……偽装! - disguise - !
魔法少女スペキュラーブルー。
私の遺伝子情報と戦闘データを元に、イチから造られたアッパークローン。
にわかには信じがたいお話でしたが、こうも簡単に現実を見せつけられてしまっては、今はもう受け入れる他に選択肢はありませんの。
けれども本当に最高最強かどうかについては、まだ確定しているわけではありません。
意地の張り方が下手っぴでお恥ずかしい限りですが、正直なところ生まれたての子羊さんに何ができるというのが本音です。
私だって沢山の辛酸を舐めて、悔しさをバネに鍛練を重ねたことで強くなれたんですの。
そんなポッと出の仮初の肩書きなんて、私自らの手でバッキバキにぶっ壊して差し上げましてよ。
〝元〟魔法少女の、そして〝現〟魔装娼女の実力をナメないでくださいまし。紛い物にすんなりと負けてしまうほど私はか細くはないのでございますッ!
「……ふっふんっ。一つ覚えておいてくださいまし。最高最強ってのは自称するモノではございませんでしてよ。周りから自然に言われるようになってからが本当のスタートですの。
地面に寝っ転がされて空を仰ぎ見て、それからゆっくりとご自分を見つめ直してみたらいかがでして?」
「うふふふっ。確かにそれも面白いかもね。
でも全部事実なんだから仕方ないじゃん?
それじゃあ今からお姉ちゃんを叩きのめしたら信じてもらえる? そうしてアナタが発信元になってよ。伝説の魔法少女 は完全に過去のものと化して、後発の波に流され消え失せたって」
「か、勝手にほざいてなさいましっ」
私の複製さんったら、ずーっと人を小馬鹿にするかのように、ケラケラと腹を抱えて笑っていらっしゃいます。
無邪気さも一周回れば邪気に成りますの。
そうして生まれた過剰な自信は傲慢の始まりですの。
小生意気さは可愛さの域から脱してしまうのです。
まったく憎たらしいったらありゃしないですのっ。
きっと絶対的な自信がお有りなのでしょう。
まるで鏡を見ているかのようですのっ。
それならよろしいですの。やっちゃいますの。
あの寡黙で頑固なお父様が首を縦に振るだけの実力を、私に見せてみてくださいまし。
なるべく頑張っていなして差し上げますゆえに。どんなに痛め付けられても死ぬ気で悪あがきしてみせますの。すっ転んでもタダで起きるつもりはありません。
「…………ふんっ」
……彼女が口先だけではないことなんて、発せられている圧を鑑みれば分かりますの。
正直に言えば……魔法少女としてのポテンシャルは彼女のほうが遥かに優っているのだと感じております。
見た目こそ中学生時代のプリズムブルーとほぼ同じですが、その身に纏う〝正〟のオーラは、それこそ憎たらしい馬男や不死鳥男よりもずっと色濃く溢れさせているのです。
どちらがより優れた魔法少女かなんて、それこそそんなことは言われなくても、ですのっ。
下手したらあの子の適合率は99%か。
はたまた完全なる100%に到達しているか……!
完璧主義者のお父様のことです。
おそらくは後者を実現しなさったのでしょう。
だから私のクローンがカプセルから出られて、地に立つことができて、自ら口を開いていられるのです。
私が元で、彼女が複製なのではなく。
私が失敗作で、彼女が完成品なのだとしたら。
悲しいどころのお話では済みませんわね。
それだけは認めるわけにはいきませんの。
「どうしたのお姉ちゃん。指先、微かに震えてるよ?」
「こ、こんなのただの武者震いですの。黄金の右手が早く暴れさせろと騒いでるだけですのッ」
指摘を受けて気が付いてしまいました。
先ほどから胸のブローチに爪が当たって、カタカタと微かなノイズを鳴らしていたのです。
彼女は、きっと例外なく強いですの。
強さだけなら今まででピカイチですの。
今はギリギリで余裕な態度を装えておりますが、いざ拳をぶつけ合うようになってからは、そうはいかないと思われます。
それくらい私の中のイヤな予感がビンビンと暴れ回っているのでございます……っ!
「……いえ、震えてるからなんだというのです。逆境を跳ね返してこその蒼井美麗ですの。苦難も挫折を知らないお子さまに、この私が背中を見せるわけがありませんでしょう」
魔法少女としての完成度が、イコールで戦闘力の高さになるわけではありませんのッ!
戦闘の中で編み出してきたスタイルは私だけのモノですの!
思考回路の方向も、作戦の立て方でさえも!
簡単にコピーできたり上位互換化できるモノではございませんッ!
であればまだ、この私にも複製ちゃんに勝てるだけの手段が残されていると言えましょう。
真正面からぶつかるだけの単調さは、魔装娼女の辞書には載っていないのでございます。
それにもう一つ。
恐れが絶望までには至っていない、決定的な点があるのです。
あくまでかなり強いってだけのお話ですの。
弊社の総統さんほどの恐怖はございません。
ちょっと相対しただけで膝が震えて身体が一ミリも動かせなくなるような絶対的恐怖には、片足さえも突っ込めていないのでございます。
つまりは〝所詮、最強の魔法少女レベル〟ということですの。
自分で言ってて悲しくなりますけれども。
「御託はいいからさ。さっさと始めようよ。プリズムブルーが負けてスペキュラーブルーが勝つ、ただそれだけを決定ための試合を」
腕を突き出して指をクイクイと折り曲げて、私に挑発を向けてきなさいます。
よろしいでしょう。その喧嘩、買ってやろうじゃありませんの。馬鹿にされ続けるのにも飽きてきたところでしてよ。
「ふっふんっ。おあいにく私はもうプリズムブルーのチカラは扱えませんの。ゆえにアナタを叩きのめすのはこの偽りの艶姿で、ですのッ。せいぜいお見惚れあそばしなさいましッ」
胸のブローチを手のひらに食い込ませます。
尖った部分が痛いですの。
されど気にせず強く、気高く、そして大胆に!
いつもは口の中で静かに呟くだけですけれども。
今回くらいは声高らかに宣言させてくださいまし。
「……偽装! - disguise - !」
魔装娼女イービルブルーの変身文句を、ですの。