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蒼井美麗は逃げも隠れもいたしません。

 


「三年前の、お前の仇敵が現れたらしいな」


「さすがお耳が早いようで。何だか前よりもパワーアップしてそうな雰囲気でしたわね。正直困りましたの」


「勝てそうか」


「………………んむぅ」


 ついつい押し黙ってしまいます。とってもズルい質問です、おそらく分かっていてお尋ねなさっているのだと思われます。


 今のままでは、おそらく無理ですの。


 カメレオンさんもそう仰っておりました。

 あの人はお世辞を吐くような人ではございません。

 まして過剰に脅しをかけるような下賎なことも。



「…………正直、かなり厳しいでしょうね」


「……ああ」


 自他双方の評価を自覚しているつもりです。


 無理に意気込んで虚勢を吐くのは簡単ですの。


 しかしながら、ここに居る総統さんが誰よりも私たちの身を案じてくださっているのを知っているからこそ、彼の前では素直な自分であり続けたいのです。


 更なる悔しさに、思わず口をむっと結んでしまいます。けれども嘘偽りのない気持ちをお伝えしておきましょう。



「もちろん、さすがにあの頃の二の舞とまでは言いませんけれども。それでも善戦するにはまだ全然至っていないと思いますの」


「だろうな。奴らの退けるだけの話であれば、また俺が出向いてやるのが一番手っ取り早いモンだが」


「それでは何の解決にもなりませんの。次に同じようなことが起こったら、きっとまた頼ってしまうだけ。負のループから抜け出せませんの。いつまでもおんぶに抱っこのお子ちゃまプレイは嫌なのでございます!」


 私は分かっておりますの。

 甘えた先には何も残っていないということを。彼に依存すればするほど、弱い私が露見し続けてしまうということを。


 つい先ほど庇護下に置かれる喜びを味わいなさいましーなどと宣った私ではございますが、アレは〝全てを依存しろ〟という意味ではございません。


 何事にも限度というモノはございます。



「……総統さんはお強い方ですの。貴方ほどの実力者であれば大抵の相手は小指一本でコト足りましょう。それで全てが万事解決に至れます。

けれども人には人の役割というモノがございますの。貴方に全てをお頼りしてしまっては、私にはもう何も残りません。意地も、自尊心も、私を形作るこの思いの炎も。

……だからせめて、この胸に残ったちっぽけなやる気くらいは灯し続けさせてくださいまし」


 胸に手を当てて、ぎゅっと握り締めます。

 そうして大きく深呼吸をしてから、改めてまっすぐな瞳を向けて差し上げます。


 子の喧嘩に出て行く親が何処におりましょうか。

 同じように、手足(下っ端)のイザコザに顔を出す最頭(トップ)が何処におりましょうか。


 私は私のすべきことを全うするだけです。

 私は、貴方に愛していただく慰安要員である前に、一人の戦う乙女ですの。


 だからどうか貴方は組織経営にご専念くださいまし。

 貴方が私のことをあくまで〝対等〟として扱ってくださるのなら、どうか私の意気を汲んでくださいまし。


 甘えるタイミングだけは間違えたくないのです。

 お仕事がお手隙の際にでも愛していただければそれだけで大満足になれるです。

 全てに依存するだけの足でまといにはなりたくありませんの。



 貴方の、そして私の大切な皆のお傍に。

 ずっとずっと、居続けられるように。

 



「……ブルー。やっぱりお前は強いよ。この俺が保証する。強さってのは何も腕っ節だけの話じゃない。ま、コイツぁお前自身が一番分かってると思うけどな」


 くすり、と。私との根比べに折れてくださったのか、どこか安心したような微笑みを零してくださいました。


 彼もまた私の瞳をまっすぐに見つめてくださいます。



 そして。



「お前が奴らに勝つ為の選択肢は〝二つ〟ある。どちらも一長一短だ。とにかく手っ取り早いが手荒い手段と、時間は掛かるがお前の好きそうでやり甲斐もある手段」


 総統さんが右手と左手、それぞれをお掲げなさいます。片方は天を仰ぎ、片方は地に面しておりますの。



「ふぅむ? お聞きしてもよろしくて?」


「いいだろう。前者はウチの専売特許、簡単に言っちゃあ〝肉体改造手術〟だ。お前も簡単なモノは施されているとは思うが、更にその段階レベルを上げてやる。ヒト(限界)を超えるにはヒト(身体)を変えちまえばいい。ただそれだけの話だな。もちろん非合法の塊だ。当然後戻りもできない」


 ここで総統さんが瞳の奥を妖しく光らせなさいました。彼から感じる圧が鈍重なモノに変わります。


 私たちには滅多に見せない〝負悪の色〟を纏わせなさいましたの。普段は決して表側には出さない彼の秘密結社の首領たる部分をあえて前面にお出しなさったのでございます。


 背筋が凍るような久しぶりの感覚に、思わず冷や汗が垂れてしまいました。これは現役の頃に対峙した以来なのはないでしょうか。


 ちらりと横目に振り返ってみますと、茜も、そして後輩ちゃんたちも同じ表情をなさっていらっしゃいました。翠さんなんて無意識のうちに小さな杖を生成して身構えているくらいでしたの。


 凄むだけで周囲に生命の危機を感じさせてしまうほど、総統さんは荒々しい空気を纏わせたのでございます。


 これは、明らかな、警告、でしたの。



「……えっと。貴方や他の怪人様方にたくさん愛していただく為の〝肉体改造手術〟でしたわね。その節は、とても感謝しておりますの」


 私の心と身体が壊れないように。また私が真に望まぬ間に、新たな未来を授かることのないように。


 ある意味では時を止めるための施術ともいえましょう。


 あくまで配慮の延長上として最低限の度合いに留めていただきましたゆえに、まだまだヒトの身からはハミ出してはおりません。

 せいぜい(ことわり)の外の領域につま先を突っ込んだくらいのものです。


 しかしながら。これ以上の改造を身に施せば、世の中的にいう禁忌の沼に腰からどっぷりと浸かることにも等しくなりましょう。


 とどのつまりそれは、〝怪人化〟の道を辿るといっても差し支えはないのでございます……ッ!



 確かにチカラを得るなら手っ取り早い方法ですの。

 それはその通りなんですけれども……!



「コッホン。すみませんの。おあいにく、メイドさんから直接のご許可をいただくまでは、これ以上この身を弄り回すつもりはございませんの。

……彼女が目を覚まされたときに、悲しませたくはないですから」


「ああ。そう言うと俺も思ってたよ」


 この身体は私だけのモノではございません。大切なメイドさんに生かされたといっても過言ではないのです。


 気を失われる直前に、彼女は私に〝お嬢様(わたくし)の自由の為に生きて〟と仰ってくださいました。


 私が一番に望むのはメイドさんも総統さんも共に傍にいてくださるような未来です。それは地上でも地の底でもどちらでも構いません。


 今から私がその選択肢を減らしてしまってはよろしくないのです。怪人に近しい存在となって、日常生活に溶け込めなくなるようでは正に本末転倒です。


 また地上に戻れたときに、一緒に外を出歩いたり、お買い物を楽しんだり、旅行に出かけたりできなければ……それは私の欲する未来ではございませんの。


 度を過ぎた肉体改造など元より却下の選択肢です。



「安心しろ。俺も前者は選ばないと思ってた。だからこの質問は二択のようで実質は一択しかないんだ。

……んだが後者は茨の道にも等しいモノだ。おまけに相応に運も絡む。上手くいくかどうかは正直俺も分からん。それでもいいなら話してやる」


「ふっふん。確認を挟むだけ無〜駄タイムでーすのっ。そもそも難しいと言われて引き下がるつもりはないのでございますっ。細かいことは置いておいてさっさとお聞かせ願いましっ」


 失礼を承知で懇願させていただきますのっ!


 そもそも楽して強くなれるなら魔法少女にもなっておりませんし、辛い修行にも耐えておりませんし、世の非情に打ちひしがれて地に堕ちて、慰安要員として落ち着いてたりもいたしませんのっ!


 全てにベストを尽くした結果が今の私なのです!

 これからも最上を追求し続ける所存ですのっ!


 出来るかどうかは戸棚の奥にでも隠しておいて、まずはやるだけやってみるのが全てのスタートラインと言えますでしょうっ!? ちがいまして!?



 自信に満ち溢れた瞳で見つめ返して差し上げます。

 おまけにフンスと鼻息荒めにドヤ顔も向けて差し上げます。


 蒼井美麗は逃げも隠れもいたしません。

 どんな試練だって優雅に可憐に乗り越えてみせるのでございますっ!

 

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