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私、蒼井美麗、14歳ですの。

 

 









「一一ほら、起きてくださいませ。朝でございます」



 突如として聞こえてきたのは落ち着いた大人の女性の声でした。


 続いてシャッというカーテンレールがまとめてスライドする音。そして瞼の裏に感じる強烈な太陽の光。



「眩っ……!」


 たまらず目を開けてしまいます。


 ぼやけた視界に映ったのは、キリッとした表情でこちらを見つめる、尖りメガネをかけたメイドさんのお顔でした。


「おはようございます。お嬢様」


 背筋の美しいお辞儀でご挨拶してくださいます。


「……ふぁ……おはようございます。もう朝なんですの?」


「はい。今日から学校でございますよ」


 彼女のご年齢は30手前くらいでしょうか。The・大人のお姉さんという雰囲気で、私の幼い頃から何かと身の回りのお世話をしていただいております。


 たまに言動や態度が粗雑になる時もございますが、基本的には真面目で礼儀正しい方です。


 私も存分に懐かせていただいております。


 おはようございます。

 私、蒼井美麗、14歳(・・・)ですの。


 私の一日はこうやって専属のメイドさんに起こされるところから始まるのです。



「もう登校日ですか、億劫ですの……」


 開けられたカーテンの向こう側には満点の青空が広がっており、サンサンと降り注ぐ太陽の光が寝ぼけた私の頭をスッキリさせてくださいます。


 しかし私の心までは晴れさせてはくださいません。


「さぁベッドから降りてください。そんなにノロマに過ごされては朝食が冷めてしまいます」


「えー。昨日までは何から何まで全部やってくださったじゃないですかぁ。部屋に持ってきてくださ」


「それは昨日まで、の話です。今日からはある程度は自分でこなしていただけなければ困ります。学校で恥をかいてしまうのはお嬢様の方なのですよ。このままではお友達に笑われてしまいましょう」


「……お友達なんて、一人もおりませんの」


 確かに今日から登校日なのですが、今回のはいわゆる長期休暇明けのような定期的に訪れるものではございません。


 お休み中は世界一周旅行に行ってましたの、とか、少し見ない間に大人っぽくなったのではありませんの? とかそういった気心の知れた会話はできないのです。



「ですからこれから作るのです! 真新しい学校で!

ほら、うだうだ仰らないで立って、そして顔を洗ってきてください。初日から遅刻してしまっては目も当てられませんよ」


「ふわぁーい、ですの……」


 急かされる理由も分かりますの。

 今日は転校先への初登校日なのですから。


 今日から心機一転、新しい人間関係の中で頑張らなければならないのです。


 というのもお父様のお仕事の都合で今まで住んでいた家は部下の事業所として使うことになってしまいました。とっても広くて綺麗でお気に入りでしたのに。


 当然何の仕事もできない子供の私に居場所なんてものはなく、程なくして別のお家に引っ越すことになりました。


 悲しいことに元住んでいた場所とは距離が離れておりますので通学区も切り替わってしまいます。今までのように通うことは叶いません。


 新しいお家、新しい学校、新しい人間関係……この上なく億劫です。その上大きな問題もございます。



「口を酸っぱくして言わせていただきますが、お嬢様がこれから通うのは一般市民の為の学校なのでございます。

今までの生活様式は通用いたしません。もちろんのこと誰一人としてメイドや執事を連れ歩いているわけではございません。そのゆえに私めが付き添うことも叶いません」


 メイドさんが淡々とお続けなさいます。



「今までのような車での送迎も避けた方がよろしいでしょう。

ですので、これからのお嬢様には一人で何でもできるようになっていただかなくてはなりません。蒼井家の恥晒しとなってしまってはお父様もお悲しみになられましょう」


「はいはい、分かっておりますとも。ですが、そうは言われましてもですね……」


 元より人見知りで引っ込み思案な私が、今更市民の方々の中に溶け込めるとは思えません。


 きっと世間知らずと思われて、素行の悪い方々にお金をせびられてしまうのが関の山なんですの。


 ああ。なんて不幸な私。

 ネガティブな気持ちばかり浮かんできてしまいます。



「悲しみに耽っているところ申し訳ございませんが、そのままベッドに居座られてはシーツを洗うこともできません。早く退いてください」


「うぅ……横暴ですの。イケズぅですの……」


「いよっと!」


「どっひゃあっ!?」


 スッと勢いよく煽られたシーツに合わせ、私の体が宙に浮いてしまいます。ベッドに膝からワンバウンドして、見事床に着地いたしました。


 私はテーブルクロス引きのグラスではございませんの! 運良く立てたからいいとして、怪我をしたらどうするんですか。貴女なんか即刻クビですのよクビ!


あ、でもクビにしてしまっては私の身の回りのお世話をしてくださる方が居なくなってしまいますわね。それは嫌なんですの。一から都合の良い方を探すのは面倒なんですのっ!



「うー。分かりましたの。行けばよろしいんでしょう行けば……ふわぁぁ……ぁふ……」


 幾度となく欠伸を浮かべつつ、私は寝室を後にいたします。朝の身支度、どうしてこんな眠い中急かされなくてはいけないのでしょうか……。




――――――

――――


――




「それではお嬢様。お気を付けていってらっしゃいませ。もちろん学校の場所はお分かりですよね? 着いたらまずは職員室にご挨拶するんですよ。そうしたら後はご担任の方が良いようにしてくださいます」


「ホントにお車での送り迎えはできないんですの……?」 


「お目立ちになりたいのであれば喜んでお送りして差し上げますが」


「ふぅむぅ……」


 身支度を終えた私は、ただ今は玄関先で見送られながら新居を後にしようとしておりました。


 幸か不幸か新居は学校から程遠くない場所を選んでくださいましたので、徒歩で通うこと自体にそこまでの苦労はありませんの。


 それに初日から黒塗りの高級車で登校なんてしたら明らかに浮いてしまいそうです。溶け込むどころか不良の方々に槍玉に挙げられてしまうのがオチなのです。



「うう……急に頭痛と腹痛と腰痛が……」


「何言ってるんですか朝ご飯しっかりおかわりしたくせに。お嬢様は蒼井家の跡取りなのですから! 気をしっかりお持ちになってくださいませ。ドンと胸張って歩くのですよ」


「…………はぁい」


 新品の制服に身を包んだ時は少し心浮かれてしまいましたが、すぐに我に帰りました。


 服で浮かれてしまうほど私の心は甘くないです。


 しかしこうも元気よく送り出されてはもう後に引くことはできませんね。しかし……。初日くらい着いてきてくださってもバチは当たらないと思いますの。


 別にいいじゃないですか。せめて車は無理でもメイド服姿の女性が横を歩いていたって。


 今時メイドなんか珍しいものではございませんでしょう?


 テレビの中で沢山の殿方がメイドさんに群がって、一斉に鼻の下を伸ばしているような光景を、私何度も見たことありますもの。



「はぁ…………行ってきます」


 はいはい分かりましたの。

 私、ついに観念いたしましたの。


 笑顔で手を振るメイドさんに背を向けながら、仕方なくトボトボと歩みを進め始めます。


 5月の生温かい風が私を撫でました。

 言い忘れてましたがすっごい中途半端な季節なのです。


 初登校、職員室、挨拶、授業、友達作り……。いきなりやることがいっぱいあり過ぎて、既に頭がパンクしそうですの。

 

 億劫すぎて足が鉛のように重たいですの……っ。

  


【過去編】始まりましたっ!


お話の都合上エロちっくスケベちっくなパートはだいぶ少なくなってしまいそうですが、ウラ若き美麗ちゃんのまだ何も知らない初々しさと内から湧き出る毒舌さを所々に織り交ぜながら、少しずつお話を進めていきたいと思います!


引き続きよろしくお願いいたしますっ!

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