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門の先にあったモノとは

 

「そ、それではピンポンいたしますわよ」


「声上ずっちゃってるけど大丈夫?」


「もももも問題ねぇでごぜぇますのっ!」


 皆さまダッシュのご準備をお忘れなく。

 ロックのリズムで心臓がバックバクですの。


 正門の正面に立ってみますと、それはもう中からの威圧感が半端なく、身体中の毛がビリビリと逆立ってしまうほどなのでございました。


 指先の震え方も尋常じゃないんですの。


 ちなみに毛というのは上も下も例外なくですの。うぉっほん。冗談です。


 別にこの門を通り抜けること自体にはそこまで重要性はないと分かっておりますが、敵地に足を踏み入れる行為だと思うと、さすがに緊張せざるを得ないのです。


 開いた瞬間に隙間から襲撃される可能性だってゼロではないのです。警戒しておいて損はないでしょう。



「……いえ、やっぱり不安、ですわね」


 ちょびっとだけ嘘をつきました。

 理由なんて自分でも分かっておりますの。


 もっと別のコトにビビってしまっているのです。


 だって、だって……世を棄てた身とはいえ、数年ぶりの帰宅なんですもの。


 むしろ世を棄てた身の上で初めてお父様に会うんですもの。


 こんなの緊張しないほうがおかしいですのっ。



「こっほん……では、押しますわよ」


 胸のブローチを握り締めながら、もう片方の指先でインターフォンのボタンに触れて、無理矢理これでもかという具合に押し込みます。


 ポチッとな、と。

 これでもう後戻りはできませんわね。


 頭の中では効果音が鳴り響きましたが、意外にも呼び鈴の音は聞こえてきませんでした。


 かといって受付のウグイス嬢がその後の案内をしてくださる様子もございません。


 そのままふた呼吸分ほど待ってみましたが、反応のひとつさえ返ってくる気配がありませんの。完全に何も起きていないのです。


 まさか押し込みが甘かったのかと猛プッシュしてみましたが……やっぱり、何にも。


 この街並みと同じ無人のせいか、はたまた私たちの受け入れ拒否か。


 シーンとしたままの空気にどこか気まずい雰囲気が漂い始めたのを感じてしまいます。



「あの、コレって壊れてませんでして?」


「まさか蒼井家に限ってそのようなことは」


「そりゃそうですわよねぇ。ふぅむぅ」


 もしかしたら先日送った手紙が正しく届いていなかったのかもしれませんの。

 まだ来客のご準備がお済みではないとか。もしくは日時をキチンと書き込んでいなかったことが原因でして?


 やれやれと首を横に振ろうとした――まさにその瞬間でございました。



「ッ!?」


 殺気ではありませんがまた新しい〝圧〟を感じてしまいましたの。


 体の内側からではなく、体を外側から震わすような地響きを直に感じ取ってしまったのでございます。


 咄嗟に正門から距離を取ります。ジャンプのついでにメイドさんも抱えて離れておきますの。



 空中で振り返って見てみますと、あら驚き。


 土煙を巻き上げ、ゴゴゴゴと重低音を響かせながら、門が真っ二つに開いていくのでございます!



 ちょうど三人が横に並んで通り抜けられるくらいのスペースが開きましたの。全部開けるのはコスパが悪いのでしょうか。


 何にせよ構いませんの。



「……入ってヨシ、との認識で合っておりますのよね?」


「多分そうだと思う。でなきゃ開かないと思うもん」


 罠である可能性も20%くらい頭の片隅に置いておきながら、差し足抜き足忍び足で門の隙間に近付きます。


 私が先陣を切って差し上げましょう。


 土煙と日光の乱反射のせいでほとんど前が見えませんが、普段から明順応の遅さで前方不安には慣れておりましてよ。


 待っているうちに段々と視界が開けていきます。


 はてさて。

 門の先にあったモノとは……ッ!?



「ふぅむ? むしろ……何にも、ない?」


 辺り一面に広がる草原でございました。



 連なる白い建物や巨大な門などは打って変わって、その先にはだだっ広い空間がドドーンと存在していたのでございます。


 風に吹かれて背の低い芝が揺れておりますの。


 え、あ、ここホントにニホンなんでして?


 だって地平線が見えておりましてよ?


 どんな魔法かトリックアートか知りませんけれども。まるで夢でも見せられているような気持ちなのです。



「美麗ちゃん! 門の裏にリムジンあったよ!」


「鍵も付いたまま、ですね。こちらの車に乗れということでしょうか。お嬢様、どういたしましょう?」


 景色をぽけーっと眺めていたのも束の間、呼ばれて振り返った先には黒光りする高級車の周りをクルクルする茜と、ふむふむと調べを進めているメイドさんがいらっしゃいました。


 罠である可能性を20%から30%くらいの警戒率に引き上げつつ、私も壁側に寄せられたリムジンに近付きます。


 ふぅむ、長らく放置されていた感じではございませんわね。ボンネットも窓ガラスも全てピカピカですもの。


 何者が意図的に停めたと考えてまず間違いはないでしょう。

 使えるものは何でも使いますの。いざというときに疲れて何もできないというのは避けておきたいですもの。


 もはや色んなことに驚かされてばかりで少し腹が立ってまいりましたが、仕方ありませんわね。


 連合側、つまりはお父様に何の思惑があるかは知りませんが、ここまでぶん投げられてしまっては、むしろ最後まで付き合って差し上げるのが娘の意地というものでしてよ。


 足踏みしていても時間の無駄ですの。後部座席のドアを開け放ちます。



「歩いて進むよりは百万倍マシですの。是非とも使わせていただきましょう。運転、お願いできまして?」


「かしこまりました」


 メイドさんは運転席に、茜は私の隣にそれぞれ乗り込みました。

 イカついエンジン音を轟かせながらお久しぶりのリムッズィィイインが目を覚ましますの。


 やっぱりご令嬢たるもの高級車に乗っておりませんとね。それっぽい箔が付かないのでございます。



「では、出発いたします」


「ういですのっ。よろですのっ」


 何かが見えるまではひたすらまっすぐ走らせるで良さそうですわよね。この白壁伝いに走らせてもいいのですが、それで目的地に辿り着けるとは限りませんし。


 にしても、あくまで迎えに来てくださるとか連合側の遣いを寄越すとか、そういう手配はございませんの?


 あくまで私たちは招かざる客なのかしら。

 本気で殴り込みをかけて差し上げてもよろしいんですのに。それとも向こうのほうがビビってまして?


 美麗の自己中イライラメーター、少ぉしずつ溜まってきておりますの。どこかで爆発しないことを祈っていてくださいまし。


 揺れる車体に身体を預けながら、ぼんやりと外の平原を眺めます。


 なんでしょう。微かに世界が揺らめいてみえますの。

 寝不足のせいで目が霞んでいるのかしら。

 

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