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お前さんの協力が不可欠になってくるわけで


「おう。いい顔だ。それでこそ俺も提案のし甲斐があるってもんだよ」


 先ほどの怪しげな笑みとは打って変わって、総統さんはとても晴れやかな微笑みを向けてきてくださいました。


 この屈託のないご表情だけを切り取ればホントに爽やかな好青年にしか見えませんの。


 悪の秘密結社とは無縁な清々しさです。


 ただでさえ年齢不詳を体現なさるお方なんですの。若々しさが更に際立ってしまいます。


 ……でも、実際のところ総統さんっておいくつなのでしょうね。小耳に挟んだことさえございません。


 案外年齢は近そうに見えて、しかしながら当たり前に離れてもいるような気もして。謎は深まるばかりです。



「……ん? どした? ジロジロ見て」


「あ、いえ、何でもありませんの」


 咄嗟に目を背けてしまいます。

 といいますか余談は後でよろしいのですッ!


 今一番大事なのは私が強くなる為の術ですの。禁忌に触れないギリギリの範囲をお教えくださいまし。


 わりと切羽詰まっているのでございますっ!



「さぁさぁご主人様ッ! 取り返しのつかないこと以外でしたら何でもバッチコイの精神でしてよッ!」


「……ブルーって時折古くさい表現するよな。まぁいい。方法っつーのは意外に単純だ。お前の魔法少女としての適性(チカラ)を再活用してやればいい」


「はぇ? 私の、魔法少女としての?」


 そうは仰いましても、かつてのチカラなどとうの昔にサヨナラしてしまいましてよ?


 三年が経った今も感覚くらいは覚えておりますが、今更この拳に力を込めたところでウンともスンとも反応してくださいませんし。


 浄化の光なんてモノは以ての外です。ホントに1ケルビンも生み出せませんの。


 どんなに気張ったところで脂汗くらいしか滲み出せない非力レベルに等しいのです。試しに右手をぐっぱぐっぱと開いたり握ったりしてみましたがやっぱり何も起きません。


 多分、あと何年経ったとしても無理な話ですの。

 私は〝元〟であって〝現役〟ではないのですから。

 無い物ねだりをしたところで、だとは思いますの。



 疑念と諦念をごちゃ混ぜにしたような表情を向けて差し上げましたが、総統さんは当然だろうなと言いたげなお顔で、そのままお話をお続けなさいましたの。



「うぉっほん。いいかよく聞け。 正確には、お前らでいうところの魔法少女の〝適合率〟を、イービルブルーの〝偽装〟にも当て嵌められるようにすればいいんだ」


「ふぅむ……適合率を……偽装変身に……?」


 先ほどから言葉を覚えたてのオウムみたいに復唱するだけのマシーンと化してしまっておりますが、これは致し方ないと思いたいです。


 単語単語としてはもちろん理解できておりますが、文章として聴いても全くしっくり来ていないというのが本音なのです。



 この際ですから一度整理しておきましょうか。



 魔装娼女のチカラとは装備のチカラですの。

 私個人の身体能力は一切加味されておりません。


 ゆえに、基本的にはイービルブルーの強さはブレたりしないのです。


 例え話的に〝魔法少女だったら適合率90%くらい〟……などと表現することはございましたが、あくまでアレは相対的な指標として用いていただけで、本来はそれとこれとは全くの別モノなのだと一応は認知しているつもりです。


 そもそものお話、魔装娼女の力は思いの力とは紐付いておりませんし。懇願したところで黒泥は何も答えてはくださいませんし。



 全ては装置の〝すぺっく〟に左右されるらしいのです。


 胸のブローチが〝めんてなんす〟されて〝あっぷでーと〟されたら、より〝すまーと〟かつ〝ふぁんくしょなる〟になっていくような仕組み、とか何とか仰っておりましたっけ?


 横文字が多すぎてよく分かりませんでしたの。



 とにかく要するに、〝装置の機能〟を〝私が正しく扱いきれるか否か〟に全てが掛かっているといっても過言はなかったはずです。


 どんなに使い込んで体の一部のように扱えるようになったとしても、更にチカラが増すわけではないのです。


 はい。整理終わりですの。


 まだ納得のいっていない部分が多いです。

 私がこのブローチと適合するとなると……?


 もう少し詳しい説明をくださいまし。



「知ってのとおり今のお前は変身装置自体の性能分しかチカラを発揮させられていないわけだが。

そこにブルー本人の潜在能力を引き出す機能まで追加できたらどうよ? ってことだな」


「ふぅむむむ? むむ?」


「言葉を変えよう。今のお前はセンスだけで装置を操っているらしいが、それだけでは100%までしか力を発揮させることができない。

しかし。もしもお前自身の身体能力そのモノもチカラ側に相乗させられたら。そのときは今から戦闘力200%アップや300%アップも夢ではないってお話だ」


「ほほほ〜う! ……ふぅむ? ほほん?」


 分かったようでやっぱりよく分かりませんでしたの。


 口頭でつらつらと説明を受けても全部は飲み込めません。私、学生時代は優等生としてブイブイ名を馳せておりましたが、今は慰安要員として過ごしているうちに、全て身体で覚えるのが主なスタイルとなってしまったのでございます。


 これを進化と呼ぶべきか退化と呼ぶべきか……筆舌に尽くせる日は訪れてくださらないでしょう。



 いつ頭から湯気を出してアピールして差し上げようかと隙を伺っておりましたが実際に行動に移すことはございませんでした。


 といいますのも、私の後ろ側に控えていらっしゃった茜の手の中に居るプニが、狭いジャミング装置の中でやたらと身体をくねらせているのが見えてしまったのでございます。


 実に何か言いたげな感じを受信いたしましたの。皆の視線が彼に集まっております。



「……なるほどプニね。今朝見た美麗の戦闘スタイルの違和感はそれゆえプニか。

確かに上手く使い(こな)してはいたプニが、逆に機械に使われているような雰囲気も感じていたプニ。やけに一方的な感じだったプニ」


「ほう。さすが変身装置(当事者)目線からだとそう映るのか。いい感想データだよ。参考になる。

実際のところ、変身装置の製造技術に関しては俺らは完全に後手に回っちまっている。まして兵器開発の専門家が居るわけでもない。ソレも模造品かつ試験運用版でしかないわけだしな」


 総統さんが私の胸のブローチに視線をお向けなさいます。


 ほんの少しだけ諦めや悲しみを含んだような微笑みをお見せになったあと、小さな溜め息を一度だけお吐きになって続けられます。

 


「俺個人としては結構会心のデキだと思ったんだけどな。開発班もめちゃめちゃイイ仕事をしたと胸張って言える。

ンだけど、アレを試作品としてではなく完成品として鑑みちまうとな。やっぱり足りてない部分があまりに目立ちすぎてしまうわけで。装備単体としても既に頭打ちなシロモノだろう」


「製品版のプニから見てもそう思うプニよ」


「ああ、やっぱりか……」


 凹む総統さんとドヤ顔のプニとの対比が凄まじいのです。


 いえ、正確に言えば顔と呼べるような大層なモノはプニには付いておりませんけれども。せいぜいつぶらな目がキリッとしているくらいでしょうか。あくまで誇張表現としてのお話ですの。


 一方その頃な私は、頭の中が終始こんがらがりすぎて(ほど)けないほどの長いパスタを巻き始めております。


 だって仕方がないではありませんか。分からないモノは分からないのです。ですが、まだまだ黙ってお聞きして差し上げますの。


 今余計な口を挟めば更に複雑な会話になってしまうかもしれませんからね。とにかく今は聞き逃さないようにら一言一句に集中する必要があるのです。



 かなり気を落とされたのか、数回はやれやれと言いたげな総統さんが静かに続きのお言葉をお紡ぎなさいます。



「ブルーの装置をよりオリジナルに近付ける……いや、ソレ自体を新たな本物として確立させるには、やはりどうしてもより事細かに元の構造を理解しておかなければならない。

ブラックボックスとして避けていた箇所を正しい手順で突き詰める必要が出てきてるわけだわな。

その為には……さ、そこの赤いモチモチよ。お前さんの協力が不可欠になってくるわけで」


「ほほう、なるほどそう来たかプニね……だから適合率の話にもなるプニか。一応理解はしたプニ。立場上、共感まではできないプニが」


「私は理解も共感も全然できてませんのっ」


 途中から蚊帳の外な空気を感じ始めていたのであえて黙っておりましたが、私だって当事者の一人なんですの。


 機械音痴の気がある私にも分かるように簡単にご説明とご解説をくださいまし。


 そうでなければ自分の中で納得できるだけの材料とお時間をお与えくださいまし。なるべく解釈を寄せて差し上げますからっ。なにとぞっですのっ。

 


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