今はお抑えなさいまし、夜の顔の私ぃ……!
リアルタイム最新話の方
あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします!
今年中に完結させたいが抱負ですっ!
(後からこの文章をご覧になった方、
はやく最新話に追いついてくださいね!
作者との永遠の約束だゾっ(*´v`*))
見せていただいたのは何やら仰々しい装飾の刻まれている黒い首輪でございました。やたらと丈夫そうな革製のモノですの。
すっと手に取って眺めさせていただきます。
「いつもの……ではないみたいですわね」
少なくともご主人様お目付け用のソレではございませんの。あちらはもっとワンちゃんの首元にも巻けるようなシンプルなデザインをしておりましたもの。
こちらの首輪は見るからに意味深なオーラを纏っているのです。帯部中央に埋め込まれた黒い宝石から絶えず妖しげな光が放たれております。
なんとなくですが、私の胸の変身装置に近しいような雰囲気を感じますの。得体の知れない冷たさといいますか、形状変化しそうな感といいますか。
とはいえまさか託されたメイドさんが魔装娼女に変身するわけもございませんでしょうし。さすがに今このタイミングで誰某専用の特注品を寄越す意味も分かりませんし。
見ても分からないモノは尋ねるしかありませんわね。
「それで、総統さんはなんと?」
こういうときは素直になるのが一番ですの。総統さんだって何の意図もなく謎アイテムを押しつけるような方ではありません。必ず何かしらの意味とメッセージを与えてくださっているはずです。
とりあえず首輪をお返ししておきます。そして今一度メイドさんの綺麗なお目々を見つめいたしますの。
「曰く〝どこでも強制転移装置〟とのことです。まだ試作品ゆえに一度きりの、完全使い捨てなシロモノらしいのですが」
「はぇー……。どこでもとはまーた便利そうなモノを開発してますのねぇ。さすが弊社の開発班は優秀ですのー。いつもながら惚れ惚れいたしますのー」
つまりはインスタント転移装置ってことでしょうか。
こうやって転移室とヒトケのないところを行き来する必要もなくなるってことですのよね?
いつでも自由に好きなところに瞬間移動できるようになるってことですのよね?
めちゃくちゃ便利な未来ではございませんのッ!?
使い捨てという点から察するに、全ての用事が終わって、あとはもうアジトに帰宅するだけというときに使ってみるべしとのご意図なのだと判断できます。
むしろ実際に活用できるかの実験も兼ねていそうですわね。最低限の安全性は確証されていることを祈りますの。イヤでしてよ、突然不具合が生じて突拍子もない場所に飛ばされてしまったりするのは。
何にせよこれが製品化したら日々のおでかけにも革命が起きるはずです。神出鬼没のイービルブルーがこの世に誕生いたしますの。
今から興奮を隠せませんの。
つい浮かれてしまう私を他所に、メイドさんがお続けくださいます。
「使用方法と注意事項をいくつか伺っております。
一、使う際は首に巻い状態で転移と大きく叫ぶこと。二、複数人を同時転送する場合は身体のどこかに触れている必要があること。三、今回は酔いの軽重は度外視しているので諦めろ、とのことです」
「ふぅむ。なるほど了解ですの」
その仰り様ですと、おそらく普段の倍は三半規管がやられてしまいそうですわね。おゲロ完全不可避ですの。
もしかしたら土下寝スタートでもまずいかもしれません。もしくはお口にビニール袋を事前準備してからの使用が推奨でしょうか。
その時間と余裕があればいいのですけれども。
インスタント品を使用しなければいけない状況といいますと、例えば敵に追われて逃げている真っ最中であったり、そもそも捕らえられて身動きの取れない時間であったり、と。ピンチの比重が大きそうな気がしてなりませんの。
今のうちからあんまり考えたくはありませんわね。ともかく杞憂で終わってしまえば万々歳ですの。
「では、その品はメイドさんが身に付けておいてくださいまし。いざというとき、私と茜は変身して戦えますし。拳で時間稼ぎをしているその間に、貴女はいち早くアジトにお戻りになって、お強い増援方を呼んできてくださいまし」
「かしこまりました。それでは」
何も言わずに素直に頷いてくださいます。
そのまま後ろ側に手を回して、お一人で器用に首に巻かれましたの。
パチリという留め具の音が聞こえてまいりますと、放っていた黒い宝石の光が一際に強くなりました。発動待機状態にでも切り替わったのでしょうか。
「……なんだか背徳的な見た目ですわよね。ただでさえ礼儀正しいメイドさんが首輪のせいでより従順そうに見えますの。まさに牝犬の極みですの。ついド酷い命令をしたくなっちゃいますの……ふふふふ……」
わりと被虐嗜好のある私ではありますが、たまには加虐的なプレイも楽しんでみたくなるときはございます。
思わずごくりと息を飲み込んでしまいました。おまけにじゅるりと舌舐めずりまでしてしまいます。
首輪姿のメイドさんを見ていると、まるで彼女をペットのように手懐けてしまったかのような、心の底からヨロシクない気持ちが湧き上がってきてしまうのです……!
ダメでしてよぉ……っ。
今はお抑えなさいまし、夜の顔の私ぃ……!
「……お嬢様。僭越ながら、地下施設内ではともかく、こういった公共の場では品位のない発言は控えられたほうがよろしいかと。ただでさえ今のお嬢様は〝お嬢様〟なのでございます」
「うっくっ。反論のハの字も出ないですの……」
いけませんわね。私もメイドさんはそんな不埒な関係ではございません。そもそもの話、首輪などに頼らなくても主従関係は成立してますの。長年の信頼の上に成り立っている清い間柄です。
私だって伊達に優雅なドレスを身に纏っているわけではありません。弊社の代表として真面目に、そして真正面からお父様に見えるつもりです。
常時お猿さんなわけではないのです。
とにもかくにもこれで帰りの心配はしなくてもよくなりましたわね。何事もなく終わればこの地にて正規転移を、何か予期せぬことが起こればインスタント転移を試みればよろしいのです。なるようになるでしょう。
では、そろそろメインイベントの為に足を進め始めましょうか。
この薄暗い駐車場を出て大通りに出れば、きっと聡いメイドさんなら現在位置と目的地までの道のり予想を叩き出してくださるはずです。
実家の正面門まで着いたら私自らがインターホンをワンプッシュですの。その場でヒーロー勢に取り囲まれたりしなければ、あとはまっすぐお父様の元へと乗り込むだけの簡単なお仕事です。
ここが意地の張りどころでしてよ蒼井美麗。
ビビっていたら前には進めません。
私の……蒼井財閥の一人娘として……いざ、己の未来と真剣に向き合うときですの。
「………………よし。まいりましょうか」
決意とは裏腹に、ここ最近で一番深めの溜め息を、お二人と一体にバレないようにコッソリ吐かせていただきました。
肩も足も重いですが仕方ないですの。
私にしか出来ない責務なんですもの。
やってやるしか、ないですの。