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それって当たり前のことでしょう?

 

「そもそも俺はお前の身体目当てでスカウトなんかしてないよ」


「ふぅむ? ほぉんとにぃ?」


「……いや、そりゃあ全くのゼロってわけでもないけどさ」


 ご正直な反応についニマニマと笑みを零してしまいます。ご自身の発言に照れたのか、すぐにぷいと首を背けなさったのでございます。


 彼の意外な一面が見れてほっこりですの。

 なんだかとっても可愛らしいんですの。


 総統さんって変なところで生真面目でお茶目さんですわよね。真夜中はあんなにも逞しくて惚れ惚れしてしまいますのに。


 この際ですからもっと畳み掛けて差し上げましょうね。

 たまには困り顔も見てみたいんですの。



「ほーらやっぱりどヘンタイさんだったではございませんか。伊達に私、アナタ直々に仕込まれてはおりませんのっ。論より証拠ですのっ」


 ここぞとばかりに渾身のドヤ顔を向けて差し上げます。


 何事も押せるときに押し込むのが場の空気を支配するコツなんでしてよ。知りませんけど。


 あえてわざとらしく溜め息を吐いて、おまけにできる限りぶっきらぼうな感じに続きを宣わせていただきます。



「はぁぁーあっ。えぇっとぉ? 齢14、15(よわいじゅうしご)のイタイケな小娘を捕まえてぇ? 自分好みにご調教しなさったんですのよねぇ?

悪の秘密結社のトップさんでなければ完全にお縄モノですの。少しはご自覚、ございまして?」


 ジトーっと。とにかく粘っこい視線を差し向けますの。



「……ないと言えば嘘になる。だが、言わせてもらうが俺は教本を手渡しただけで読めとは一ミリも命令してないからな。ソッチの素質は完全にお前の元々からだよ」


「どうだか。ほとんど同じようなモノですのっ」


 正直なところ彼の発言に否定はできません。


 私自身、ソッチの分野に興味がなかったわけではありませんもの。今では慰安要員こそが天職とまで思っておりますし。毎夜毎夜を楽しみにしている部分もあることですし。


 別に地下施設で生活を続ける為、また糊口を凌ぐ為にやむなく従しているわけではないのです。特に働かなくてもとやかく言われることはございませんでしょう。


 お仕事の詳しい内容については……今はシリアス路線に戻したいのでノータッチでまいりますけれども。


 こんなピンク色の話題を広げるために司令室を訪れたわけではないのです。まったくもう。こっそり責任転嫁しておきますの。



「まぁ、それはひとまずおいといて、ですの」


 気を引き締め直して本題に戻らせていただきます。


 私の身体目当てでなかったということは一応は納得して差し上げましょう。


 けれども、逆にそれってつまりはどういうことになるんですの? えっぴぃ素質を抜きにしたら、過去の私には何の要素を見出していただいていたんでして?


 小動物よりも目をキラキラと輝かせて、胸の内から生まれ出でた疑問を顔に出して向けて差し上げます。



「……俺から答えなきゃ引き下がらないって顔してるな」


「ふっふん。よーく分かってるではありませんの」


 意を汲んでくださったのか、渋々といった具合でしたが腕組みを解除してくださいました。また観念したからのように、彼の口から大きな大きな溜め息が吐き出されます。


 そうして天井よりもずっと向こう側を見つめながら、少しずつ言の葉を紡ぎ始めてくださいましたの。



「俺がお前に見ていたのは二つ。一つめは〝停滞を是としない強さ〟を持っていた点からだ」


「停滞を、是と、しない?」


 彼に倣って私も指折り確認いたします。探り探りの語尾上がり口調で大変恐縮でございますが、お察しくださいまし。



「要するに立ち止まらないってこと」


「ふぅむ……ふぅむ」


 この頭に浮かべた疑問符を悟ってくださったのか、総統さんが更に続けてくださいます。



「己と正しく向き合えて、そんで足りないところに自分で気が付けて、更には嘆いて悔やんで苦労したとしても最後まで歩みを止めないようなまっすぐなところ。

別にバカでもクズでも気にしない。たとえ下剋上の野望があったとしても俺は一向に構わん。チカラを振るえるだけのまっすぐな心一つが有ればいい。そんな奴を俺は欲していた」


 今日一番に大きく頷きなさいましたの。


 総統さんったらまるで子供のようなキラキラとした目をしていらっしゃいますの。むしろあまりの純真さに恐れを覚えてしまうような、まっすぐで汚れのない瞳ですの。



「そんでもう一つが〝己の弱さと正直に向き合える強さ〟を持ち合わせていた点だ」


「おのよわ……へぁ? 何ですって? ふむむ?」


「お前に自覚はないかもしれんがな」


 小難しいニュアンスのオンパレードでしたの。まだ序の口かもしれませんが少しばかり頭がこんがらがってきましたの。どこかのタイミングでガッツリと整理させていただきたいところです。


 とりあえず聞くだけ聞かせていただきましょうか。



「あの頃から、既にお前は己の弱さに気が付いていた。けれどもそんな自分に少しも甘んじないで、可能な限りであがいて、もがいて、貪欲にその先に至ろうともしていた。その辺は今も同じだろうよ。弱いからこそ、強くなろうと思えている」


「……でも、それって当たり前のことでしょう?」


「そこで動けない奴が世の中の大半なんだよ。それに一度でも現状に満足しちまったら、そこで全部止まっちまうからな」


「ふぅむぅ……。結構ギリギリなところはありますの……」


 実際に私、皆さまに守っていただくだけの愛玩人生というのにも一つの喜びを感じ始めてしまっておりますし。


 もちろんずっとおんぶに抱っこというのは申し訳ないですので、許される限りのチャレンジはさせていただきたいところですけれども。

 

 守らなきゃいけない対象がいなくなったわけでもございませんし。ただ一つ、〝不特定多数〟が〝特定少数〟に切り替わっただけの簡単なお話です。


 守りたいものが守れなくて何が強さと言えましょうか。護るべきモノを護らなくて何が強者と胸を誇れましょうか。


 もちろん過去のお子ちゃまな私だって、単純に運が良かった上に人一倍ワガママで、更にはコトの顛末に納得がいっていなかっただけだと思いますけれども……。



 元来より魔法少女の素質が備わっていたのかどうかは、家柄のせいで疑わしくなってきてしまいました。


 けれども魔法少女になろうと思えたきっかけ自体は永久に変わることはありませんの。



 全て、茜を守りたいという思い一つから生まれてきているのでございます。

 

 

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