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おぶっ……おぼぇえぇえええ

 

 しばらく模擬バトルを繰り広げていたとはいえ、私たちはつい先ほどに地下施設から転移してきたも同然ですの。加えて大して目立つような騒ぎも起こしてはおりません。


 それだといいますのに、この土地をあまり知らない馬男と鳥男に〝偶然〟見つかることなど、万に一つもあり得ないと思いますの。それこそ奴らが網を張っていたか、もしくは何かの罠に引っ掛かってしまったか……!?


 他に何か理由があると見て間違いはない、と。

 そう見立てておくのが普通のことでしょう。



「……ってことはまさか。やっぱりアナタまで私たちを裏切ったんですの!?」


 かつて相棒だったポヨが私を欺いて、メイドさん共々罠に嵌めて(おとし)めたときと同じように。


 プニもやっぱり連合側の存在だったってことなんですの!? その心の内では離反した私たちを良くは思っていらっしゃいませんのでして!?


 お久しぶりの再会を喜んだのも束の間に!

 本当はただただ彼の手のひらの上……いえ、もにゅもにゅの上で踊らされてしまっていただけなんでして!?


 そんなことって、あんまりですのッ!


 変身中の茜の胸倉を掴むわけにもまいりませんので、代わりに宝石部分をキッと睨み付けて差し上げます。



「ば、バカ! 違うプニよ! 冗談でもそんなこと言うなプニ! 誓ってそんなことしないプニ! 今日茜に会える日を! どれだけ楽しみにしていたか!」


「口では何とでも言えますの。私には……アナタ方の心は分かり得ませんから。もしあの頃、アナタ方(変身装置)の心が見えていたら……」


 見えていたら、きっと過去は変わっておりましたでしょう。今の境遇も変わっていたと思いますの。


 地に堕ちて、三年もの間、ずっと独りぼっちな気持ちを感じる必要もなかったのです。そうして仮初の承認欲求に身を浸す必要も、おそらくはきっと……!


 後悔ともまた異なる哀憂の気持ちです。



 しかしながら、視線の先にいた茜は実に堂々とした顔をしていらっしゃいました。私の目を見つめて、大丈夫だよ安心してと言わんばかりに優しげな雰囲気を醸していらっしゃるのです。自然と心が和らいでしまいますの。



「美麗ちゃん。多分大丈夫だと思うよ。私はプニちゃんを信じる。だってほら、ウソ付いてたら分かるもん」


「でも、どこにそんな根拠が……っ」


「ほーらっ。さっき話した念話信号っ。いつでもどこでもダダ漏れてきちゃう便利だけど不便なやーつっ。伊達にこの子の相棒、やってないからね」


「あ、なるほどですの」


 まるで聖母のような微笑みを浮かべた茜が、胸のブローチを優しく優しく包み込みなさいます。


 まるでホッとしたかのように宝石プニが柔らかな点滅を繰り返しなさいますの。


 私も、少しだけ安心いたしました。

 茜が仰るなら信じるしかございませんでしょう。



「……な、ならいいんですけれどもっ」


 もともと私の杞憂や早合点で終わるのであれば何の問題もないのです。あ、あくまで可能性の一つを突き詰めただけなのですからっ。


 私はもう親しい方から裏切られたくないんですの。

 誰ともサヨナラしたくないだけなんですの。


 敵に負けてこの身を痛め付けられるよりも、身内に見捨てられる方がずっとずっと怖いのでございます……!


 気が抜けてしまったのかヘタリと地面に座り込んでしまいます。けれども敵前だということを思い出してすぐさま膝に力を入れ直しました。忙しいのです。



 プニの潔白さが示されたとなりますと、それでは馬面(ウマヅラ)鳥頭(トリアタマ)がこの地に辿り着けた理由は、どう説明をつければよろしくて?


 さすがに偶然の一言で片付けるのは難しいと思いますけれども。前方のカメレオンさんとヒーローの二人に疑問の視線を向けてみます。



「ほう。少しは疑心暗鬼に囚われてくださればと思いましたが、そう都合よくはいかないようですね。よろしい。特別に教えてしんぜましょう」


 不死鳥男がクックと喉を鳴らしながら、大袈裟に腕を広げて注目のアピールをなさいます。


 脇から肘にかけて地面に向けて放射状広がるキラキラのビラビラが妙に鬱陶しいのです。まるで年末の歌番組のオオトリを務める演歌歌手のような……?


 地上にいた頃はおねむの時間でしたのであまりマジマジと見たことはございませんけれども。



 何かドヤ顔で言いたげなご様子でしたので一応気にして差し上げます。



「その変身装置には前々から目を付けていたんですよ。ええ、我々が直々にねぇ。やたらと本部の内々情報にアクセスしていたようですから。不審な行動を掴むために故意に泳がせていたというわけです」


「プニちゃん、結構バレバレだったってさ」


「プニぃ……面目ないプニ」


 水饅頭形態ならぺっこりと凹んでいらっしゃったでしょうね。しかしただ今は宝石形態なのでせいぜいくすむか発光するかくらいしか感情表現ができませんの。


 私たちには一瞥もくれずに鳥頭が声高らかにお続けなさいます。



「そうして本日、突然に通信が途切れたので、これ見よがしに最終地点に〝網〟を張っただけのこと。

もうしばらく潜伏しているつもりでおりましたが、まさか当日のうちに貴女方が姿を現してくれるとはねぇ。かなりの手間が省けたというものです」


 ほほーん。潜伏ってことは野宿のご予定がございましたの? こーんな何もない工場跡に? 夜とか絶対に虫が寄ってしまいますのに? 蚊に刺されてカイカイ祭り必須な場所なんでしてよ?


 こんなに蒸しアッツい中の捜索活動を強行されるとは、まったくお可哀想なこと……!


 連合連中も相当にお暇なんでしょうね……!



「ま、こういうっつーことは通信ジャミング装置はキチンと機能してたってこったナ。ボロ出してくれて助かるゼ。さすがはウチの開発班よ。

ってなわけで赤ガキ。装置をこの箱ン中に入れとけ。もう変身も解除していい」


 後ろを見ずにポイッと通信阻害箱を投げ渡されます。


 なかなかのコントロールでしたので、茜もその場から動かずに両手でキャッチなさいましたの。


 ふぅむ? ですけれどもまだ敵前真っ最中でしてよ?


 それなのに変身を解除してしまってもいいんですの? 


 茜と二人で顔を見合わせてみましたが答えは見つかりません。いいと仰るなら素直に従わせていただきますけれども。もしダメならダメでまたストップのお声を掛けてくださると思いますし。



 茜が小さく頷きますと、彼女の身体の周りから淡い光が溢れ出していきました。一際眩い閃光が放たれたかと思いますと、プリズムレッドの衣装姿からネグリジェ正装姿へとお戻りになられました。


 分離した水饅頭プニを通信妨害箱の中へと平手でご収納なさいます。蓋を閉めたら、はい完了ですの。



「んじゃガキ共、さっさとズラかる(・・・・)ぞ」


「了解で――ほぁぇ!?」


 自然な声色に面を食らってしまいましたが、すぐに我に返ってツッコミを入れさせていただきます。


 だって、もう退散するんですの!?

 あんなに颯爽とご登場しなさったのに!?


 か弱い乙女を守る騎士みたいにカッコいいお姿を披露してくださるのではありませんの!?



「おまっ逃げるのか!? 勝手に割り込んでおいて!?」


 どうやら馬面男も同じ気持ちのようです。



「あくまで戦略的撤退だよ。テメェらの相手はキチンとこの青ガキ共がしてやンから喜びやがれ。

ンだがそれは()じゃあネェ。時が来たらコッチから殴り込み入れてやんからヨォ。それまでボケ顔晒して驕り高ぶっててくれナ。連合の犬共さんよ」


「ほほぇっ!? でっ、ででっですのっ! だそうですの! せいぜい首洗って待ってらっしゃいまし!」


 咄嗟に立ち上がって、カメレオンさんに合わせて口上を言い放って差し上げます。


 よかった。一度は諦めかけましたがやっぱり私にやらせていただけますのね!? しかも今ではなく、きちんと心と身体の準備までさせていただけると!? 


 完璧なお膳立てではございませんの!

 ふっふん! 連合連中も命拾いなさいましたわね!


 私が本気の本気を出したらアナタ方なんて一ラウンド目に一撃KO間違いなしですの!


 今はまだ減量中で調整中なボクサー的に本気が出し切れていないだけなのです! おそらく! 多分きっと! そう思っておかないと気が気でなりませんの!



「………………フン。まぁよろしいでしょう。強き者が情けを与えるのが世の常。三年前は思わぬ奇襲に不覚を取りましたが、今の我々は至極万全です。今更逃げも隠れもいたしません」


 赤いペストマスクの向こう側、微かに見えている両の瞳が怪しく光ります。清々しさの欠片もございません。


 そのまま静かな声でお続けなさいます。



「では〝元〟プリズムブルー。そしてプリズムレッド。せいぜい残された時間を怯えながら過ごすといい。アナタ方が時間をかければかけるほど、潜伏先の在処を特定されるリスクも増えていくのですからね」


「ふっふんですの! そんなの知りませんの! 弊社の技術力は世界イチぃィイですの! 簡単には暴けませんから悪しからず!

べーだ! べろべろばーですのッ!! おとといきやがれーでーすのッ!!!」


 一方的に言われるだけでは悔しいですの。こちらも精一杯の挑発を放っておきます。もはや負け惜しみに近しいものですがまだ負けておりませんからノーカウントなのです。



「ほいよ赤ガキ。ぼーっとしてネェで緑と桃ガキの身体に触れとけ。もちろん青ガキの手も離すんじゃネェぞ!」


「えっと、わかった了解!」


「青ガキも! バカみテェに吠えてネェでさっさと飛ぶぞ! 〝転移〟!」



 私が身構えるより先にふわっと身体が浮き上がります。急な浮遊感に思わず舌を噛みかけましたがギリセーフでしたの。


 いえ、正確にはセーフではありません。

 むしろ実質アウトに近しいのです。


 いきなりのことでしたから私、まだ前準備が全然できておりませんの。地面に腰を下ろす暇さえなかったのでございます!


 いつもの転移なら地べたに座っていられましたのに、今回はただでさえ直立不動かつ敵前の緊張感真っ只中だったのです。


 揺れの度合いが二倍も三倍も大きく感じますの。

 その分、内臓が抉られるような不快感も高まっておりまして……!


 強烈に襲いかかってきた内臓的ダメージに、すぐに胃液が上がってきてしまいます……!


 上下左右ところか前も後ろも分からなくなるような無重力感がダイレクトに脳を刺激いたしまして……っ!


 それはもう、胃液が軒並み口からコンニチハしそうなくらいに五臓六腑を掻き乱しましてぇ……うぇっぷ。あ、これマジでヤバいヤツですの。


 まだ、少しも転移は終わっていないといいますのに――なんだか先ほどから、鼻の奥が心なしか酸っぱ……っ。





「………………うっぶ……」


「待って美麗ちゃん!? もう少しだけ我慢して!?」


「もう……ら、めぇ……れ、ぶふっ」





――――――

――――


――







「おぶっ……おぼぇえぇえええ」


「茜。なんだか前が見えないプニよ。さっきは真っ黒だったのに、今度は真っ黄色でどろどろな液壁だプニ」


「…………そうだね。お風呂入ろっか」


「身ィ清めたら総統閣下ンとこに集合ナ。ちくしょうめ」



 気が付けば。どうやらアジトに帰ってこれたようですの。もはや無事にとは言いません。

 

 グロッキーながらよろよろと仕方なく立ち上がり、酔いで回らぬ頭のまま中層への道をトボトボと辿ってまいります。服がぬめぬめと気持ち悪いですの。


 汚れたお掃除は……私自身は行いませんが、代わりにあとで片付けてくださったスタッフさんに精一杯のご奉仕させていただければと……。


 どうかそれでご勘弁くださいまし。



「…………うぇぇえ……ですの……。私のよわよわ三半規管……どうしていつもこんなにも……うっぶ」



 この辺も一緒に強化しておきたいですわね。

 感覚器官って修行でどうにかなるモノなんでしょうか。私、とっても気になりますのぉ……っ。

 

 


――――――

――――


――



 

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