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代理戦争

 



 その後、吐瀉物に汚れた身体を洗う為に茜と一緒にお風呂に入りました。


 ばっちいぬるぬるは偽装変身によって全て黒泥の中に封じ込めておきましたの。身体を洗うついでにこっそり流させていただきました。


 その影響で配管が詰まってしまったらすみませんの。

 今度身体で償わせていたたきますからご勘弁くださいまし。



 それにしても、うら若き乙女が四人も混浴風呂に大集合とは。まさか何の事件も起きないわけがなく。



 …………というお決まりがあるわけもなく。



 思えば、既にお風呂の中にいらっしゃった先客の怪人さん方からは終始稀有な目を向けられてしまっていたような気がいたしますの。


 さすがの性欲魔人な怪人さん方も汚ゲロまみれな私たちにはご発情なさらなかったのでしょう。特に何事もなく身を清めることができてしまいました。


 おかげで静かに温かなお湯に浸かれてほっくほくです。

 荒んだ心も少しは(ほぐ)れてくださいましたかしら。



 ちなみに花園さんと翠さんはといいますと、お風呂への移動中にすっくと目を覚まされたのでございます。


 立ち話もなんですし、またイチから説明するのも時間が掛かりそうですし、ということで彼女たちも一緒にお風呂に入っていただきましたの。


 始めは周囲に対して怯えた目付きをしていらっしゃいましたが、自分たちに手を出されないことが分かると、人目を憚りながらも一応は湯船に浸かってリラックスしてくださったようです。



 波間にちゃぷちゃぷ揺られながら、お眠りになっていた間に起きたことを私の口からざざっとご説明させていただきました。


 一、今地上に戻れば身の安全は保障できないこと。

 二、メイドさんの仇がすぐ目の前に来ていること。

 三、私自らの手でガッチガチに懲らしめてやりたいこと……!



 ヒーロー連合側から送られてきた刺客について、始めは半信半疑なお顔をなさっておりましたが……私の必死の訴えかけに一応は理解を示してくださいました。


 ようやく一息つけそうです。



「…………蒼井美麗。これからが本番でしてよ」


 声になるか否かくらいの声量で独り言を呟いておきます。


 ほとんど関係のない後輩ちゃんたちを一連の事件に巻き込んでしまった以上、多かれ少なかれ私にも責任があるのだと自覚しております。


 せめてアジト内くらいでは彼女たちに安全をお届けして差し上げませんと。もてなす側としての当然の責務ですの。



 いったい何日もの間、彼女たちに缶詰状態を余儀なくされることでしょう。そのせいで遅れてしまうお勉強や鍛練についても私たちが念入りに見て差し上げる所存です。


 ふっふん。馬鹿にしないでくださいまし。

 これでも年相応に必要な勉学は続けてきたつもりです。

 ……それもほとんどは独学に近しいものでしたけれども。


 何もしないよりは何千倍もマシだと思いますの。



 あ、そうですの。私に勉強を教わるついでに、ちょっとオトナな職業体験とかもやってみませんこと?


 ご興味があれば手取り足取りじっくりねっとりと伝授して差し上げてもよろしくってよっ。殿方を悦ばせる手捌きや腰捌きは、今では勉学よりも自信があったりいたしますの。



 ……と半ば冗談的なご提案を向けて差し上げてもよろしかったのですが、実際に行動に移してよいかどうかはお上にお伺いを立ててみないとなりません。


 それどころかこれから〝元〟の私を含めた魔法少女勢がどのように過ごしていくべきか。


 何よりもまず組織のトップである総統さんの指示を乞う必要がございます。カメレオンさんも総統さんのところで落ち合おうと仰っておりましたものね。ちょうどいいタイミングですの。



 既にこの争いは私と仇敵だけのお話ではなくなってしまいました。


 正義のヒーロー連合と悪の秘密結社による代理戦争が勃発してしまったのですッ!

 主に私たちをトリガーとして!

 これってトンデモないことだと思いますのッ!


 おっ立てるのは殿方のムスコさんだけで充分だといいますのにッ! 贅沢すぎますのッ!



「コッホン。ではそろそろ向かいましょうか。身も心も清め終わったことですし」


「あ、ちょっと待って。私まだ髪乾かしてない。それにフルーツ牛乳も飲んでおかなきゃっ」


 んもう茜ったら。早くしてくださいまし。

 髪はともかくドリンクは後でもよろしいのでは?

 ……私はいただきますけれども。



「……ハァ。よりにもよって怪人と混浴とかホント正気を疑いましたよ……何なんですか、この施設は……」


「…………でも、最高に……いい湯加減だった……」


「確かにそれはそうでしたけどっ。その点はわりと高評価なんですが……っていうかやたらに豪華だったというか……ごくっ、ごくっ」


 

 尖らした口とは裏腹に、腰に手を当てて牛乳を飲み干す花園さんと翠さんまでおりますの。


 えっとあの、急いでほしいのは貴女たちも、でしてよ?


 もしや二本目に手をお掛けになさっておりませんか?

 既に口の周りに白い輪っかができていらっしゃいますのに。


 まったく。この私だって安全な施設内に戻れて一安心したい気持ちがヤマヤマなんですけれども……ッ!?


 責任感ゆえに急かしておりますゆえに……ッ!?


 貴女たちがそう言う態度を取られるのであれば、私だって今からもう一本目の蓋を開けてしまいましてよ……ッ!?



「ほーらっ皆様方。さすがにそろそろ準備はお済みでして? ぼちぼちまいりますわよっ! 改めて気をお引き締めなさいましっ!」


 これからの行動について、組織のトップさんと認識の擦り合わせをする必要があるのでございます。


 どこまで彼女たちを組織のチカラとして引き入れる(・・・・・)べきなのか。憎き仇敵をブチのめす準備のためにどれだけの時間を費やしてよいものか。


 私たちの〝日常業務〟をお手伝いいただくのか否か。

 そこまで期待しておりませんけれども。



 前提として、あくまで彼女たちは客人という扱いです。

 怪人の皆様へのご奉仕・・・は努力義務ではございません。


 ただ、私たちと一緒に生活する以上、この施設内で繰り広げられる数多の刺激的な一面に対して、そこまで動じないくらいのメンタルは身に付けてほしいものです。


 ふぅむ。やっぱり大事なのは場慣れでしょうかね。今夜辺り夜のお伽に同伴していただきましょうか。意外に名案かもしれません。


 私自身、第三者に見られながら致せるというのも中々に興奮するのでございますっ。むふふ、ぐへへへぇ。



「でぇへへ、げへへへぇ……ですの。じゅるり」


「美麗ちゃん。急かしてる自分が一番気ぃ抜けちゃってるよ」


「おっと。うぉっほん、ですのっ」



 早速本題から逸れそうになってしまいましたわね。

 とにかく夜を迎える前に方向性だけでも固めておきたいものです。


 第一に花園さんと翠さん、それからプニの処遇を定めねばなりません。そこで全てが決まるといっても過言ではないのですから。




 お風呂から上がって身体を拭いて、キンキンに冷えたフルーツ牛乳を喉に流し込んで……それからキチンと髪を乾かしたり着替えたりもして……私たちなりに身なりを整えてから、ようやく総統さんのいらっしゃる下層へと向かうことが叶いました。



 そんなこんなでちっぽけな過去回想は終わりですの。



 ただ今はその道中にある専用エレベーターの中なのでございます。


 ブゥンブゥンという唸るような低いモーター音だけが静かに室内に響いておりますの。


 身体に掛かる重力のせいなのか、それともなんとなく重苦しい雰囲気が立ち込め始めたせいなのか、どなたもお口を開こうとはなさいません。


 ようやく本題に移れそうですの。皆様、私含めてやるときはやるいい子ちゃんなので助かります。



 エレベーターを降りた先には、壁に背中を預けるカメレオンさんの姿がございました。小脇にプニ入りの通信ジャミング箱を抱えていらっしゃいます。


 私たちの到着に気がつくや否や、こちら側にポイッと投げ渡してくださいました。掴んで茜まで回して差し上げます。


 よかったですの。綺麗に消臭もしていただいたようで、鼻につくような酸っぱさや不快さは少しも感じることはございません。




 足音を立てずにゆっくりと前を歩くカメレオンさんの後に続きます。



 そうして司令室と表札の付けられた両開きの大扉の前に佇まれまして、またコンコンと数回ノックなさいまして。



 今回はそこそこ大所帯での来場となりましたの。

 到着にビックリされませんかしら。


 

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