驚きのあまり腰を抜かして
「魔法少女は、正義と純心のプロモーションとして、打ってつけの存在だったのだ」
お父様が呟くようにお続けなさいます。
「選ばれし者のみが手にすることの出来る、圧倒的かつ絶対的な――魔法少女のチカラ。
初めこそ無益な投資と割り切っていたが、関連する事業が軌道に乗り始めてからというもの、その存在は決して無視できない糧と化していった」
……えっと、その、あのう。
お父様ったらいきなり何のお話をなさっていらっしゃいまして?
私の〝縁切り〟と関係があるんですの?
さすがに無視を決め込まれ続けると怒ってしまいますのよ。魔装娼女に変身して暴れ回りますわよ。監視の目もございませんし。
とは思ってしまったのですけれども。
「才能ある人材が、つまりは新たな魔法少女が見つかるうちはいい。けれどもいつかは頭打ちとなってしまう恐れがあった。また、日夜増え続ける凶悪犯罪の数々に、形勢が逆転し始めるのも時間の問題だった」
せっかくのお話の腰を折るのもよろしくないと思いましたの。どこかにお父様の伝えたいメッセージが隠れているのかもしれません。
とりあえずは黙って最後まで聞いてみましょうか。必要に応じて補足の思考を挟んでおきますゆえに。
今からスーパーリスニング美麗になりましてよ。
勤勉な学生だった頃を思い出すのです。
というわけで、お父様がお続けなさいます。
魔法少女の人材不足に陥りなさいまして。
それから、それから……。
「世に生きる一人一人の適正を調べていくのでは、とてもではないが時間も設備も足りていなかった。
そこで生まれたのが変身装置自身に適合者を見つけ出させるシステムだ。自立型AIを搭載して、自らも最も波長の合った者に変身のチカラを授け、そして自力で才を磨かせていく。
蕾の段階から発掘できるのが画期的だった。
……だから、娘に魔法少女の才があっったと聞いたときには、心底驚愕したものだ。灯台下暗しもいいところだったと、な」
ここでようやく私の目を見て話してくださいました。
私の意外性を褒めてくださるのかと思いましたのに。その瞳には暖かな色は一ミリも込められていないように見えましたの。
愛やら優しさやら、そういった温もりの類いは少しも感じられなかったのでございます。
外見では有能そうに見えた道具が、実は使い勝手の悪いだけのデクの棒だったかのような。
視線から察するには限界がございますけれども、何故だかそんな気がしてなりませんでした。
「……残念ながら、お前には求められるだけの才はなかった。せいぜい可か良までのレベルであって、決して優や秀に至るまでのものは備わっていなかったのだ」
う、うっせーですのっ。わわわ私の輝かしい初変身エピソードを貶すんじゃねーですのっ。
トマト怪人の一撃を耐える為に、気合いだけで変身してみせたのです。70%は必要だった適合率もギリギリの62%でクリアして差し上げましたの。
むしろそれだけで充分でしょう!?
それどころか最後のほうは90%を超えられているのです!
才能の大小よりも成長率を買ってくださいまし。私だって頑張ってたんですのっ!
お父様がため息を吐きながらお言葉をお続けなさいます。
「一つ幸いだったのは、実の娘なだけあって、お前の生体データが多数手元に残っていたということだ。血液型、思考回路、喜怒哀楽基準はおろか、遺伝子や筋組織の鍛練具合に至るまで、有りとあらゆる項目の情報がデータ化してあったのだ」
うっへぇ。確かに幼い頃から過保護気味に健康診断に駆り出されていたような気がいたしますが、それは愛ゆえの調査ではございませんでしたの?
疾病にいち早く気付くための行動ではなかったのでして?
身体の中身を地味ぃに弄り回していただいている私が言うのも実に変な話ですが、ある種の気持ち悪さを感じてしまいましたの。
経営者である前に研究者だったんでして!?
完全に初耳でしたの。驚きのあまり腰を抜かしてすってんころりんしかけますの。
「俺は変身装置に戦闘データを記録するように命令していた。内外から得られる情報を元に、強靭な魔法少女の〝条件〟を判明させていったのだ。
その過程で生まれたのが〝簡易変身〟の技術だ。当初は使い物にならないシロモノだったが、今ではもう、ある程度の条件さえ満たしていれば、ほとんど誰しもが魔法少女になれるレベルにまで技術を昇華させられている」
ふぅむ。過去の話から段々と現代に近付いてまいりましたの。やっぱりどこかにメッセージが込められているに違いないですの。
ガッチリバッチリと考察して差し上げましてよ。
簡易変身となりますと、きっと花園さんや翠さんたちのような後輩ちゃん魔法少女のことを指しておりますのよね?
プニやポヨのような変身装置を必要としない、次世代の魔法少女さんの技術ですの。
私たち旧世代が引退している今、あの子たちこそが世の中を守ってくださっている存在なのです。
よかったではありませんの。
稀有な存在がより身近な存在となれたのであれば、より一層私たちのような悲しき定命を背負う〝才ある者〟が不要となる……そんな世の中も実現できるのではありませんでして?
ほら、誰にでもなれるのであれば、もう一人で抱え込む必要だってなくなりますの。
どうぞお好きに、そしてご安全に警備のローテーションをしてくださいまし。
私は蚊帳の外からねっとりと見守っておりますから。
……けれども、やっぱりお父様の顔からは険しさが取れませんわね。安堵の一つでも見せてくださればよろしいですのに。
まーだどこかに不満があるらしいのです。
彼が酷く淡々と言葉をお続けなさいます。
ほんのりと悲しそうなお顔をなさっておりますの。
「――だが、誰にでもなれる普通の魔法少女には大した価値はなかった。あくまでヒトより強いというだけで、そこまでの能力を有することはできなかったからだ。
ゆえに俺は更なる研究と投資に没頭していった。絶対的な能力を有する魔法少女を、世の中の秩序をその手でコントロールできるような存在を、人力で生み出すことはできないのか、と。研究は苦難を重ねた」
更にお続けなさいます。
祝! 300ページ!
皆さまに愛されてここまで来ちゃいました。
引き続き美麗ちゃんの物語を
お楽しみくださいませ!