表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

289/399

慰安要員の腕の見せどころですわね

 

 よく見てみればレッドの放った杖はリムジン手前の何もない()に突き刺さっておりました。


 勢いのせいかグンニャリとひしゃげて、先のほうなんかは見えなくなってしまっておりますの。


 杖の周りの空間がじわりじわりと歪んでいきます。


 少しずつその姿が露わとなっていきました。



「ほう。ただのウツケではありんせんか」



 私の黒泥針を防いだ最初と同じように、無傷の狐面女が立っていたのでございます。


 澄ました顔でお面を後頭部に当てがいなさっております。 


 幻術とやらを頻発させて疲れさせる作戦でしたが……見た感じではあんまり効果がなかったようですわね。


 息を切らした私とは根本的に真逆ですの。


 ……正直、骨折り損みが深いのです。

 へこへこのへこ美麗ちゃん誕生ですの。


 冗談を思い浮かべられるくらいには体力回復いたしました。まだまだ継戦できましてよ。


 私たちをあんまり舐めないでくださいまし。



「しっかし気付くのが少々遅いんではありんして?」


 どうやら奴は傘の柄を使って防いだらしく、振り払われて地に落ちた杖が、チリチリと光の粒になっては消えていきました。


 紅の和傘を肩に担いで、余裕の表情をしております。


 これではまだまだ物足りないと。

 もっと楽しませておくんなましと言わんばかりに。



「ふん。べっつにー? しらみ潰しに試してるうちに時間が経っちゃっただけ。……でも、今度は逃さないよ」


 すかさずレッドが新たな杖を再形成なさいます。

 お次はいつもの刀剣タイプみたいですの。


 取り回しやすく振り回しやすい、この子の一番使い慣れているサイズです。


 ということは、今度の狙いは接近戦でしょうか。


 これでもかと言わんばかりに身を低くお構えなさいます。



「ってなわけでブルーちゃん。分身体ソイツらのほうは頼んだよ! そんで出来るだけ引っ掻き回してもらえると助かる!」


「おっけ了解で……ってマジでしてーっ!?」



 分身体の間を縫うようにして、茜が包囲網から抜け出しなさいました!


 いや、さすがの身のこなしなのは相棒としてとても頼もしい限りですけれども!


 問題なのは残された私側のほうです。


 一人で四人を相手にするだけでわりとヒィヒィ言っておりましたのに、このタイミングで倍に増えてしまいますのっ!?


 コレ、四面楚歌ならぬ八面楚歌ではございませんこと!?


 ……しかしながら、ですのっ!



「やるしかないなら、やるしかないですの」


 ほら、私ってば天才のテンちゃんですからね。

 自画自賛してないとやってられねぇですのッ!



「了解ですのッ! そちらこそ、ちゃーんとキメてくださらないと怒りましてよッ!」


「おっけ大丈夫ッ! 任せてッ!」


 もはや振り返るようなこともなさいません。

 それで構わないのです。

 お互いに背中を預け合っているんですもの。


 それぞれの務めを果たすだけなのです。



「というわけで、八方にいらっしゃる分身体の皆さま方。各々のお好きなタイミングで掛かってきなさいまし。私は逃げも隠れもいたしませんでしてよ」


 黒泥製の長杖をくるりくるくると回して、新体操のリボンのように扱います。


 そもそものお話、魅せるイリュージョンプレイは魔装娼女の専売特許です。それをポッと出のよく分からない狐面女なんかに譲って差し上げるものですか。


 杖を構えて軽く挑発して差し上げます。


 最終ラウンドのゴングが今、私の頭の中で叩き鳴らされました。


 これを乗り越えられたら今日は気持ち良く邁進できるような気がするのです。


 握りしめる手にも力が入ります。



「ふぅむん? 何か仰ったらいかがでして?」


「「「…………ッ」」」


「なるほど、実は言い返せる余裕がない、と」


 敵さんは意外なほどに静かでございました。


 もしかしたら本体側がレッドの対処で忙しくて、私のほうにまでは気を回す余裕がないのかもしれません。


 これなら案外楽勝かもですわね。


 無機質な表情を顔に貼り付けたまま、一斉に私のほうに突っ込んできなさいます!


 さすがの疲れた私でも、単調すぎる攻撃を真っ正面から喰らって差し上げるほど! 甘くはないつもりでしてよっ!


 けれどもあえて反撃は加えませんの!

 ただただかわすだけなのです!



 私の役目はあくまで揺動ですの。


 無闇矢鱈に分身体を攻撃して消滅させてしまっては、本体側の負荷を軽減させることに繋がってしまうかもしれません。


 付かず離れず、ただ攻撃をいなして差し上げるのみですの。それを続けるだけで茜が楽になるのです。


 やれることといえば、途中途中で動作の途中でせいぜい足を引っ掛けて転ばせるか、黒泥を纏わり付かせて身動きを取れなくして差し上げるくらいでしょうか。


 掻き乱せるのは髪ばかりではありません。



 あ、そうですの。

 私ったらイイことを思い付きましたの。


 この際ですから全員の四肢を等しく地面に磔にして、その状態で背中や腋の下や足裏をくすぐって差し上げましょう。


 少しは本体の集中力を削ぐことができるのではありませんこと?


 余裕の見えない今ならできるはずです。



「ぬっふっふっ。私を相手にしてしまったこと、今になって後悔しても遅いですからそのおつもりで。

魔装娼女イービルブルーは勝つ為なら何でもいたしますの。けれどもコレは卑怯とは違いますの。立派で真っ当な戦法でしてよ……ッ!」


 いつまでも敵さんと戯れていられるほど、私たちは暇ではありませんからね。


 今日はお遊戯が目的ではありませんのッ!

 さっさと前に進まなければなりませんの。



 ゆえに、こちょこちょ作戦、始動ですの。


 むふふふ、むふふふふふふ。


 ……慰安要員の腕の見せどころですわね。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ