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奥歯をガタガタ言わせて

 


 と、その刹那のことでございました。


 私のすぐ後ろ側から仮面越しの吐息が聞こえてきたのです。気色の悪さに思わず鳥肌が立ってしまいました。



「ッ!?」


「ククク。おやおや気付かれてしまいましたか」


 レッドの落下からやや遅れて、フェニックス男が空から舞い降りてきたらしいんですの。


 振り向きざまに回し蹴りを放って差し上げましたが、虚しくも空を切ってしまいます。しかもやたら大袈裟に腕やら脚やらを振って回避されてしまいました。


 空振りの勢いそのままに、奴らから更に距離を取って差し上げます。


 ついでのついでに半寝袋状態の茜を建物のほうへと転がしておきますの。酔ったらすみませんわね。呼吸用の穴を空けておきましたから新鮮な空気を取り込んでくださいまし。



 瞬時に小さな杖を生成し、先端を鳥男のほうに向けて差し上げます。



「レッドを傷付けたのはアナタですわね。あの高さ、一歩間違えたら大変なことになっておりましてよ!?

脱退した私相手ならともかく、あの子はまだ魔法少女ですの。さすがにやりすぎではありませんでして!?」


「怪人組織に(くみ)した者に情けは掛けません。処罰のときが少々早かっただけのこと。それに、私の相方もアナタの手によって傷付けられてしまいましたからねぇ。こちらも同じことをしたまでです。正直妬まれる筋合いはないと思いますが?」


「くっ……」


 奴のクチバシはつい先ほど叩き折って差し上げたばかりの白馬の角のほうを向いておりました。


 カツカツとわざとらしく足音をたてて、その白銀の角に近付きなさいます。指先で摘み上げてはポイと馬男の方に投げ渡してなさいましたの。


 腕を大きく翻して煌びやかな羽装飾をはためかせ、袈裟に私の方に振り向きます。



「しかも、今回先に手を出したのはアナタ方のほうだ。反撃されても仕方がないのでは? まさか連帯責任という言葉をご存知でない? ククク」


「むむっ。さすがにそれは屁理屈だと思いますのッ! 暴論すぎますのッ!」


 それを仰るなら三年前のアナタ方が最も先に手を出しましたの。だから悪いのはそっちですの。私のはあくまでそのときの報復と言い表せましょう。


 今駄々を捏ねたところで水掛論にしかなりませんので何も言いませんけれども。嫌味ったらしい物言いが実に腹立たしいのです。


 仰々しく腕を広げて……既に勝ち誇ったかのように肩を揺らしてクックと笑っていらっしゃいます。


 ペストマスクのせいで表情こそ見えませんが、今もなお目元が怪しく光っているのが分かりましたの。



「ちょっと、何がおかしいんですの!?」


 イライラ的な怒りは見せつつも、心の内ではどこか氷水のような冷静さを保っておきます。踊らされたら負けなギリギリの立ち位置なのですから。


 身体から離れた黒泥を回収するため、今のうちに会話による時間稼ぎをさせていただきますの。


 話を長引かせれば長引かせるほど、地中を通して靴裏から地味に補充し直すことができるのです。



「……クク、クククク……」


「ふぅむ!?」


 茜のガード用に放出している分も考慮いたしますと、最低限身体を覆い隠せる量くらいは回収しておかなければなりませんわね。


 この身を守る黒泥が少ないということはつまり、攻撃に転用する分も少なくなってしまうということに直結いたします。


 私だって敵の手の内を完全に把握しているわけではないのです。手数は多く用意しておきたいですの。



「あのちょっと!? 何がおかしいんですのって聞いてますのッ! 地味ぃに無視しないでくださいましッ!? まったくさっきからニヤニヤと、イヤらしい態度ばかりしなさって……!」


「……ククク。いやぁね、一線を退いた魔法少女といえこの程度のモノなのか、と。思い出し笑いをしていたのですよ。正直準備運動にもなりませんでしたからね。退屈すぎてあくびが出てしまいそうでしたよ」


 やれやれのポーズを極限にまでウザったらしくしたような大袈裟な仕草をなさいます。さっきから度を越したアピールばかりなさっておりますの。


 まるで誰かに言い聞かせているかのような口振りです。


 この場に居るのは私と、鳥男本人と、端っこの茜と、馬男くらいしか……あ、なるほどそういうことですの。



「それに比べてユニコーン。貴方は随分とこっ酷くやられたようですねぇ。いやはやなんとも滑稽な姿になられたようで」


「ッせぇ。せいぜいお前も気を付けやがれ。青い方のガキゃ、過去に比べちゃ明らかにパワーアップしてやがんぞ。少なくとも気ぃ抜いたまま戦える相手じゃねえ」


 ほほーん。警戒していただけて恐れ入りますの。私にブン殴られて角をへし折られて身に染みたのか、その潔さと賢さだけは褒めて差し上げましてよ。


 そのまま過去にも詫びて頭を地面に擦り付けてくださいまし。おまけに靴も舐めさせてあげますの。私とメイドさんに心から謝罪してくださいまし。



 一方、助言された赤鳥の方は憎々しい態度を一ミリとも変えようとする気配がございません。むしろ更にわざとらしく腕を広げて挑発的なポーズをなさっておりますの。



「……だとしても、所詮はその程度のレベル止まりということでしょう? 二人で掛かれば造作もない存在です。さっさと片付けて本部に返り咲きましょうよ」


「おうよ。この角の借り(・・)を数倍にして返してやらにゃ俺も気が済まねぇ。さぁて何して償ってもらおうか。腕の一本や足の一本で済むと思うなよメスガキ」


「くぅっ……!」



 どうやら時間稼ぎはこの辺で終いになりそうですの。

 間髪入れずにピンチタイム到来の予感です。


 幸いにも飛び散った黒泥の大部分を集め直すことはできました。こちらは無詠唱で少しずつ衣服の方に戻しておきます。


 これで防御自体は何とかなりそうです。

 けれども苦戦必須なのは変わりませんの。


 かつてと同じ二対一になってしまいましたもの……ッ!


 しっかし臆することなかれですの。

 ここで燃えねば女が廃りましてよ。


 ようやくリベンジマッチの舞台が整いましたわね

ッ! 震える心を無理矢理意地で抑えつけて、連合連中の二人にまっすぐに対峙いたします。



「こっほん。魔装娼女イービルブルー、いざまいりますの。二人まとめて地獄の釜に叩き落として差し上げますからご覚悟くださいまし。

お尻の穴から黒泥を流し入れて奥歯をガタガタ言わせて差し上げましてよッ!」


 お仕事中(慰安業務)でもなければあまり汚いことはしたくありませんけれども! 取れる手段の一つとして勝率に影響するのであれば易々と選択肢から外すわけにもまいりません!


 それに今なら金的も尻攻めも難なくこなせますのッ!

 恥ずかしさのカケラもございませんのッ!


 まったく悲しい慣れと運命(サガ)ですわねッ!



 ……冗談は胸の内だけに留めておきまして。


 地面を蹴って拳を握り締めて、まずは鳥男の懐に思いっきり飛び込んで差し上げますッ!

 

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