前に進めず足踏み三昧
「――へぇ。まさかヒーロー連合の総本山が美麗ちゃんの実家だったとはねぇ。世の中狭いったらありゃしないね」
「うむプニ。さすがのプニも驚きプニよ。とんでもないヤツに声をかけてしまったものプニ。天の巡り合わせか、はたまた必然か……プニ」
難しいご表情のままウンウン頷きなさる茜と、その肩の上で興奮したようにピョンピョン跳ねるプニと。
小一時間とまではいきませんが、私の知り得る情報は全て包み隠さず話させていただきましたの。
私の実家がヒーロー連合の本部拠点となっていたこと。
お父様がおそらく重要的なポジションに就いていらっしゃること。
娘の私は、何も聞かされていなかったこと。
仕事場の改装の為と引っ越しを余儀なくされたわけなのですが、もしかしたらただのお子ちゃまはお邪魔虫で、都合よく追い出されてしまっただけなのかもしれません。
ここで考えていたところで、全貌は明らかにはなりませんけれども。それこそ中途半端な予想と推測しかできませんの。
前に進むには何らかの手段で裏を取るか、もしくは直接出向いて聞いてみるしか……!
「…………ふぅむ……」
「美麗の人生は実にハチャメチャプニねぇ」
「ええ。誰かさん方のおかげさまで、ですのー」
私が魔法少女業に関わらなければ絶対に起こり得ない展開の連続でしたからね。
もちろん最初に首を突っ込んだのは私ですが、そもそも一般人を巻き込んでしまうようなところで戦っているのが――って、これでは茜を責めることにもなってしまいますわね。
この子への飛び火は本意ではないですの。
文句を垂れるのはこの辺で止めておきましょうか。
――と、ほんのり思いかけたのですけれども。
ちょちょっと、待ってくださいまし。
かつての私とほぼ同じ、連合末端の魔法少女だった茜はともかく……その司令塔である変身装置のプニまで初耳感を醸しているのは変ではなくって?
少なくとも連合本部の所在地くらいはご存知でないとおかしいと思いますの。ちょこちょこソコから指令を受けていたようでしたし。
それに三年前に私たちと別れてからは〝しばらくの間連合本部に幽閉されていた〟と仰っていたような記憶もございますの。
要するにその場にいらっしゃったはずなのです。
場所くらいは知っていてもおかしくないと思いますの。おまけにあの辺は特に広大な私有地で形成されておりますし、何よりデカデカと蒼井家の表札が掲げられていたと思いますし。知らないはずがありません。
「そういえばどうしてプニが驚くんですの? アナタは私の実家をご存知だったのでは?」
とりあえず聞いてみるのが早そうです。
たった今思い付いたていで問いを向けてみます。
……キョトンとしたもにゅもにゅ感が返ってまいりましたの。
「いや知らなかったプニよ? さすがにお前の実家の情報まではデータベースに載せられていなかったプニ。
今まで特に疑問に思わなかったプニが……なるほど。おそらく故意に、そして厳重に隠されていた可能性が高いプニね。でなければどこかで必ず引っかかっていたはずプニ」
「つまりは美麗ちゃんと蒼井家の関連性が消されていたかも、と」
「うむプニ」
「ふぅむぅ。少々腑に落ちないところもありますが、呑めない話でもありませんね」
勝手に人様の情報を懇切丁寧にまとめられてしまってはたまったものではありませんの。ヒーロー連合ほどのどデカい事業でザルな管理を為されているはずもありませんでしょうし……。
私が魔法少女になったときも、水面下では連合本部による身元調査が進められていたのでしょうか。勝手に調べられていたのだとしたら……ちょっとした恐怖ですわよね。
私個人の感想で大変恐縮なのですが、やっていることが地味ぃでチンケでみみっちぃんですの。
半公半資の特大事業がそんなチマチマとした隠蔽工作をすることなんてありまして? もっと堂々と大々的に行動すればいいではありませんの。
思わず唇を尖らせてしまいましたが、私の不機嫌顔を汲んでくださったのか、プニが続けてくださいます。
「まぁ考えてもみろプニ。ヒーロー連合は特に世界の最先端の技術が生まれる場所プニ。いつだってライバル企業や盗人が目を光らせているのプニよ。
場所を明かすのはリスクでしかないプニ。その点に関して言えば悪の秘密結社側だって同じようなものプニ。第一に晒さないことに意味があるんプニ」
「仰ることも分かりますけれども。なーんか〝隠し隠され騙し騙され〟って生きてて疲れそうなやり方ですわよねぇ。もっとストレートに振る舞えば楽にもなれますでしょうに」
「……それ、お前が言うプニか……?」
「ふっふん。だからこそですのッ」
根拠のない自信に身を任せつつ、堂々と胸を張って差し上げます。
私、今はわりと自由に生きられておりますの。〝善意からの責任〟に追い詰められていた頃に比べたら、遥かも遥か、雲泥の差と言えましょう。
しっかしながら、生きとし生ける全ての人間が軒並み己を晒け出していられるほど、この世の中は甘くはありませんの。
世捨て人の私だってそれくらいは理解しているつもりでしてよ。
安全な鳥籠の中でただひたすらに美味しい餌を食べて、気持ちよく水浴びをして、好きなように唄を歌っていられるのは、素敵な飼い主さんが居てくださるからですもの。
ふふーん。愛玩扱いサマサマですの。
わりと優遇されてる気分を味わえているのです。
……はぁーあっ。
いっそのこと総統さんがこのお国を治めてしまえばよろしいですのに。そうすればきっと多くの民が救われますのに。
この結社のルールが表の世界にも普及していってぇ、誰しもが己の好きなように愛を振り撒くことができるぅ、そんな素敵な世の中なんてぇ……!
「……ふふっ。最高にトチ狂ってると思いませんこと?」
「美麗、何ニヤニヤしてるプニか?」
「い、いえ別になんでもありませんの。ちょっと自分の世界に浸っていただけですのっ」
心の底からとまではいいませんが、そんな未来があっても面白いかも、と。思うだけなら自由なのでございます。
あらあら私ったら無責任ですのっ。
でもそれで構わないとも思ってしまうのですっ。
私が守りたいのは身の周りの大切な人だけ。それ以外に気を回す時間も精神も持ち合わせてはおりません。
「……ただ、関係ないところは捨て置きつつも、いずれ実家の真意を確かめてみる必要はありそうですわね」
このまま知らぬ存ぜぬを貫き通すわけにもまいりません。連合連中のせいで何度死にかけたことか。絶対許すまじですの。直談判しに行ってやりますの。
「危ないことだけはしないでね」
「分かってますわよ」
実際次回は迎撃戦ではなく、敵方への殴り込みに等しい行為になるはずなのです。その分準備を怠るつもりはありません。
しかしながら。ここでやっぱり最初に課題に戻ってしまうのでございます。
「……はぁ。にしても修行したくないですの。毎日毎日同じコトの繰り返し。少しも前に進めず足踏み三昧。さすがに飽きてしまいましたの……はっ」
つい気が緩んで口から出てきてしまいました。さきほどから色々と誤魔化して内緒にしておりましたのに。
まぁいいですの。ここまで来たら開き直って、新しいアプローチでも考えて差し上げればよろしいのですっ!
ホントのホントに今更ですが
〝第1話〟に新規の表紙絵を追加しておきました。
超絶可愛い黒衣装姿の美麗ちゃんですの。
忌まわしい過去から三年の月日が経って
身体つきがすっかりオトナになっちゃってるんですねぇ。きっと結社の皆さんと沢山しっぽりしてきたんでしょうねぇ。
ミニキャラ化もいいけど
やっぱり一番はフル頭身なんですの(*´v`*)
よかったら目に焼き付けてきてくださいな。
ではではっ。
引き続き本編をお楽しみくださいましっ。