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鏡写しの虚像

 

「そんなときだったよ。お前らが姿を消したとの連絡が届いたのはな。

一夜にしてプリズムレッドの脳波データを得られなくなっただけでなく、プリズムブルーの戦闘データも取ることができなくなったわけだ。……研究には相当な痛手だった。

すぐさま捜索に走らせたが、お前も知ってのとおり、ここ最近まで痕跡の一つ見つけることは叶わなかった」


「結社の皆さまに匿っていただいておりましたもの。スーパースペシャル秘蔵っ子になっていたのでございます」


 この国の地下の奥深く、結社のアジトでしっぽりと三年以上の月日を過ごさせていただきました。


 あのまま地上で悪あがきを続けていては命の保証がありませんでしたからね。さすがの私だって静かに身を潜めることしかできませんでしたの。


 連合直下の病院設備をメチャメチャにぶっ壊させていただいて、更には入院中だった茜を連れてから地上を後にいたしました。


 総統さんたちが颯爽と駆け付けてくださらなければ、きっと今頃は……っ。


 弊社の実力を垣間見れた瞬間でもございましたの。


 

 っていうか、私にこれでもかと言うくらいに戦闘を強要していたのはお父様だったんですのよね?


 そのよく分からない研究データとやらを集める為に。


 だというのに最後には私やメイドさんを痛め付けるようにご指示なさったんでして!?


 かなり度が過ぎていたと思いますの。私たちだって完璧超人ではございませんのよ。ただのか弱い女の子たちだったのです。


 追い込まれすぎて鬱になりかけてましたの。


 全てを片手間に解決できるほど、私は優れた魔法少女ではなかったのでございます。


 比較的余裕があるときも、逆に超絶疲労困憊していたときも、どんなときだって常に全力で立ち向かうしかできない不ような器用な子で……。

 


 ……でも、私自身の過去の課題よりも。

 もっとずっと引っかかることもありますの。


 身を隠した後も、貴方は研究の進退をご心配なさっていたんですのよね?



 ……私たちの安否では、なく。



 呆れて言葉を失ってしまいます。

 愛とは何かを考えてしまいますの。


 蒼井家の一人娘としてもっとまっすぐに貪欲にアピールしていたら、きっとこんなことには……。


 けれども自身を押し殺すような生き方は、何度生まれ変わったとしても選ぶことはできなかったでしょうし……!



 やっぱり私自らが〝間違いは間違いなのだ〟と示して差し上げなければならない気がいたします。

 

 己の行いは棚に上げさせていただきますけれども。

 別に誰にも迷惑掛けておりませんしっ。


 お父様が更にお続けなさいます。



「しばらくして、俺は路線の変更を余儀なくされた。魔法少女の〝起因〟を探るのではなく、強大なチカラを持つ魔法少女を〝再現〟し、更に適度な改良を加えることで〝最高〟の魔法少女を作り出すほうにシフトすることになった」


 ふぅむ。コレは分からないでもないですの。


 実際問題、100万人に1人の逸材なプリズムレッドと、持ち前のセンスだけで駆け上がったプリズムブルーがほぼ同時に居なくなってしまったんですものね。


 連合側だって相当な痛手だったと思いますの。少しでも穴埋めできれば御の字で、完全な代わりを見つけるなど容易ではなかったことでしょう。


 ともなれば、私たちの再現を試みられたのも分からないでもありません。



「幸いにもサンプルとなるデータは大量にあった。魔法少女プリズムブルー自身から得たモノがな。

プロトモックの制作から本仕様の着手に至るまで、そこまでの時間は掛からなかった。倫理的な問題も、国を挙げての極秘プロジェクトだったゆえに、最初から議題に挙げられることさえなかった」


 はぇ……? 倫理、でして?


 このタイミングで、先ほどキュウビさんに言われた倫理という言葉が出てまいりますの?


 私たちの再現に、倫理問題が伴うとなりますと。


 学術的な世界からは中学生後期でサヨナラした私ではございますが、一つだけ思い当たるワードがございます。


 生物の複製品をつくる遺伝子技術(・・・・・)



 まさか、人間自体のクローンに手をお出しなさいましたの!?


 人体改造を行なっている秘密結社が物申せるお話ではございませんけれども!


 ヒーロー連合がそんな禁忌紛いな行為に手を出したんですの!?


 さすがの私もドン引きいたしましてよ!?



「ここまで言えば、さすがのお前でも分かるだろう。お前を屋敷に招き入れたのは他でもない。お前という元データを使って、〝完成品〟の出来栄えを最終確認をすることだ」


「完成品、ですって……?」


「その名も〝魔法少女スペキュラーブルー〟。蒼井美麗の遺伝子を元に複製強化された完全なる上位互換(アッパークローン)だ。あくまで鏡写しの虚像、されども本像よりも圧倒的に輝きを増した真なる存在。

極限にまで魔法少女の適正を高めた、また魔法少女になる為だけに作り出された叡智の極み」


「何とまた哀れな試みを……!」


 実の娘の複製体を、実の娘に黙って生み出すなんて、ましてより高い適合率を叩き出すためだけに外部から都合よく弄り回して調整を加えただなんて、そんな、そんな……そんな非合法極まりないコト……!


 遺伝子組み換えのじゃがいもよりも、悪の秘密結社の身体改造よりも、ずっとずっと業の深い行為に相違ありません。


 叡智の極みなんかではなく、人間の依怗の塊ですの。


 さすがの私でも絶句の嵐なのです。

 思わず血の気が引いてしまいました。


 むしろドン引きしすぎて卒倒しそうなくらいなのです。



「美麗。スペキュラーブルーと戦え。それが今のお前に課せられた使命だ。拒否権は無い。また手をを抜くことも許さん」


「ちょ、ちょっと待ってくださいまし! いきなり言われたって心の整理ができるわけないじゃないですの! そんなクローンって、私のクローンなんてっ!」


 動揺で心臓がひっくり返ってしまいそうなくらいです。


 私も悪の秘密結社の慰安要員なんていう非現実の真っ只中にいるような女ですの。ここまで来たらちょっとやそっとのことでは動じないと思っておりました。


 けれどもさすがに今回ばかりは無理でしょう!?


 どうして自分自身のクローンが勝手に作られていたことを知って、ああはいはい凄いですのーカッコイイですのー技術の最先端ですのーけれども片手でブッ倒しますのー、なぁんて軽く聞き流すことができまして!?


 恐怖どころのお話ではございませんの。


 しかも今から直接会って、おまけに戦ってみろ、と!?


 お父様は正真正銘のバカなんですの!?


 人の心をどこに忘れてきなさいましてッ!?

 もしやお母様の眠るお墓の中でしてッ!?


 ため息さえ零れてはきませんでした。

 私自身、感覚が麻痺してしまっているようです。



「……ほーんと。昔っから何も変わっておりませんの」


 心の声が、ついつい表に出てきてしまいます。


 

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