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だったらどうしろって言うんですの!?

 

 絶賛物陰に隠れている最中ですが、隙を見て辺りをキョロキョロと見渡してみます。


 けれどもそれらしい姿は見当たりません。


 私の周囲には身を隠せるくらいの大型の機械と、先ほど蹴っ飛ばしてひっくり返してしまった小型の機械筒と、部屋の中央に鎮座する使用済み調整槽があるのみです。


 それこそ青色の水饅頭なんてどこにも……!



「どこですの!? アナタどこにいらっしゃいますの!?」


『ポヨの声が届いてるってことは多分すぐ近くにいるはずポヨッ! でも今はそんなことどうでもいいポヨよッ!』


「どどどーでもよくなんてないですのっ! 私はアナタに……ポヨにもう一度会うためにっ! ココを訪ねてきたわけでもあるのですからっ!」



 思わずピョコリと首を上げてしまいます。


 やっぱりちゃんと会話が成立しておりますの。


 原理も理屈も何も分かりませんが、ポヨの心の声が直接伝わってきているのでございますっ!


 私、これが幻覚だとは少しも思えませんの。


 ただの勝手な思い込みだとしたら、私の脳はもっと都合の良い回答を選んでいるはずです。


 でも、返ってくるのはわりと辛辣な言葉ばかりなのです。

 むしろ今の状況を十二分に理解している節まで感じられますの。


 それってつまりッ! 今この近くにッ!


 本日の第二目標、ポヨが居るってことに他なりませんわよねッ!?


 そう信じてしまってもよろしいんですのよねッ!?


 

「うーん? お姉ちゃん(オリジナル)? さっきからブツブツうるさいんだけど〜?

そんなに無防備な余裕っ面晒してると――ホントにその辺の機械ごと、光で身体を貫いちゃうかもよ?」


「んひぃっ!? ですのぉッ!?」


 まさに間一髪のことでございました。


 幸か不幸か機械から顔を出せていたからこそ、彼女の攻撃が目に映りましたの。


 こちらに向けて放たれた消滅の光をギリギリのところで避けて差し上げます。


 ああそうでしたの。考えることばかりに気を取られて、回避をおろそかにしてはなりません。一撃を食らってしまえば即アウトなのです。


 ポヨのことももちろん大事ですが、それよりも先に複製さん(あの子)を黙らせなければ物思いに耽ることもできません。



 続けざまに彼女の手のひらから放たれた光が、私の隠れているすぐ真横の機械に円形の穴を穿ちました。おおよそソフトボール大のサイズですの。


 まるで巨大な虫眼鏡で日光を一点に集中させたかのように、照射された箇所が綺麗に焦げて無くなっているのです。


 ホントにもう、消滅の光とやらは発光杖ブレードなんてメではないくらいの危険度ですわね。


 平和のために使うチカラにしてはちょっと度が過ぎておりませんでして!?



 昂ぶる心を落ち着かせて耳を澄ませてみれば、バチバチビリビリといったショート音までもが聞こえてきてしまいます。


 この焦げ臭さと相成って、だいぶ危険な空気を感じてしまいましたの。



「……魔法少女のチカラは、破壊のために使うモノではないと思いますの」


 まず間違いなく公衆の面前やら街中やらで扱っていいものではないでしょう。これでは余計な恐怖ばかりを与えてしまいます。



 私たちが基本的に拳主体で闘ってきた理由もここに通じておりますの。ハタから見たときに乙女らしく映るかどうかが大事だったりするのです。


 強すぎるチカラというのも考えものなんですのっ!



 あの子が明後日の方向を向いているうちに、通路を挟んで反対側に転がり込むようにしてこの場から急いで離れます。


 そうして別の物陰から抗議の意を飛ばしておきますの。



「ちょーっとお父様!? この子を放っておいたら施設も建物も全部メチャメチャにしてしまいましてよ!? それでもよろしいんですの!?」


「ここにあるのは既に役目を終えた設備ばかりだ。壊れたところで最新のモノに切り替えるのみ。

今回の戦闘は屋内籠城戦を見越した演習も兼ねている。多少の損害など最初から問題視さえしていない」


「んっもう! この人も全然お話になりませんのっ!」


 暖簾に腕押し糠に釘っ! お父様に抗議の意っ!


 憤りの気持ちを気合いで呑み込みつつ、機械の端っこから目先だけをちょこんと出して、周囲の様子をこっそりと観察いたします。


 お父様ったら部屋の隅っこで腕を組んで立っていらっしゃいます。


 呑気というよりは絶対的な自信の表れなのでしょう。


 しっかしここは仮にも戦場なんですの。

 さすがに無防備すぎではございませんこと!?


 あれだけ威力とスピードのずば抜けた光攻撃を繰り返していらっしゃるのです。予期せぬ流れ弾だって充分にあり得ますの。


 そのうちに機械がショートして発火して、大爆発が起きてしまう可能性だってゼロではありません。


 といいますか、そこまで安全性に絶対的な自信がお有りなら、うちの茜とメイドさんも守っておいてくださいまし。


 さすがに今回ばかりは背中を気にしていられるだけの余裕はございませんゆえに。


 いかにしてこの場をうまく切り抜けるか、が大きな問題なんですの。


 むしろ勝てる見込みがゼロに等しいのです。


 焦りが先行するばかりで、打開策だって全然思い付けておりませんし。


 苦難のあまり思わず唇を噛んでしまいそうになりましたが、淑女の意地を思い出して留まります。快楽の伴わない自傷行為ほど虚しいモノはございませんからね。


 代わりにすぅっと深呼吸いたします。


 すると、また新たに声が聞こえてまいりました。

 やはり耳というより心に直接響いてくる感じです。



『いいか美麗、よく聞くポヨ。あの子は魔法少女になるべくして造られた完璧な存在ポヨ。適合率だって紛うことなき100%ポヨ』


「ふ、ふぅむぅ……!」


 まるで彼の思い自体がそのまま言葉になって届いているかのような……。


 とっても不思議な感覚ですの。


 これが以前茜が言っていた〝念話〟とかいうモノなのでしょうか。心の通じあった装者と装置の間だけで成立するという例のアレですの。


 まさか自分が、まして一度は自らの手でサヨナラしたポヨの声と、もう一度お話をすることになろうとは……人生ってホントに分かりませんわね。



『あの子は出力も性能も、そもそもが桁外れの値に調整されているポヨ。たとえ全盛期の美麗だって片手で捻り潰されてしまうレベルだポヨね。正直に言ってほとんどお手上げな状況ポヨ』


「むむっ。だったらどうしろって言うんですの!?」


 そんなこと自分でも分かってますの。

 だからこうして必死に足掻いているのではありませんの。



『もはや選択肢は二つしか残されていないポヨ』


 ポヨが静かにお続けなさいます。


 平手で額の汗を拭いつつ、ごくりと息を飲み込みます。

 

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