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アナタを超える最高最強の

 

 ほんの少しだけ開けた場所に出られました。


 空間の中央には巨大なカプセルが設置されておりましたの。


 天井から吊るされたスポットライトに照らされておりまして、ここが話にあった研究室なのだと肌で実感いたします。


 あのカプセル……なんだかデジャヴ感がございますのよね。私が結社のアジトで利用させていただいた〝洗脳補助装置〟を彷彿とさせますの。


 半透明の液体で満たされているようです。

 ドロドロ感もゲチョゲチョ感もほとんど同じですの。


 中に研究用の生物が入っていてもおかしくなさそうですが……しかしながら完全に空っぽな状態なのでございます。


 新品未使用というよりは、どちらかといえば既に役目を終えて使われなくなったさまを感じ取ってしまいます。


 上手いこと言葉に表せませんけれども。


 さっきから私の脳天アホ毛センサーがビンビンに反応しているのです。わりと黄色とオレンジの中間色な危険アラートを発しておりますの。



「あの。もしやこの装置で私のクローンを?」


「そうだ。この中で培養し、成長させ、そしてつい先日に最終調整を終えた」


「すこぶるタイムリーなお話ですわね……。にしても試験管ベイビーならぬ、カプセルベイビーということですか。なんとまぁお気の毒なことで」


 クローンさんの心中をお察しすることはできませんが、人の温もりを一切知らずに大きくなるのは、きっと悲しいことだと思いますの。


 私自身、母親の温もりをほとんど知らないままに生きてまいりました。その代わり、幼い頃から今日に至るまで、メイドさんからずっと献身的な愛をいただいてきましたけれども。


 地の底の沼にこの身をどっぷりと沈めて穢したとしても、心の根幹部分は少しも変わっていないのは、そうした周りの皆さまからいただいた温もりが私の源となっているからだと自負しております。


 だからこそ! 愛する人たちの為ならと己の身体や拳を傷付けたとしても何とか耐えてこられたのです!


 心を痛め付けるよりは何千倍もマシでしたの。

 この行為自体が是か非かは置いておきまして。



 対する私の複製体さんは何を得て大きくなられたのでしょうか。またその心に何を思って、魔法少女として拳を振るおうと思われるのでしょうか。


 最強の存在になる為だけに造られた魔法少女は、どんな理由を持って魔法少女をお続けになるのか……。


 連合の依怗の為に勝手に造られて、研究者の業の為に無闇矢鱈に急成長させられて……。


 それは果たして、誰の意志なのでございましょう。



 考えてみると少しゾッとしてしまう内容ですわよね。


 複製の製造過程についてはあんまり深掘りするべきではないのかもしれません。想像の余地を出ませんし。


 開かずの間を無理やりこじ開けても、良い結果が待っているとも限らないのです。


 話を脇道にそらしてしまいました。

 少しばかり路線を戻させていただきましょうか。



「それで、そのクローンさんとやらはどちらに?」


 気を取り直して、お父様に新たな質問を向けようとした――




「――もうアナタの後ろにいるんだよ? お姉ちゃん(オリジナル )


「「「ッ!?」」」



 ちょうど、そのときでございました。


 突如として背後にヒトの気配を感じてしまい、思わず前方に跳び退いてしまいます。


 本当に咄嗟のことでしたから着地点の確認など完全に二の次でしたの。


 足元に転がっていた円柱状の謎機械を蹴っ飛ばしてしまいました。勢い余ってゴロゴロと壁へ激突させてしまったくらいなのです。


 高価な代物でしたらすみませんの。

 壊れても弁償は致しませんので悪しからず。


 一呼吸置いてから改めて周囲を見渡し直します。


 茜はメイドさんを庇うように、私と同じように一、二歩程度下がって警戒してくださっているようでした。


 いつでも変身できるようにドレスの内側に忍ばせたプニをニギニギとしていらっしゃいます。抜け目がない様子に一安心いたします。


 けれどもちょっとばかり引っかかりますわね。


 非戦闘員のメイドさんならともかく、注意のアンテナをビンビンに張っていた私や茜でさえも、その接近を一ミリも感知できなかったなんて異例中の依頼ですの。


 まして茜はあの幻術使いのキュウビさんの待ち伏せにも気付いてみせた子なんでしてよ?


 それだというのに、今回は完全に不意を突かれてしまったということは……!


 明らかに強敵間違いなしってことなんですの。



「ちょっと今の方! どこに消えまして! さっさと姿を現しなさいまし!」


 既に元の位置にその姿はございませんでした。


 気配自体は今も残っております。殺気とも闘気とも異なった、普通にしていても身がこわばってしまうようなこの悪寒は、いったい何だっていうんですの……ッ!?


 せめてもの抵抗として、私も胸に手を翳していつでも変身できるように身構えておきますの。



「ねぇ。どこを見ているの? ここにいるよ?」


「「くっ!」」


 声のした方向に首を向けてみれば、いつのまにかその人物はカプセルの目の前まで移動していたようなのです。


 スポットライトに照らされて影が色濃く出ているせいか、とんでもなく異常な存在に思えてなりません。


 溢れんばかりのオーラをただ愚直に身に纏うのではなく、あえてその気を隠して、忍び込んで背後で嘲笑えるだけの余裕を持った、強者中の強者……ッ!


 その人物の姿がようやくこの瞳に映ります。



 それは、一人の少女でございました。

 くすくすと無邪気そうに笑みを零していらっしゃいます。



「……うそ……ホントに……わた、くし……!?」


 まるで鏡でも見ているのではないかというぐらいに、私ソックリな少女が立っているのでございます……ッ!


 思わず全身に鳥肌が立ってしまいましたの。

 そしてこの目を疑ってしまいましたの。


 だって、だってだってだって……っ!



「はぇーっ! マジメにドッペルゲンガーも裸足で逃げ出すレベルのソックリさんですのーっ! ガチめに最新技術ってハンパないですのーっ!」


 今の私を少しだけ幼くしたような、それこそ中学生くらいのときの〝プリズムブルー〟がすぐ目の前に存在しているのでございます。


 背丈や体型や髪色、それに不敵で余裕そうな微笑みまで、何から何まであの頃の私と瓜二つな見た目をしているんですの。


 この光景に驚かなければいつに驚けと仰るのでしょう。


 あえて過去の私と異なる点を捻り出すとしたら、胸のブローチを始め、着ている衣装のデザインが少しだけ異なっていることくらいでしょうか。


 まるで魔法少女の姿で居続けることがデフォルトで、元の姿……つまりは変身解除という概念が存在していないかのような……。


 そんな現実味の無い一体感を感じ取ってしまったのです。



 目の前の少女が静かに口を開きます。



「こんにちはお姉ちゃん(オリジナル )。私の名前はスペキュラーブルー。アナタを元に生み出された――そして、アナタを超える最高最強の魔法少女です」


 ただし。発せられたその丁寧な口調とは裏腹に。


 それは吹雪のように冷たくて、更には一切の優しさや慈悲を感じることのできない……思わず息が詰まってしまうような無機質な声でございました。


 背筋にイヤなものが走ります。


 胸のブローチをより一層強く握り締め直しますの。

 

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