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オーク怪人さんの賢者タイム

 

 こんばんは。いきなりですが今回は今までにはなかった新しいパターンなんですの。

 どなたか聞いてくださいますでしょうか。


 只今は真夜中の真っ只中でございます。


 廊下側の照明も大分前から暗暖色に切り替わりまして、窓から漏れ入る光もすっかり優しげなオレンジ色、うっすら淡く部屋の中を照らしております。


 目覚まし時計を見てみれば短針は真東を指しております。泣く子も眠る丑三つ時でございますね。

 まぁこの社員寮では女子供は泣くより鳴く方が圧倒的に多いんですけどね。


 今も目を閉じて耳をすませば、近隣の部屋からは甲高く響く嬌声が聞こえてきます。各人のお部屋で怪人の皆様がお楽しみになっているようですわ。


 残念ながら今日は私が鳴く日ではございません。生憎今日は誰からもお声がけをいただいておりませんので、一人寂しく自室にてフリーを満喫しているのです。


「…………あふ……にしても困りましたわね」


 このまま不貞寝して差し上げてもよろしいのですが、ここで大きな問題が一つ。



「……どうしましょう。ぜんぜん眠れませんの」


 今日も今日とて昼過ぎまで眠りこけていたものですから、こんな時間でもバッチリ目が冴えてしまっておりまして、全然眠れそうな気配にないのです。パッチリつぶらなお目々をキープ、欠伸のあの字すら出てきません。


 ふぅむ。眠気が来るまで暇を潰そうにもこの部屋には何も無いですし、今更どなたかのお部屋に突撃するのも悔しいので気が引けますわね。


 かといってこのまま朝までぼーっとしているのも手持ち無沙汰が過ぎますし。


「はぁ……ご多分に洩れず、暇ですの……」


 ああ、もしこの施設に花園さんが居らっしゃったのなら、まだあの檻の中に囚われていたのなら。


 今すぐにでも叩き起こしに行って、その上瞼に洗濯バサミでも挟んで強制開眼させて、無理矢理にでも私のお話相手になっていただきましたというのに。

 無事地上にお帰りになられてはそれも叶いませんの。



「とりあえず散歩に出てみようかしら」


 どなたか私と同じように暇を潰しているような方が居らっしゃるかもしれません。


 あわよくば、はさすがに虫が良すぎる話でしょうが、案外ラッキーパンチがあるやもしれません。であれば服装はネグリジェのままでいいですわよね。最悪何もなければ普通に戻って来るだけですし。


 そうと決まればと私はベッドから飛び降り、そのまま三段跳びの勢いで自室のドアを開きました。


 いきなり暗い場所から明るい空間へ飛び出したものですから、飛び込んでくる光に目がやられます。前にも触れたかと思いますが、私の明順応はそこまで優秀ではないのです。


 慣れるまで数秒かかりましたが、もう大丈夫です。さぁ参りましょうか暇潰しの旅 in 夜中の地下施設ですの。



 第一曲がり角を曲がったすぐのことです。


 廊下を塞ぐようにして仁王立つ、大巨漢。オーク怪人さんの姿が目に映りました。どうやら自室の前で廊下の寒風に当たっているようです。



「こんばんはですの。夜更かしですね」


「こん、ばんわ。一息、ついていた」


 どうもオーク怪人さんは話すのがあまり得意ではないようで、いつも言葉に詰まりながらお話しなさいます。もう慣れっこですから対して気にしてないのですが、最初は反応の薄い方なのかと冷や冷やいたしておりましたわ。



「あら、今日は茜と一緒ではございませんの?」


「茜なら、オデの部屋で、寝てる」


「ほほーん。もうお楽しみになられた後でしたか」


 殿方の一度は言ってみたいセリフNo. 1ですわよね。さすが絶倫の申し子。無尽蔵の体力とその巨体から放たれる重い一撃はどんな女子も即ノックアウトです。並の子ではすぐに壊されて使い物にならなくなってしまいますわ。


 私だってお相手するときは相応に準備が必要なんですもの。



「……今日は、一日中、搾り取られていた」


 あらまぁ。昨日から茜の姿を見ないと思ったら貴方のところにお世話になっていたんですのね。いつもいつもご苦労様ですわ。


「もう、数日は、出そうにない」


「それは何と言うか、ご愁傷様でございましたわね」


 確かにいつもだったら見事な盛り上がりを見せるお股間の様子も今日はかなりコンパクトに見えますの。きっとぶらぶらタンクの中身がすっかり空っぽになってしまっているでしょうね。


 まったく。無尽蔵さが売りのオーク怪人の息子さんがそんなに縮こまってしまうとは、茜ったら恐ろしい子……!


 いったいあの小さな身体のどこに収まっているんでしょうか。あ、だいたいは垂れ流しでしたっけ。


「まぁでも、あの子を可愛がっていただいているようで何よりですわ。あの子ったら、毎回嬉しそうな顔で報告してくるんですのよ」


 到底人様に言えるような内容ではないのですが、それでもその満足そうな顔を見ていると私の方まで微笑ましくなってしまいますの。それもこれも、オーク怪人が律儀に誠意を持ってお相手してくださるおかげですのよ。


「オデも、嬉しい。あの子は、田舎の、妹に似ている」


 あら初耳でしたわ。貴方、妹さんがいらっしゃいましたのね。田舎ということは、怪人志願のために上京された感じでしょうか。今のお姿になってからは簡単にはご家族にお会いになれないでしょうから、心中お察しいたしますの。


 うん? え、あ、ちょっと待ってください?

 妹に似ている茜とお楽しみになられてますの?

 それってなかなかの背徳感ではなくって?


 私を含め、他の皆様に負けず劣らずの結構な性癖をお持ちのようで……。ただの愛情だけで片付けてはいけない底知れない思いを感じたような気がいたしますが、これはその、あんまり触れない方が良さげな話題なんですわよね?



「……ただ、最近は、少し心配」


 思考回路が迷走しかけていた私を他所に、オーク怪人さんは怪訝そうな顔でそう呟きました。


「あら、何かございまして?

多少回数が増えようとも、内容がハードになられようとも、ああ見えてあの子はかなり丈夫な方でしてよ。貴方もご存知のはずでは?」


「ソッチでは、ない」


「ふぅむ?」


 どういうことでしょう。


「たまに、オデより、ずっと、獣みたいになる。それで、情緒、不安定。笑いながら、泣きながら、気を失うまで、ずっと、心、ここにあらずな、感じだ」


 なるほどそれは確かに気になりますわね。まるで獣みたいにですか。行為に没頭しきっているだけならいいのですが、発情中の猪を更に凶悪にしたような貴方が言うくらいですから、よほど凄い豹変ぶりなのでしょう。


 少なくとも雌猫や女豹のレベルではない、と。

 確かに欲望に忠実なだけなら泣くまでは至らないでしょうし、仰る通り、私も少々怪訝に思います。



「いずれ検査に回す必要はあるかもしれないですわね。ご情報ありがとうございます」


「ああ。今のところは、大分落ち着いている。

できれば、このまま、寝かせてあげたい」


「ええ。そうしていただけると助かります。

ご不便をお掛けして申し訳ありませんわ」


「構わない。部屋の外、気持ちがいい。頭も、冴える。もう少し、このままでいる」


 茜へのお心遣い感謝いたしますの。

 言葉数は少ないですが、こういうさりげない気遣いが出来るからこの人は部下からも上司からも親しまれていて、人望がその胸板のようにぶ厚いのですわ。



 それでは、これ以上オーク怪人さんの賢者タイムを邪魔してしまうのも気が引けますからね。ご負担になる前にお暇させていただきましょう。


「ではまた。そのうち元気なお子種がチャージができましたら、改めて私のお相手もしてくださいな。全力でご奉仕させていただきますゆえにっ」


「ああ。楽しみに、している。じゃあな」


 腕をぐわんぐわんと振ってお見送りいただきました。紳士的でありつつも女心をくすぐる可愛らしいところもある、見ていて微笑ましい方ですわね。



 では次の目的地を探しましょうか。


 オーク怪人さんとの会話を終え、私はまた歩みを進めます。通路はまだまだ先までずっと続いておりますの。


 この先へ進むと以前触れた食堂がありますね。ただ今回はお腹はそこまで減っておりませんし、夜も大分更けてしまっております。残り物があれば御の字くらいでしょう。それにこんな時間に行ってはかえって迷惑かもしれません。


 それでしたら大浴場でしょうか。いえ、こちらもこちらで気が引ける理由がございます。


 今頃は夜行性の魚系怪人さん方が優雅にお寛ぎなさっているでしょうね。せっかく体を休めていらっしゃるのですから、あんまりお邪魔をしたくありませんの。



 と、なると……そうですわね。


 普段はあまり近寄らない場所ですが、ギムナジウムにでも行ってみましょうか。大層な言い方してみましたが要するにちょっと狭めの体育館です。文字通り爽やかに体を動かしたい時などに利用される場所でございますの。


 体育館、と聞くと裏の倉庫までをセットに考えてしまいますわよね。都合よく内側から鍵を掛けられる扉だとか、平均台とかとび箱とかマットとか。有りとあらゆる夢や欲望の詰まった場所が体育館倉庫なのですが、残念ながらこちらまでは備わってはおりません。


 どちらかと言うトレーニングマシンや健康器具の方が充実してまして、それらがやけに多めに常設されているのでございます。


 第一印象としては運動やスポーツを楽しむ場所というよりは、ストイックに己を磨きたい方のためのストレッチジムと言ったイメージです。


 利用者の大半は肉体派の怪人さんたちですわね。鉄アレイやダンベルを片手に足繁く通っているのを度々目にいたします。


 さて。用がある方にはとてもメリットある場所なのでしょうが、普段からマトモな運動はしない私にとっては、正直体育館もジムもあまり印象は変わりません。


 ジャンジャンほと走る汗、ムンムン溢れ返る熱気、ムワムワと漂う芳しい男臭。乙女にとっての魅惑空間なだけでございます。


 大袈裟に前置いてはみたものの、こちらもこんな時間帯ではさすがに誰も居ないでしょう。


 一人軽く体を動かして、そして程よく疲れさせていただいて、それからスパッと気持ちよく眠ってやろうではありませんか。


 ともなれば善は急げです。

 あ、ネグリジェで来たのは完全に失策でしたの。

 一転攻勢ならぬ一転防勢な発言でしょうか。


 仕方ありません。この格好でも出来る器具を探せば問題ないのです。具体的な案は着いてからまた考えるとして、つべこべ言わずに現地に向かいましょう。

 

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