三分間だけ待ってくださいましッ!
ゆっくりと、物陰から姿を晒してみます。
そしてあえて無防備に、また堂々と胸を張って、複製さんの目先5メートルほどの場所で仁王立ちして差し上げます。
「こっほん。そろそろ鬼ごっこは終わりにいたしましょうか。このまま隠れていたところでアナタの攻撃を完全に防げるわけではございませんし」
「それじゃあ負けを認めるってこと?」
「そこまでは言ってませんの。あくまで〝第二ラウンド〟切り替えのゴングを鳴らしたくなっただけですのっ」
ビシィッと虚勢を張らせていただきます。
物陰から様子を伺っているうちに、いくつか分かったことがありますの。
最強の魔法少女としての運命なのか、それとも彼女の性格か、変なところで正々堂々さを持っていらっしゃる気がいたします。
大量に設置された機械を壊してもいいと言われたのにチマチマと周りばかりを攻撃している点、そして、私の身体をダイレクトに貫こうとはしていない点から判断いたしました。
またおそらく、あの子の浄化の光はまっすぐに放つことしかできないのではありませんでして?
もしかしたら鏡面反射の名の如く、反射による方向転換くらいはできるのかもしれませんが、こんなゴチャゴチャとした場所ではピンポイントで狙うことは難しいと思いますの。
というよりそもそも迂回させる必要もないのかも、なんですのよね。
鏡の鎧を着込んでガードしたところで、あの子の絶対的な光なら、鏡ごと貫いてしまうパワーがあってもおかしくはありません。
ズルやら卑怯やら絡め手やら、勝つ為なら何でもする私から見れば、とっても甘ちゃんなチカラの持ち主だと思いますの。
けれどもそれらが許されているのはきっと、他を凌駕する圧倒的なチカラゆえ……。
まっすぐ己を貫き通せるだけの絶対的な自信と力強さを持ち合わせているがゆえ……。
この上なく悔しく羨ましい限りですが、私が彼女に一矢報いるためには、この甘さにこそ唯一の攻略点があると思っているのです。
地の底の底にまで堕ち、己の弱さと不甲斐なさに打ちひしがれた私に、今更プライドなどは一ミクロンもございませんの。
上品さも気高さも必要なく、浅ましくてもみっともなくても全然構いませんの。
都合のいいときに淑女を名乗って、また都合のいいときに自由な牝猫を演出するだけなのでございますッ!
それゆえに、今回私が取る選択肢とは。
あえて、彼女に猛アピールするように、手のひらに黒の粘塊を多めに生成いたします。
そうしていつもの杖の形に変換いたします。いつもよりも少しだけ細めに、そして長めにしておきます。
レイピアスタイルとでも言っておきましょうか。
余った黒泥はその辺の床にでもポイしておきますの。
「へぇー? ああ、なるほど。遠距離戦だと勝ち目ないからって、接近戦に切り替えたいってわけか。可哀想、どっちの結果も同じなのに」
「ふっふっふっ。それがそうとは限りませんの。ただ、その前に一言だけ宣言させていただいてもよろしくて?」
咳払いを二、三回重ねたのち、杖を片手に掲げて声高らかに言い放って差し上げます。
これは宣戦布告などという大それた言葉ではございませんの。
むしろその逆ッ!
みっともなさのお披露目会開催ですのッ!
「三分間だけ待ってくださいましッ!」
「えっ……はぁーッ!?」
ぺこりと頭を下げておきます。
お望みとあらば跪かせていただきますの。命乞いだっていたしますの。
今一番優先すべきなのは、私の考えた作戦を茜とメイドさんに共有する隙を作ることなのです。
今から行うのは三人の連携が必要となります。失敗は許されません。
目と目を合わせれば何となくは意思疎通できますが、確証があるとも思えませんの。
大事な局面だからこそ、キチンと正確に。
そして複製さんの甘ちゃんさにも存分につけ込ませていただくのです。
裏をかくような行動はその後で構いません。
「恥を承知で頭を下げますの。私は相当なおばかさんゆえ、勝ち目など皆目見当もついておりません。
だから、あのお二人にご助言をいただきたく思うのです。どうか時間をくださいまし。この通りですの」
世界の令嬢もビックリな平謝りでしょう。
私のおっきなお胸が重力に従ってブランってしちゃってますの。それくらいの潔さですの。
内心では企みがバレないかと冷や汗モノです。下を向いているのは顔を隠すためですの。
ひっそりと唇の端っこを噛んで、プルプルと震えて怯えを演出いたします。
私は魔法少女ではないですの。
悪の秘密結社の魔装娼女ですの。
そして同じく組織のプロ慰安要員なのです。
お相手の嗜虐心を刺激する術など十も百も身につけております。
それこそ懐に潜り込んで自尊心を柔手で撫でて差し上げることなんて造作もありません。
ほんのちょっぴりとだけ自らを下に下げて、逆にお相手をヨイショして差し上げればあら不思議。
ガチガチに塗り固められていたはずの心鎧に余計なほころびを与えることができるのです。
「……ぷふっ。お姉ちゃんったらホントに滑稽だね。そんで無様だね。
いいよ。無い知恵必死に搾り散らかして、せいぜい無意味な打開策でも見つけ出してきたらいいんじゃないかな?」
「ご配慮感謝いたしますの。それではっ」
へへっ。チョロいもんですのっ。
私にかかればこんなのブランチ前なのです。