絶え間なく続く
まったくもう。どいつもこいつも等しく不敵な笑みを浮かべておりますの。クックと喉を鳴らして笑っております。
二対八なんてピンチもピンチの大ピンチです。
けれども勘違いしてはなりません。
目の前にいる八人のうち、一人を除いた残りは全て幻なのです。
どうにかして本体を見つけ出してブッ叩けばそれでおっけーですの。
狐面女のいう幻術というモノにも戦術的な穴があればよろしいのですけれども……!
「「「さぁさぁさぁ。数による圧倒的な暴力、その身でじっくりと味わってみなんし」」」
「んむぅ……!」
ひとまず身動きを封じられてしまう前に何とかいたしたいですわね。手っ取り早く回避の道を選ぶのであれば、天高くまで跳躍するか、はたまた地の果てまで掘り進むかの二択でしょう。
もちろん分かってますの。
どちらもあまり現実的ではありません。
ともなればやはり拳やら蹴りやら杖撃やらで地道に一体ずつ撃破するしかありませんか。
そろそろ本気を出して差し上げましょう。
ゆっくりとレッドに背中を預けます。
「ヤツの勢いに騙されちゃダメだよ。さっき戦ってみて分かったけど、明らかに分身体のほうが弱くなってる。さっきよりも更に数を増やしてる分、各々の強さはそこまでじゃないはず」
「ええ。本気を出した私たちの敵ではありませんのッ!」
逃げたところで何も手に入りません。
全て片っ端からぶちのめしてしまえば、残った最後のヤツが本体ってことになりますからね。
とことん追い詰めて、そのはだけた着物ごとお肌もお胸も揉みしだいてやりましてよっ!
「それじゃ行くよ、ブルー!」
「ほいですのっ!」
黒泥製の杖を生成して、私も接近戦用の構えを取ります。
そうしてレッドとほぼ同じタイミングで一気に駆け出しますの!
私は右方から攻めますゆえ、貴女は左方を頼みます。
まずは一番手前の狐面女からですの。
目の前に突き出された和傘を力任せにブン殴って逆に弾き飛ばして、勢いに任せて胸元に杖の先を突き立てて差し上げますッ!
「ングゥッ!?」
手始めに一体目を無事に撃破ですのッ!
小気味良い破裂音と共に煙に消えなさいます!
残念ながらハズレでしたの!
シームレスに二体目の対処に移りますっ!
素早く屈んで足払いを繰り出して、バランスを崩したところに情け無用の膝蹴りをお見舞いですのっ!
一瞬だけ苦渋の顔を見せたのち、同じくポンと音を立てて消滅なさいます。
「ふぅむぅ。コイツもハズレですか」
「「ホラホラ、早う消さんとまた次々に増やしていきんすえ?」」
「うっさいですのッ! 黙ってお潰れなさいましッ!」
背後で嘲笑っていた狐面女に向けて杖を投げつけて、綺麗に眉間にクリーンヒットさせて三体目の処理完了です。
ですがこちらも煙と化して跡形もなく消えてしまいます……ッ!
地面に落ちた杖を丁寧に拾い直しつつ、最後に残った狐面女にとびっきりの睨みを利かせておきます。
私の担当、早くもあと一人となりました。
変わらぬ微笑みが妙に憎たらしいですわね。
残ったコイツが本体であれば苦戦も必須となりましょうが、肌に感じる圧としてはそこまでのモノではありません。
正直に申しまして、増殖したコイツらからは初めの八分の一程度にも満たない戦闘力しか感じられませんの。
お遊戯ということで手加減されているのか、それともコレがホントに分身体のMAXパワーなのか。
正直手こずるようなレベルではないのです。
もしくはレッドの側に本物が紛れているのでしょうか。どちらにせよさっさとケリをつけて共闘して差し上げませんと。
「んむぅ……ッ!」
一気に距離を詰めて最後の狐面女と鍔迫り合いを始めつつ、横目にレッドの様子を気にしておきます。
彼女のほうも最後の一人を相手にしているようでした。
ここからは競争ですわね。先に相手を消し去ったほうが勝ちですの。
とはいえ私側の方が偽物ですので、こうしている間にも終わってしまいますけれど……もッ!
「ん、くぁぅっ……」
ほーら見たことかですの。
肉薄していた狐面女を弾き飛ばして、体勢を崩したその土手っ腹に杖を突き入れて、無理矢理に切り上げて差し上げました。
これでおしまいですの。
ポムンもいう空気の抜けるような音を立てて、ヤツの身体が消えていきます。
額に滲んだ汗を拭いながらレッドのほうを確認いたします。
どうやら既に彼女の手も止まっておりましたの。
ふぅむ? と、いうことは?
「もしや全員お倒しなさいまして?」
「ってことはブルーも全員片付けちゃったの?」
つまりは対峙していた八人全員が、分身だったと?
それでは本体はいったいどこに……ッ!?
「「「ハイ、さーびすたいむ終了のお知らせでありんす。絶え間なく続く八人分身地獄、主さん方はいつまで耐えられんしょうねぇ?」」」
またも突然に、私たちの周囲八方から声が聞こえてまいりました。
首を上げて見てみれば、澄まし顔の狐面女が変わらず八人、スラリと立っておりましたの。
不敵な笑みもはだけた着物も、何一つとして変わっておりません。
また一からやり直しなんですの……?
これ、多分マズい流れですの。
ヤツが幻術を使えなくなるまで疲労困憊するのが先か、逆に私たちが一歩も動けなくなるのが先が、分の悪い根比べが始まる予感がしております。
「レッド。どういたしましょう?」
「正直困っちゃったね。でもとにかく今は、奴の尻尾を掴むまで頑張るしかない、かな」
「……了解ですの」
現役時代は持久戦を得意としていた私ではございますが、イービルブルーとなった今でもそれがベストな戦術なのか……ちょっとだけ不安は残っております。
戦いながら必死に頭を捻りましょう。
今の状況ならそれくらいは可能なはず……!
改めて杖を握り締め直します。
あまり気の進まぬ第二ラウンドに、突入ですの。
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