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これからとっても気が重たいですわね

 






 ――次に目が覚めたとき、私は見知らぬ天井の下、柔らかなベッドに寝かされ……ってこのくだりはつい最近にやりましたわね。


 清潔感の溢れる白色空間には見覚えがありますの。

 ここは上層の病室に間違いありません。


 しかも今度はお目覚めバッチリなんですの。


 寝ている間に最低限の脳内処理も終わっていたらしいのです。幸か不幸か、気を失う直前のこともハッキリと覚えておりますの。


 どうやら私、退()()きならない驚愕の事実を打ち明けられてしまって、ついにはパンクして倒れてしまったらしいですわね。冷静すぎる自分がビックリです。


 この際ですから再覚醒したこの頭でもう一度整理してみましょうか。今なら何か分かることがあるかもしれませんし。



 私の実家がヒーロー連合の元締めであること。


 私の実父がヒーロー連合のトップであること。


 おそらくこれは疑いようのない事実なんですの。



 といいますのも、他愛もない世間話中ならいざ知らず、メイドさんも総統さんも、真面目なお話をする際に冗談を混ぜるような方々ではございません。


 それこそ聞き手が混乱しないよう、大事な話こそ事実のみを用いて簡潔に語ってくださるはずなのです。


 事態をすんなりと飲み込めていないのは私の弱さのせいですの。


 独り知らされていなかったゆえの意地っ張りか、それとも現実を現実として認識しきれていない甘さゆえなのか……。

 


「…………ふぅむ。にしたって簡単に納得できるような単純なお話でもないと思いますの……」


「お嬢様!? よかった。急に倒れられたので、私めはもう気が気ではなくて……!」


「あぁすみませんの。気苦労をお掛けいたしましたわね。今度こそ大丈夫ですの。もうオーバーヒートしたりはいたしませんから」


 ついつい口に出してしまったところ、すぐさまお隣のベッドから不安そうなお声が聞こえてまいりました。もちろんメイドさんのものですの。


 彼女も彼女でお身体が不自由なこのご状況です。

 ベッドからは一歩も動けませんのに、精一杯身体を寄せるようにして、ずぅっと私の様子を気にしてくださっていたようでした。


 今にも安堵したようなご表情が視界の隅に映ります。


 私もメイドさんも、横になったままというのも話しづらいですわよね。



「ふっ……つっ……くぬぬぬぬ……つつっ」


「お嬢様! まだ寝ていらしたほうが」


「いえ、これくらい平気ですの。ご心配なく」


 ビキビキという筋肉の強張る音を耳にしながらも、ゆっくりと半身を起こします。その度に細やかな痛みが私の身体中を駆け巡ります。


 まだまだ体調的には万全ではないのですが、今のうちから慣れておきませんと今後に待ち受けていそうなもっと辛い状況に対応できなくなってしまいます。


 ただでさえ平時よりもストレス許容値が減ってしまっているのです。ホワイトアウトは心の装甲強度の問題ですの。普段から訓練しておきませんと。



「えっと。改めまして、先ほどはすみませんでしたの。少々脳がパンクしてしまったみたいでして。今はもう何ともないですのでお気になさらず。

頭痛も心労もすっかり爽快、綺麗さっぱり無くなっておりますのっ」


 適当に言い訳を取り繕っておきます。ついでにできる限りの笑顔も振りまいておきますの。


 私としても、今回の失神はあくまで一過性のモノであってほしいのでございます。幾分初めての経験でしたから正確なことは言えませんし。今後頻発するようになってしまってはそれこそ面倒の極みですし。


 どちらにせよメイドさんのご負担になるのは本意ではないのです。



「コッホン。……実家のこと、もっと詳しく聞いておきたいのはヤマヤマなんですけれども。多分、今の体調では真っ正面からは受け止めきれないかと思いますの」


 私としても彼女には安心してお話していただきたいのです。千里の道も一歩から、ということわざではございませんが、近道するよりは今は遠回りしておいたほうが良さげな気もいたします。


 メイドさんが苦笑いをお返しくださいました。

 それで終わりかと思いましたが、違いましたの。


 

「私めも配慮が足らず申し訳ありませんでした。それこそ身を削るような死闘で心底お疲れと伺っておりましたのに。更に追い討ちをかけてしまいまして」


「あら、ご主人様ったら寝てる間にそんなことまで(のたま)っていらしたんですの?」


 今度は90度よりも身体をクッキリと折り曲げて、それこそベッドのマットレスとくっついてしまいそうな平謝りを見せつけられてしまいます。


 まったく。生真面目すぎるのも問題でしてよ。



「とにかくっ。さっさと頭上げてくださいまし。私が倒れたのは貴女のせいではございません。私の弱さと日頃の不摂生さがそもそもの原因ですの」


 その見た目だけでも充分に誠心誠意さが伝わってまいります。だからさっさと元の姿勢にお直りくださいまし。私は別に貴女を責めたいわけではありませんのよ。


 情報を交換し合って、自分なりに咀嚼して、しっかりと飲み込んでおきたいだけなのです。


 正しい理解を得るためには、心の余裕を持つことはもちろん、しっかりと時間を費やしてみることも必要です。そのタイミングがちょっと悪かっただけですの。


 新たに浮上したこの〝蒼井家問題〟は、今後の人生観やら身の振る舞い方にも関わってくる重要な案件なのでございます。


 それゆえに、ほら、もっとこう……いろいろな下準備と必要になってくると思っておりますの。


 今を急いで詰めるべき話題でもない、と。

 気を失ったからこそ気付けたのでございますっ!



「……ぅおっほん。というわけでこの続きはまた後日。できれば私が万全な状態に戻ってから、改めて根掘り葉掘り聞かせていただけたらと思いますの。……それでよろしくて?」


「かしこまりました。ご配慮いただきましてありがとうございます」


 まーた頭を下げなさいましてぇ。さっきから謝らなくてもってお伝えしておりますのに。少しくらい図々しいくらいが丁度いいのです。



「貴女のほうこそずーっと溜め込んだままでお辛かったことでしょう。世間知らずで察しの悪い私をどうかお許しくださいまし。

ともかくこれでおあいこですのっ。屈みがちな姿勢では腰を悪くなさいましてよ」


 精々屈託のない笑顔を向けて差し上げます。満足に身体を動かせない私にできる精一杯の気遣いです。



 にしても、バトル後に気を失って三日後に目が覚めて、またすぐに気を失ったかと思えばお次はパッチリと目を覚まして、と。


 私なんだか目まぐるしさに疲れちゃいましたの。


 今日はもう二度寝……いえ、三度寝してしまおうかと思っておりますがよろしいかしら。


 別に極端に眠いわけでもありませんが、無意味に起き続けていても身体が休まる気はいたしません。

 少しでも前進するためには、今は無理矢理にでも休眠を貪っておいたほうがよいかと思いまして。



「お気遣いありがとうございます。では、私めのことなどお気になさらず、どうかお嬢様はゆっくりとお休みくださいませ。明日も明後日も、話せる時間はたっぷりとあるのでございますから」


「ええ。焦る必要はありませんの。あのお父様のことですから、己の行動に常に絶対的な自信を持って、今も堂々と身の回りの部下を手足のように使っていらっしゃるはず……ふぅむ」


 会話の途中ではございますが、備え付けの掛け布団を頭から被って、とにかく早めに視界を真っ暗にいたします。


 どうせ心を無にしようとしたって余計なことを考えてしまうのは目に見えておりますの。


 だったらその逆、自然と寝落ちするその時まで、逆に独りで心ゆくまで己を思い詰めて差し上げようではございませんか。


 たまには自身の闇と向き合って差し上げましょう。



 今後、メイドさんやら総統さんやら、怪人の皆さんやら茜やらプニやらにどんな事実を聞かされようとも……。


 遅かれ早かれ、いずれはお父様の元にご挨拶(直談判)しに向かわねばならないのだ、と。


 実家に帰省する(殴り込む)必要があるのだ、と。


 コレだけは確信できてしまっているのですから。




「…………なるほどお父様、ですか。…………はふぅ」


 これからとっても気が重たいですわね。


 ため息とあくびとが交互に湧き出てきてしまいます。

 やっぱりさっさと眠り呆けてしまいましょう。

 

 積もる話はもっと後々、ですのっ。


 

 


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