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コイツらこそが私たちを地の底に追いやった元凶……!

 

 後輩ちゃんたちを一瞥して差し上げた限りでは、別に目を覚まされた様子は感じられません。むしろその逆、妙なほど静かすぎるくらいなのです。


 プニは周囲を訝しむようにキラリと一度だけ光を反射させて、ヒソヒソ声で言葉をお続けなさいました。



「…………お前たちいいかプニ。ついさっき、誰かに見られているような気配を感じたプニ。怪人センサーの方は反応していなかったプニから……おそらくは、こちら側(連合側)の人員かもしれないのプニ」


「「へぁっ!?」」


 二人して変な声が出てしまいました。


 覗き魔がいらしたんですの!?

 こんな辺鄙で何もない場所に!?

 それもヒーロー連合側の人間が!?


 注意深く周囲の気配を探ってみましたが、特に第三者の存在は感じられません。あるのは妙な胸騒ぎだけ……!



 いつの間にかカメレオンさんが姿を消していらっしゃいましたの。


 その誰か(・・)に認識される前に隠密行動にお切り替えなさったのか、はたまたその覗き魔さんとやらをたった今ご追跡なさっていらっしゃるのか……!


 今この場では憶測しかできません。



「美麗。本当にウチの本部に攻め込むつもりなら、今はまだ手の内は明かさないでおくのが得策だと思うのプニ。プニの言ってる意味、分かるプニね?」


「大丈夫ですの。当ったり前ですの。言われなくても即理解ですの」


「よろしいプニ。お前も少しは物分かりがよくなったようで一安心プニ。美麗。オトナになったプニね」


「ふ、ふっふんっ……ですのっ」


 何にご感心なさったのかは正直分かりませんでしたが、私のことを褒めてくださっているのであれば悪い気はいたしません。


 素直にお褒めの言葉として受け取って差し上げましょう。


 私としてもみすみす敵方に情報を差し上げるほど甘ちゃんではないつもりです。手の内を明かすのは私が直々に認めた方々のみ……!


 これからが大事なのです。自ら不利になるような一手は打ちたくありませんの。



 それにしても。ホントにどんなお輩さんなんですの? 

 私と茜の久しぶりの手合いを邪魔する不届き者とやらは……っ!


 まったく。私たちのことが気になるなら直接お姿を表せばよろしいものをっ!


 強くなった私と復活した茜が直々にぶちのめして差し上げますのにっ!


 考えに耽っていても埒が明きません。


 姿を捉えられない以上はこちらから仕掛けることもできませんもの。君主危うきに近寄らず、というわけではありませんが、今回は早めに切り上げておきましょうか。



「仕方ありませんわね。茜。この続きはまた今度にいたしましょう。これからはいつでも鍛練に励めるのですし」


「うん。そだね。そうしとこっか」


 ふぅむ。素直でよろしいですの。


 念の為に私は偽装変身したままにしておきますが、このまま解散となるなら茜の方は変身を解かないといけませんわね。


 少々忍びないですが、その間に後輩ちゃんたちを起こして差し上げましょう。


 物陰に静かに横たわるお二人に近寄――








「ハッ!? 殺気!?」



 突然、背後に嫌なモノを感じてしまいました。


 ……思わず身体が凍り付いてしまいますッ……!



 かつて私が生を諦めかけたときに心に抱いた、あの冷たくてド黒い感情をそのまま塊にしたような嫌な気配ですの。


 恨みや殺意の念をオーラとしてヒシヒシと感じてしまいます。今にも肌がピリピリいたしますの。


 私の第六感が〝この身体の内々に刻み込まれた恐怖〟を呼び起こしているかのようです。



「ぐっ……そこに居るのは……誰でしてッ!?」


 この背中にのしかかった重苦しい雰囲気を振り払う為、なんとか身体を動かして回し蹴りを放って差し上げますッ!


 少々ぎこちない動作になってしまいましたが、動いてくださったなら問題ありませんの。

 動かしたくても動かせなかったあの頃(・・・)とは違うのでございます!




 ……えっ? あの、頃……?




 振り向いた先の世界には、不快すぎるオーラを放つ奴ら(・・)の姿がございました。



「ぃよう雑魚ガキぃ。俺らの顔、忘れちまったか? あんときは世話になったな」


「随分と探しましたよ。三年と余月でしょうか。あの日貴女を逃したせいで、我々は本部での昇進を見送られてしまった。その責任を取っていただきませんと、ねぇ?」



 聞き覚えのある男性声が耳に突き刺さります。


 そこに立っていらしたのは、かつて私とメイドさんとを散々に傷付けた仇敵のヒーローの二人でございました……ッ!


 ええそうですの。忘れもしませんの。

 あの憎き角馬野郎と不死鳥野郎です。

 

 一方は真っ白なスーツに身を包んだユニコーン男……!


 品性のカケラもないような喋り方をなさって、素行もとにかく乱暴で、心の底から正義のヒーローとは呼びたくない奴筆頭ですの。


 己の快楽と誇示の為に暴力を振るうような輩ですの。率直に言って大嫌いです。


 もう一方、その隣に居るのは真っ赤なスーツを身に纏ったフェニックス男ですの。センスのない赤マントを風に揺らしながら、やたらと尖った赤のペストマスクを付けております。


 口調こそ丁寧ですが、隙間から見える釣り上がった口角が何とも性格の悪さを物語っているのです。言葉の端々に垣間見える研ぎ澄まされた狂気が……彼の傲慢さを助長しております。


 コイツもコイツで嫌な奴筆頭ですの。


 見れば見るほど吐き気がいたしますッ!



「……アナタ方でしたのね。正直探しに行く手間が省けましたの。自らノコノコとお姿をお現しになるだなんて。そんなに私に殴られたかったんでして? まったく可哀想なお人ですこと」


 今なら挑発を返して差し上げられる余裕もございます。


 ついつい殺気に身を強ばらせてしまいましたが、あの日この身に受けた苦痛と陵辱を思い出せば、気を引き締め直して拳を握り締めることだってできるんですの。



「ほぉん。ナマイキな口は少しも変わってねぇようだなぁ。安心したぜ。これで心置きなく復讐(・・)できるってもんだ」


「黙っていれば綺麗な艶華も、一度汚れてしまえば全ては徒花(あだばな)。さすればこの手で正しく散らせて差し上げるというのが筋というものでしょう?」


「はぁ? 復讐? 徒花? アナタ方、もしやその頭の中に詰まってるのはカニ味噌かウニかプリンなんですの?」


 どうしてまた私が傷付けられなくてはいけませんの?

 どこに儚く散る必要がございまして!?

 あれだけこっ酷く命の危険に晒されましたのに!?


 むしろ復讐したいのは私の方なのです。

 こちらに怨みこそあれど、恨まれるようなことは一つとしてした覚えはございません。


 本気で逆恨みも甚だしいくらいなのですッ!



「美麗ちゃん。その人たちって」


 不安そうな声が私の耳に届きます。

 見れば微かに震えていらっしゃいますの。


 でもよかった。貴女はまだ変身を解いていらっしゃいませんでしたのね。生身に戻っていてはどんな危険が待っているか分かりません。


 どうかそのままで、叶うなら私が気を引いている今のうちにお逃げくださいまし。


 私たちが目の前にしているのは少なくとも過去の私では少しも太刀打ちできなかった相手なのです。過去と〝同等程度〟のお力では足りません。


 魔法少女のままではあまりに分が悪く、まして復帰直後の貴女では手も足も出せないでしょう。


 だってだって、コイツらはッ!



「ええ。そうですの。コイツらこそが私たちを地の底に追いやった元凶……! そしてメイドさんの(かたき)なのでございます……!

この憎たらしい顔に一発、いえ、二百発は拳をぶつけて差し上げなくては気が済みませんの。危ないですから茜は離れていてくださいましッ!」


 かつての私が残した宿題は、今の私自らの手で片付けなければならないのです。

 

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