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スピードスケート


「むっぐぅッ!?」


 早速私の黒泥がレッドの白杖を捕らえました。

 端の方からぐんにゃりズッポリと包み込みます。


 彼女も必死に抵抗なさっていらっしゃいますが、この黒泥の粘着力を舐めていただいては困りますの。キュッと吸い付いたら離れませんのっ!

 


「ふっふんっ! そんな凶器は没シュートでございましてよっ!」


 ねっとりと絡み付かせた黒泥を一瞬で再硬質化させ、彼女の手から強引に杖を引っ剥がして差し上げます!


 それでもって私の黒泥ごとポイっと明後日の方向に放り投げて差し上げますのっ!



 鳴り響いたのはいつものカランカランという乾いた音ではございませんでした。


 ただ一音、べっちょり、と。


 まるでオオワシが空高くから気持ちよく御糞をご排泄なさったかのような! とても爽やかな水音が辺りに響き渡ったのでございますっ!


 ふっふ〜ん? まったく誰ですのっ?

 お下品で汚ったないと思われた方は。

 あくまで例え話の範疇ですのよっ。



 時間の長短こそございますが、魔法少女の杖というモノは手から離れてしまえば例外なく白い光となって霧散してしまうのです。対する魔装娼女製のドロドロは消えずにその場に留まることができます。


 おまけに放っておけば自動的に身体の方に戻ってくる帰巣機能まで備わっておりますからね。この違いが大きいんですの。


 自ら拾いに行く手間が要らない分、また再生成のコストが掛からない分、実は私の黒泥の方が圧倒的に便利で省エネで有能なのでございますッ!



 地面にへばりつく黒泥を一瞥して、レッドにしてやったりのドヤ顔を見せ付けて差し上げました。



「ははーんなるほどっ! 私たちの戦いに武器は必要ないってことかなっ!?」


 彼女も飛ばされた杖の方を一目見、私と同じようにニヤリと不敵な笑みを零されました。


 私たち、これでほぼ互角な攻防条件となれましたの。

 どうやら趣旨をご理解いただけたようです。


 仰る通り、この二人の間に武器などは必要ございません。両の拳だけで充分ですの。先に体力が尽きた方が負けという一言があればいいのです。


 腕の長さもほぼ同じ、拳の速さもほぼ同じとくれば、先に疲れを見せてしまった方が負けとなりますでしょう。


 こういうときは耐久型の方がちょっぴり有利かもしれませんの。自ら疲れるような行動はしない分、スタミナの温存を図れるのです。



「準備はよろしいですわよね?」


「あったりき! 第二ラウンドいっくよー!」


 もちろんそれはお相手の攻撃を完璧にいなして差し上げることができればのお話なんですけれどもっ!


 

 すぐさまもう一度ゼロ距離攻撃を仕掛けてきました。

 今度は両拳での怒濤のラッシュらしいですのっ!


 けれども茜の攻撃パターンはだいたい熟知しております! 伊達に長らく横に並び立ってはおりませんからねッ!


 ほとんど目にも止まらぬ拳を、私も肌感覚のミリ単位で避けて差し上げます。今にも耳元からヒュンヒュンという風切り音が聞こえてまいりますの。


 おそらくはタダの人間が奏でてよい音ではございません。そもそも簡単に奏でられるモノでもございません。


 魔法少女だから可能なのです!

 腕だけで充分凶器に成り得まますから困りますの!


 一触即発な達人の間合いをキープしつつ、彼女の腕撃をいなし続けます。直撃だけは受けてはなりません。

 ビシバシという固い弾き音が周囲に響き渡ります!



「ねぇねぇ! みれ……ブルーちゃん!」


「ふぅむ!? いかがなさいましてッ!?」


「身体動かすのって、やっぱり楽しいねッ!!!」


「……ふふっ。それは何よりですのッ!」



 今までで一番威力の優れた正拳突きをあえて両手で受け止めて差し上げますッ!


 その勢いを利用してそのまま後方に投げ飛ばしますのッ!


 さすがのレッドもほんの少しだけバランスを崩してくださいました。身体をふんわりと浮き上がらせなさいます。


 けれどもこの程度の反撃で背中を付けてしまう彼女ではございません。


 すぐさま猫のように空中で体勢を整えなさって、身体二つ分離れたところにすたりと音も立てずにご着地なさったのです。


 やっぱり天性の才能をお持ちのようです。私の全力中の全力をぶつけて差し上げなければ、とてもではないですが彼女の背中を地面に叩き付けることなど叶いません。


 元より隙を生み出すことさえ困難なお相手なのです。これが模擬戦だからよかったものの、本物の対戦なら大ピンチもいいところでしたの。


 しかしながら、この窮地を脱することさえできれば……今後の私にも自信が持てそうです。敵陣に殴り込みを入れても大丈夫だと思えますわね。


 ただ今、魔装娼女イービルブルーとしての真価が問われてしまっております。


 ならばやってやろうではありませんのっ!


 たった今思い付いたトッテオキを披露して差し上げますからご覚悟なさいましっ!



「……偽装 - disguise - !」


 再三にして黒泥操作の謳い文句を言い放ちます。


 今度変化させる部位は〝足〟ですの。正確には靴裏です。鋭利なヒール状だった形をあえて平たくして、おまけに設置面は半固形泥を保ったままにいたします。



 唐突なお話ですが、乾いた氷は滑りませんの。

 その逆、濡れているからこそ滑るのでございます。


 つまり地面と靴裏との摩擦を可能な限りゼロにすれば、たとえゴツゴツとしたアスファルト面でもスピードスケートのように滑走することができるはずッ!


 魔装娼女のチカラなら不可能ではないですのっ!


 ちなみにブレーキは一瞬だけ黒泥を硬質化させればいけそうなのです。操作の癖自体は非常に強いですが、慣れれば今よりずっとトリッキーな攻撃が可能となるはずです!



「さぁ! ご覧遊ばせっですのっ!」


 トライアンドエラー真っ最中の秘策ですが私の戦闘センスが何とかしてくれると信じておりますッ!


 とりあえずの見せ付けのために、まずはレッドの周りをぐるりと大きく一周して差し上げましょう。


 目指すはつぃーっというような優雅な感じです!


 ほぉら見惚れてくださいまし。白鳥の湖もビックリなくらいの優雅さを奏でて差し上げるのですから――





 ぐらり、と。身体が真横に傾きました。

 一瞬だけ地面が横に見えてしまいます。




「――ほわぁっ!? っととと。んっ……ふぅ。はぇー、今のは危なかったですのー……。ホントにすっ転ぶ寸前でしたのぉー……」


「うわぉ何それっ! スリルあって楽しそう!」


「ぬっふっふっ。見た目以上の難易度でしてよ。けれども見て驚きなさいまし。ただのお戯れ用ではございませんのッ!」


 一瞬無様な敗北が見えかけてしまうましたが、何とか体勢を立て直すことができました。もう大丈夫そうです。コツを掴んだような気がいたします。


 改めてその目に焼き付けてくださいましっ!


 地面を滑るようにして一気に彼女に肉薄いたします!



 振りかぶった拳を顔面に叩き付ける素振りを見せ――



「ッ!?」



――つつ、あえて急ブレーキを掛けて方向転換して、そのままレッドの背後に回り込みます!


 よーし寸止めフェイント成功ですの!


 走ったり飛んだりするだけでは確実に再現できない挙動なのです。面を食らってしまうのも無理はございませんでしょう。


 私の身体としては急停止したことによって掛かる重力がハンパないのですが、今だけは気にしていられません。


 この一瞬の隙を無駄にするわけにはいかないのです!



「さぁさぁ! お食らいなさいましッ!」


 調教鞭のようにしなやかな蹴りを放って差し上げますッ!

 

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