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消滅の光

 

 早速招き入れた大チャンスですの。

 私だけが自由に動ける接近戦が開幕したのです。


 ふぅむ? というか自ら殴られに行くメリットはマジメに皆無に等しいんですのよね。


 むしろ彼女の手の届かないギリギリの位置から、黒泥製の鞭でビシバシと叩いて差し上げたほうがよろしいのではありませんでして!?


 そうと決まれば即実行ですの。


 ただでさえ私の複製さんなのです。

 キメ細やかなお肌に、ふわっふわの青い衣装を身に纏っていらっしゃるのです。


 そこに赤いミミズ腫れのアクセントを加えて差し上げれば、さぞかし映えることでございしょう。


 むっふふふふふっ!


 ……私にサドっ気がないことだけが残念ですの。


 他の人の痛々しいのを見るのは実はあんまり好きではないのです。自身に向けられたモノであれば多少は興奮できるのですけれども……!


 今回ばかりは仕方ないんですの。


 私たちが、無事に勝利を得るためですもの。



「それではぁ、ご覚悟願いましてよぉ」


 スカートの端っこを少しだけむしり取って、泥状に戻して棒状に伸ばして鞭を生成いたします。


 まずは屈辱感のほうを味わってくださいまし。


 ほらほら、目下だと思っていたオリジナルに、好き勝手に痛め付けられる気分はどんな感じでして?


 今まさに鞭で叩かれて、その生まれたてのお肌に痛々しい傷を刻み付けられてしまうんですのよ?


 ねぇねぇどんな気持ちか私に教えてくださいま――



「よっこいしょっと。へぇ、コレが黒泥ってヤツなんだね。どういう仕組みで動かしてるのかなぁ。案外〝浄化の光〟と同じだったりして」


「んっへっ、はぇぇっ!?」


 彼女のお肌に触れるか否かというタイミングでございました。別に気にも留めていないような顔で、パシリと片手で掴み取られてしまいましたの。


 おまけにそのまま強引に引っ張られてしまい、つい泥鞭を手放して奪われてしまいます。


 けれども反撃タイムにさせてはなりません。


 一瞬で鞭の状態から泥の姿に戻して反撃を防ぎます。それどころか手のひらにまとわりつかせて右腕を使えなくして差し上げますのッ!



 ……ふぅむ? けれども何だか変ですの。


 どうしてここまで一方的に攻撃されているといいますのに、余裕の表情を続けられるのでしょう。


 むしろ至極興味なさげに、もう片方の腕でベタベタ粘液を伸ばしたり縮めたりして感触を確かめなさっているようなのです。



「ふぅーん……なーるほどねぇー」


 まるで粘土でも捏ねるかのように、黒泥が縦にも横にも引き伸ばされていきます。


 ん? え、いや、へぇえっ!?


 それどころか馬鹿力に耐えきれず、軒並みビヨーンからのブチブチィって千切れていっておりませんでしてっ!?


 そのままポイポイと捨てられるならまだしも、魔法少女ホイホイと化していたはずの黒泥が、彼女の手の平の中でどんどんとコネコネされていってませんでしてーッ!?



「う、嘘ですの……私自慢の黒泥が、ただの泥だんごにされちゃってますの……?」


「この物質、魔法少女のチカラになんか変なモノ混ぜて作られてるよね。どおりで気持ち悪い感じがするわけだ」


 まるで至極適当に握られたおにぎりみたいな、拳大の歪な塊にされてしまいました。


 いつの間にか粘性も落ちてしまっているようです。


 ……いえ。それどころかスカートに戻れと念じても全然反応しませんの!


 見た目だけの話じゃないですのっ。

 ほんとにただの泥だんごになっちゃってますのっ。


 複製さんは変わらず訝しげな顔で黒泥塊をじろじろと眺めては……あ、ちょっと!


 興味本位か狙ってかは知りませんが浄化の光を照射し始めないでくださいましッ!


 さすがに当てられても消えて無くなったりはしませんけれどもっ! しばらくの間動きが鈍くなっちゃいますのっ! ただでさえ今だって制御が効いていないんですのに!


 ホントに使い物にならなくなっちゃいますのっ!



「あーッ! ダメですのッ! そんな乱暴に扱ってはメッですのッ! 私の黒泥は人一倍デリケートなんですのッ!」


 適合率をコンマイチでも高めるため、私、先日から少しずつ検証を進めてまいりました。


 茜とも実戦を繰り返して確かめましたの。

 黒泥についておひとつ判明したことがあるのです。


 弱点とまでは言いませんが、どうやら黒泥は連合側の〝強めのチカラ〟をぶつけられてしまうと、一時的に粘性やら操作性が落ちてしまうらしいのです。


 おそらくは元の連合側の技術を流用するだけでは上手くいかず、秘密結社側――つまりは怪人さん方のチカラを無理矢理に混ぜ込むことによって、ようやく操作が可能となった経緯があるからでしょう。


 少なくとも私の魔装娼女のチカラは、純度100%の清いモノではございません。


 ヘタな混じりっ気を含んだ、ある意味では今の私と同じ、酷く中途半端な状態で存在しているモノなのです。


 いえ、だから何だというお話なんですけれどもッ!


 これが私の唯一の武器なのですから、死ぬほど使い倒して完璧に扱えるようにするだけなのです!



「ふぅーん……なるほど、なるほど……」


「何がなるほどなんですの!? 返してくださいまし!」


 焦り顔を見せつつも、私も分析をいたします。

 どうやら複製さんも浄化の光を扱えるみたいですのね……!


 耐性のある私なら正義の光には耐えられましょうが、弊社の怪人さんが彼女の相手をするとなるとかなり分が悪そうです。


 やはり私が、今日この場限りで止めて差し上げませんと。


 彼女は今もなお光を当て続けていらっしゃいます。

 眩い光によって火花が生じておりますの。

 バチリバチリという危なっかしい音が響き渡ります。


 幾度となく手を伸ばして制止を試みましたが、ヒラリとかわされてしまいますの。



 複製さんの手の平から放たれる光が、少しずつ強くなってまいりました。


 汚れを知らぬ純白の光ですの。

 明順応的にもしんどい眩しさになってきましたのッ!


 ですが見た目には変化はなさそうで……いや、なんだか黒泥塊から湯気が出てきてはおりませんでして!?

 


「……ふう。ただの(・・・)浄化の光では消せない、か」


「分かったらさっさと返してくださいましッ! 魔法少女のチカラなんてほとんど効かないってことですの……ってちょっと待ってくださいまし!?

〝ただの〟浄化の光ってアナタ、それどういう――」


「出力最大。消滅の光(・・・・)、照射開始」


「くぅッ!? 眩しッ!?」


 白すぎて……青白く……見えますの……ッ!


 それは、かつて私が使用していた暖光よりもずっと明るく、またイヤになるほど攻撃的な閃光でございました。

 

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