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クローンだかクロワッサンだか存じ上げませんが

 

 どうしてアナタはそうやって、自分の物言いを相手に投げ付けることしかなさらないのでしょう。


 私の心ばかりの要望に、少しは耳を傾けてくださってもよろしいのではありませんでして?


 言い表しようのない苛立ちを堪えつつ、あくまで落ち着きを装ったまま淡々と言葉を続けさせていただきます。



「お父様。一言だけ物申させていただきますの。

もし私がその複製とやらを完膚なきまでに叩きのめせたのなら、こんな馬鹿げた試みなど金輪際廃止にしてくださいまし。そして、二度と私たちに手を出さないことをお約束くださいまし」


「いいだろう。お前が勝てたらの話だがな」


 よろしいですの。たった今この耳でしかと聞き受けましたからね。貴方も組織のトップという立場なのですから、男に二言はありませんでしてよ。


 俄然やる気が出てまいりましたの。まだ見ぬそのクローンとやらの鼻っ面、バッキバキにへし折って差し上げますからそのおつもりでどうぞ。


 勝手に人のクローンを作るだなんて禁忌中の禁忌、そのまま放っておけるわけがありません。



「……絶対、刺し違えてでも止めて差し上げますの。三日三晩でも一週間でも一ヶ月でも、絶対に悪あがきし続けてやりますの。私がギブと言うまで絶対に終わらせませんの。それでもよろしくて?」


「フン」


 あ。今お父様も鼻で笑いましたわね?

 その態度、肯定の意と受け取って差し上げましてよ。


 ボッコボコにしてやりますの。


 やっぱりこういう流れになってしまうんですのね。

 けれども拳で解決するのが私たち流の作法ですの。


 お洒落なドレスや美辞麗句なんてモノは一切必要なかったのです。


 うっすらと分かっておりましたでしょう?

 そしてコレを求めていらしたのでしょう!?


 血で血を洗うバトルオンステージですの。


 私としてもそろそろ手加減無しにチカラを爆発させたいと思っていたところなのです。


 思い返してみてくださいまし。キュウビさんとの戦闘だって、基本は茜がメインを担当しなさっておりましたからね。


 私はあくまで補助的な立ち位置でしかありませんでしたの。終盤なんて分身体をコチョコチョくすぐるくらいしかお仕事がありませんでしたし。


 疲労感も多少は残っておりますが、その辺は気合いと根性でカバーすることもできましょう。


 というわけで改めてキッと睨み付けて差し上げます。

 いつでもヤレますわよ。心算はできてますのッ!



 お父様が無言で立ち上がられました。


 私を一瞥することもなく、出口のほうに足を進ませなさいます。



「ならば、ついて来い。地下にその設備がある」


 そのままお一人で社長室を出てしまわれました。

 バタリというドアの閉まる音だけが辺りに虚しく響き渡ります。


 ……ポツンとお部屋に残されてしまいましたの。



「……ああもう! あの人ホントに何なんですのッ!? 言われなくったって着いていくしかできないですのッ! 絶対目に物見せて差し上げますのッ! せいぜいエレベーターの中で驚く準備でもしておけばよろしいのですーッ!」


 閉じられたドアに向けて高らかに叫んで差し上げます。


 悲しくも虚しくも、私の声もまた社長室に響き渡るだけでございました。


 独り拳を握り締め直します。こうなったら意地でもお父様を振り向かせてやりますの。


 ポッと出のクローンなんかではなく、目の前に居る本物をその瞳にガッツリと焼き付けて差し上げるのです。


 そうでもしないと私の気が済みません。



「ほーらメイドさんも茜も! 何を呆気に取られてますの!? 突っ立ってないでさっさとあの背中を追いますわよ!」


「う、うん……。いやー、美麗ちゃんのお父さんって、なんだかすっごくおカタそうな人なんだね……」


「おカタそうではありませんの。実際頭ガッチガチの頑固者そのものですのッ! これだから直談判しに来るのが億劫だったのでございますッ!」


 人の上に立つ立場として、威厳溢れる様子といえば聞こえはよろしいのでしょう。実際、その身からは多大なる畏怖とカリスマ性を感じられてしまいます。


 私だってお父様のことを少しも尊敬していないわけではありません。


 ただでさえその頭脳と手腕を駆使して、たったの一代で莫大な富をお築きなさった方なのです。並大抵の努力では勝ち得ることはできなかったでしょう。


 彼の人一倍の頑張りが無ければ、娘の私だってお嬢様扱いなんてされなかったはずです。


 毎日のように内外から迫ってくる重圧を思えば、そして財閥のトップというキツい立場を思えば、ああやって他人に頼らないスタイルを確立させてしまったのも分からないでもありません。



「これは一筋縄ではいきませんわよ。ポヨをコッソリ見つけ出すとか内部から引っ掻き回すとか、もはやそういうみみっちい問題では収まりませんの。元プリズムブルーの威厳を賭けた、現役イービルブルーの意地を賭けた全力の抵抗意思表示なんですのッ!」


「そのことで、お嬢様。私めからお一つ……」


「ふぅむ!? 何ですのッ!?」


 発言を許しますの! けれども早くあの背中を追わないと、それはそれで怪しまれてしまいましてよ?

 もしくはビビってると思われてしまいましてよ!?


 実力も見られずにナメられるのだけは嫌ですの。

 負けず嫌いさはあの父親譲りなんですのッ!


 しかしながら私は他人の意見を柔軟に聞き入れられるだけの良心も持ち合わせております。


 寛大かつ慈悲深い心を持つ最上級の淑女ですの。


 ですからメイドさんのご発言を許可いたしましてよっ。なるべく巻き目にお願いいたしますのっ。



 メイドさんにズイズイと駆け寄ります。

 そうしてキラッキラな瞳で見つめて差し上げます。



「お嬢様のクローン体が過去の戦闘データを元にして調整されているということは、おそらくはポヨ様のバックアップデータも近くに(・・・)保管されている(・・・・・・・)という可能性は、考えられませんか?」


「はぇぁっ!? メイドさんってば天才でしてっ!?」


 そうであるならばっ。

 尚更地下に向かうべき理由になりますのよねっ。


 今日の第一の目的が〝お父様からノータッチの言質を確保する〟こと、そして第二の目的が〝ポヨを見つけ出してあの頃の真意を問い正す〟ことなのです。


 両方ともクリアできるのであればそれに越したことはございません。


 万がイチ……いえ、億がイチにお父様の首を縦に振らせることができなかったとしても、ポヨの首根っこを鷲掴みしてその口を割らせることさえできれば御の字です。


 少しは総統さんにも良い報告ができるというものです。


 おっけーですの。状況を再確認できましたの。



「クローンだかクロワッサンだか存じ上げませんが、所詮は私のコピーでしかありません。原本に勝る複製などあってたまるモノですか。ええ、絶対に……絶対にですのッ!」


 私の天性のセンスを真似できるモノならどうぞやってみてくださいまし。


 ……ただ、〝偽装変身(魔装娼女)〟のチカラもまた、プリズムブルーの変身技術を模倣したモノであるという現実もございます。


 ですからあくまで今からぶつけるのは蒼井美麗の実力ですの。


 仮初のチカラに縋りつくようになってしまったら、それこそこの身体の隅々まで満ちる自信にも、ほんの少しの揺らぎを生じさせてしまうかのような。


 そんな不安がよぎってしまったのは偶然でしょうか。


 一抹の不安を全て拭い去ることはできません。



「……絶対何とかなりますの。いえ、私が何とかするのです」



 大きく深呼吸をしてから、改めてお父様が待っていらっしゃるであろうエレベーターホールに戻ります。

 



――――――

――――


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