。
ほら、好きにかかってきなよ。返り討ちにしてあげるからさ」
自信ありげなお顔がまた憎たらしいですの。
まるで鏡を見ているかのようです。
わ、私は無邪気可愛いんですけれどもっ。
挑発を堂々と跳ね除けなさった彼女ではございましたが、その勝ち気な態度が示すように、身体から放つ〝正〟と〝強者〟のオーラをまた一段と濃くなさいました。
ユラユラと空間が歪んで見えますの。
光がランダムに屈折してキラキラ反射して眩しいんですの。
やはり口先だけの女ではないみたいですわね。
思わず目を背けたくなるような圧にたじろいでしまいましたが、何とか意地と気合で耐え抜いて差し上げます。
ふっふんだ。こんなの総統さんの放つ絶対畏怖に比べたら撫でるよりも軽いもんですの。
全く手も足も出せないような状況ではないだけ、千倍も万倍もマシに思えるのです。
時間稼ぎをする必要はありません。
怪しまれる前に先に仕掛けておきましょう。
できる限り体勢を低くして、レイピア尖杖を胸の真ん前に構えます。
スタタと駆け出しては華麗なる突きをお見舞いして差し上げますのッ!
避けられたって全然構いません。
今はただ前進あるのみですのッ!
少しでもポヨと思われる円柱状の機械と距離を詰めておく必要があるのですッ!
魔装娼女の黒泥スーツさん、どうか私の動作を補助してくださいまし。
生身の肉体ではどうやったって出せるスピードには限界がございますの。
眼前の最強魔法少女に対抗するためには、自分自身の一歩その先を目指さなければなりません。
息を切らしながらも、目にも留まらぬ突撃を繰り返します。秒間10発どころの話ではございませんの。
コレ、ちまたで話題の60fpsとやらですの。
私も詳しくは知りませんけれども。
横文字や略称がかっこよく見えてしまうお年頃なのです。
にしても、縦横斜めの面で攻める猛突撃を、とめどなく繰り出して差し上げているといいますのにィ……ッ!
「さすがのアナタでも……ッ! これだけの攻撃を放てば……ッ!」
一回くらい掠ったっていいではありませんの!
少しは私にも華を持たせてくださいまし!
個人的には目にも留まらぬ攻撃を出していたつもりだったのですけれども。
全て、あくびと共に綺麗にかわされてしまっておりますの。
軌道も含めて完全に見えていらっしゃるらしいのです。
私の耳にはヒュンヒュンという虚しい風切り音だけが聞こえてきております。
「あーあっ。おっそいなぁー。ホントなんだかなぁー」
「くっ! ふんぬっ! むぅっ! くぅぅッ!」
「ねぇお父様〜。私ってこんな弱っちい子をベースに生み出されちゃったの? 正直情けなくなっちゃうレベルなんだけど〜」
「ッ! 人を小馬鹿にするのもッ! いい加減になさいましッ! こんのッ! ちょこまかとッ!」
正直、弄ばれてしまっている感は否めませんの。
ホントにイチミリの掠りもしないのです。
これが本気の攻撃であれば、つまりはダメージ狙いの行為であったならば、今にも悔しさのあまりにハンカチを咥えては引きちぎって差し上げていたことでしょう。
けれどもこうして心の平穏を保っていられる理由はただ一つ。
この攻撃の裏に真の目的が控えているからに他なりません。
「うーん? 何でそんなにニヤニヤしてるの?」
「べっつにー? ですのっ。コレに至っては普通の美麗ちゃんスマイルでしてよ? 確かに当たってはおりませんが、アナタを壁際に追い込めているだけ全くの無駄でもないというわけです」
ほーらその証拠に、私の目の鼻の先に。
つい先ほど私が蹴り飛ばしてしまった円柱状の機械が転がっているではありませんの。
近くで見てみるとわりとランドセルほどのサイズはあるみたいですわね。
それに身の詰まった機械なだけあってそこそこの重量はありそうです。
片手でヒョイとは持ち上げられなさそうですが、頑張れば小脇に抱え込むくらいはできると思いますの。
スペキュラーさんの隙を突いて、スパッと回収を試みましょう。
ついでに背中のお二人のご様子も気にしておきますの。こっそりと近寄ってきておいてくださいまし。