いつまで隠れんぼ続けるつもりぃ?
敵地に乗り込む私たちのため、総統さんがごわざわざ用意してくださったモノを覚えていらっしゃいますでしょうか。
ええそうですの。
非戦闘要員であるメイドさんにお預けした、チョーカー型の〝強制転移装置〟のことでございます。
実際に機能するのかどうかは使ってみないと分かりませんが、アレを使えば逃げること自体はさほど苦にはなりませんでしょう。
たしか、使用条件としては〝装着者の身体に触れている必要がある〟でしたっけ?
さすがの私の黒泥でも目眩しや足止めくらいには使えますでしょうし、最悪意地と気合いで何とかしてみせますの。
どうにかして複製さんの攻撃を掻い潜って、部屋の隅っこで待機している茜とメイドさんの元に合流することができれば……!
「そちらはまぁ、何とでもなりましょう」
どちらかといえば、何も成果も挙げられていないこのタイミングで、早々に脱出してしまうのが本当に最善なのか。
そちらのほうが気掛かりなのです。
せめて次戦に役に立つ情報を集めたり、対策を練るきっかけを得ておかないと、逃げたところで不安しか残らないのではありませんこと?
つまりは戦略的撤退の〝戦略〟部分。
複製さん攻略の鍵を見つけ出してからでも遅くはないと思いますの。
「となりますと、やっぱり……っ!」
その鍵はおそらく、ポヨですの。
魔法少女スペキュラーブルーと魔装娼女イービルブルーの戦力差を知っているのですから、きっと彼女の成り立ちやら攻略方法やらもご存知なはずです。
いえ、そうでも思わないと暗い気持ちが押し寄せてきてしまってやってられませんのっ!
「私、絶対にあの子に勝ちたいのです。けれどもこのまま逃げ帰るだけでは、何の状況も変えられないと思ってますの。
だから……ポヨ。アナタも、私たちに着いてきてくださいませんこと?」
『そうしてやりたい気持ちもヤマヤマなんプニが……いかんせん身動きが取れないゆえに、自分ではどうにもならんのプニよ』
「ふぅむ? どういうことですの?」
こちらの姿やら気配やらが感知できているということは、私てっきりどこか俯瞰できるような場所から見守っていらっしゃるのだと思っていたのですけれども。
さっき居場所をはぐらかされてしまったのもその辺が影響していらっしゃったり?
物陰から物陰を移動しつつ、また複製さんの様子を警戒しつつ、小声で訴えかけます。
ポヨの念話受信に集中いたします。
『正直に言うとポヨね。ポヨがどこにいるのか、自分でもあまり詳しく分かっていないのポヨ。
目が覚めてからというもの、ずーっと暗くて身動き一つ取れない狭い場所に、閉じ込められているとしか……』
ふぅむ。つまりは幽閉状態ですか。
再会した頃のプニもそんなようなことを仰っていたような気がいたします。
よくストライキとか起こりませんわね。
しかしこれだけでは情報が足りなすぎるのです。難易度が高すぎますの。下手したら壁の中や床下だってあり得ましてよ。
念話の精度的に近くにいるのは間違いないと仰っておりましたし、もしかすると、このよく分からない機械群のうちの一つに封じ込められていたり……?
しらみ潰しに探している余裕はございませんし。
いつ複製さんに知らぬ間にブチ壊されてもおかしくない状況ですし。
「あの、もう少し詳しいヒントをお持ちではありませんでして?」
私謎解きは苦手ですが、悠長なことはいっていられませんの。脳のシワ隅々を駆使して知恵の一滴を振り絞って差し上げますの。
もっと、もっともっとくださいまし。
私は貪欲でワガママな女なんですの。
アナタも死ぬほど分かっていらっしゃいますでしょう?
『他のヒント、ポヨねぇ……。あ、そうポヨ。どこかにガッチリと固定されているわけではないと思うのポヨ。ついさっきに揺れたり転がったりしたのを感じたポヨから』
「へっ? 揺れたり転がったり、ですの?」
そういえば。
お一つだけ心当たりがございます。
この空間を訪れて初っ端に、スペキュラーさんに背後を取られてしまったときのことです。
私、そのときは足元をよく確認せずに跳ねましたの。確かその際に円柱状の謎機械を蹴っ飛ばしてしまったような気が……ッ!
壁のほうに転がっていったところまでは覚えておりますが、その後は気にも留めておりませんでしたの。
……試してみる価値はありそうですわね。
というよりもそれくらいしかアテがありませんの。下手な動きを晒しても怪しまれてしまうだけでしょうし、一発本番かつ当たればラッキーレベルの気持ちで確認してみましょう。
「ポヨ。もう一度大きな衝撃を感じたらすぐに知らせてくださいまし」
『了解ポヨ』
その件の円柱型の謎機械はといいますと。
物陰からチラチラと確認してみましたところ。
……おうふっ。
不都合なことにスペキュラーブルーさんの真後ろに転がってるじゃありませんの。
まったく色々と試す前から骨が折れそうですわね。
「お姉ちゃあん? いつまで隠れんぼ続けるつもりぃ? そんなのでホントにいいわけぇ?」
ちょうどよく彼女からの挑発も飛んできたことですし。
そろそろ本気の本気を見せて差し上げましょうかッ!