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ああ、ダメですのっ!

 



 

「……ハァ……ハァ……ふぅ、むぅ……!」



 ヤツが分身攻撃をし始めてからどれくらいの時間が経ちましたでしょうか。


 攻略法を見つけようとあがいてもがいて、今に至りますの。


 時計としては一時間も経っていないはずですが、気分的にはもう五時間も六時間もずっと戦い続けているような感覚です。


 だってほら、一瞬たりとも休む暇がなく、絶えず身体を動かしつつ敵の攻撃をかわしつつな状況のせいで、ほとんど息を整える暇もなかったんですもの。



 文字通りのジリ貧となってしまいました。

 私、ついに肩で息をし始めてしまっておりますの。


 さっきからやたらと腕が重いのです。

 更には鉛の足枷まで付けているような心地です。


 まだまだ修行が足りませんわね。

 日頃の運動不足をヒシヒシと感じてしまいます。



 今もどれが本体か分からない狐面女たちに周囲を塞がれてしまっておりますが、茜のおかげで何とか対等レベルの戦いを繰り広げてこれました。


 元気とやる気をチカラに変えていたあの頃に比べれば、心身の状態に左右されない黒泥は便利と安心の極みではありましたが……それにしたって体力的な限界は来てしまうのでございます。


 変身装置のチカラを充分に出し切れていないのも疲れの要因なのでしょう。



「大丈夫? まだいける? ブルーちゃん……!」


「くぅ……こ、これくらいは余裕ですの。あと四万体相手にしても木っ端の火ですの。っていうかチマチマしてないでぇ、まとめて掛かって、きなさいましぃ……ッ!」


 ワガママと強がりだけが私の特権ですの。

 震える膝をバシバシと叩いて奮い立ちます。


 レッドの手も借りて体勢を整え直させていただきました。



 幸い私も彼女もまだ背中を地面に付けてはおりません。しかしながら、次また震える足を掬われたら、立ちのバランスを保っていられるか正直分かりませんの。


 どうにかして相方を休ませようと一人で何体も相手していたり、同時撃破を狙って失敗したり、逆に数に押されて劣勢になりかけたりと常にギリギリで戦ってきましたが……そのままで事態が好転するわけではありませんし。


 この辺で形成逆転しておきたいところですけれども……!



「ホントにどういたしましょうね。これだけ戦ってきたというのに、未だにヤツの攻略法を見つけ出せておりませんでしてよ……!?」


 焦り始めたこの心をどのように抑えればよろしいのでしょうか。


 もしや、今日はもう諦めて退散するしか!?


 けれどもそうしたら負けを認めることになってしまいますの。格上の狐面女に唾を付けられて、いずれまた連合の奴隷に逆戻りしてしまうってことですのよ!?


 それだけは絶対に嫌なんですの!


 ようやく馬男と鳥男を倒して、やっと手に入れられた自由だといいますのに!



 ムッと結んだ口を見せて差し上げますと、茜がほのかに微笑んでくださいました。


 けれどもまたすぐに真面目な表情にお戻りなさいます。



「……実は私、結構気になってることあるんだよね」


「ふぅむ!? まさか何か突破口を!?」


「うん。あんまり気が進まないけどね」


 そう仰ると、彼女は小さな杖を生成し始めました。


 刀剣用というよりはどちらかと言えば投擲用に使えるようなサイズですの。


 確かに近付かせなければ、掴まれて転がされてしまうような心配も減りますけれども。


 ただ今更ながらに近距離戦から遠距離戦に切り替えたところで、いったい何が変わるっていうんでして……!?



 杖の取っ手部分を指にかけて、小気味よくクルクルと回していらっしゃいます。準備万端のようです。



「そういえば、さ。狐面女(アイツ)ってずっと八体のままじゃん?」


「ええ。だってさきほど〝八人までは分身できる〟と」


 この集団戦が始まる直前に話しておりましたもの。



 戦ってみて実感しております。


 見事に複数体を同時に動かしていらっしゃいますが、個々としてはせいぜい弊社の下級怪人の皆様と同程度か、それよりほんの少し強いかどうかくらいのレベルなんですの。


 キチンと並列して動かせるのも八人が限界なのでしょう。


 ここまで無尽蔵に湧いて出てこなければ私たちの敵ではありませんでした。

 数は力なのだと改めて思い知らされた気分なのです。


 現に今だってほら、八方から綺麗に取り囲まれてしまっておりましてよ!?


 あの中に術者が紛れ込んでいるのですから、なんとかして見つけ出そうと頑張っているのではありませんこと!?



 ここで、茜がふっと小さく息をお吐きなさいました。



「それ、ちょっと引っかかってたんだよね。八人までっていうのが〝自分を含めてなのか、自分を含めないで〟なのか。ぶっちゃけ曖昧だったでしょ?」


「…………ハッ。ということは!?」



 分身八体を操る本体が別に居る、と!?



「多分、本体は別のところに隠れてるんじゃないかなって。そう思ってさっきから隙を見てクリアリングしてたんだけど……」


 ほんのり眉を下げて、何だか複雑そうな目で私を見つめていらっしゃいます。


 私、付き合いが長いので分かりますの。


 このお顔、おそらくはやれやれが二割、ごめんねが五割、でも仕方ないよねが残りの三割といった具合でしょうか。


 やれやれは理解できますが、ごめんねと仕方ないよねの意味が分かりませんの。


 アナタ今から何を始めるおつもりで……!?


 茜が淡々と続けます。



「おおかた試してみて、隠れられそうなところってのはもう――」


 喋りながら、とある姿勢になられましたの。


 まるで野球選手のように大きく振りかぶったのです。


 そして。



「――リムジン(あの場所)しか残ってないんだよね」


「あ、ちょっとぉ!?」


 何を血迷いなさいましてッ!?


 よりにもよってメイドさんが待機なさっているリムジンに向けて杖を放ちましたのッ!


 轟々と音を響かせて、狐面女の顔のすぐ横を通り抜けて、風を切り裂いてまっすぐに飛んでいくのですッ!


 おまけにジャイロ回転までしておりますのッ!


 途中で球威ならぬ杖威が落ちずにグングンと伸びていくのですッ!



 ああ、ダメですのっ!


 このままでは窓ガラスに……っ!




「は、え……?」



 ぶつかる音が、聞こえてきません、の……?



 

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