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恐ろしく速い

 

「安心しナ。別に中に入ったからといってぐちゃぐちゃのドロドロにミキサーされるわけじゃあネェよ。せいぜいほんの少し窮屈で息苦しいだけさ」


 カメレオンさんがジャミング装置とやらを指先でバスケットボールのように回転させなさいます。とっても器用さんですの。


 やっぱりそれ、狭いんですのね。


 印象としてはスズムシを飼う用の虫カゴみたいな感じです。一緒にキュウリやナスの切れ端を入れておけばプニも喜ぶかもしれません。



「ぷふっ。秋の夜長にはプニプニプニっと鳴くんですの?」


「美麗いきなり何言ってるプニか?」


「な、なんでもないですのっ」


 想像するととってもシュールなのです。新たな季節の風物詩にもなり得るポテンシャルがございますわね。


 まっ。狭いのは我慢してくださいまし。

 けれども学生カバンの中に居たときよりは快適でしょう?


 だって持ち主によって振り回されたり、揺れで筆箱やら教科書やらに押し潰されたりする心配はないのです。


 通信ジャミング装置というからには外部からの電波を遮断できるということですの。それってつまり、余計な振動アラート機能も作動しないってことですのよね?


 静かな空間でぐっすりスヤスヤ間違いなしなのではありませんでして!?


 変身装置界ではストレス社会の救済主ですのッ!

 知りませんけどッ!



 ……コッホン。独りテンションが上がっている私を他所に、カメレオンがお続けなさいます。



「一応簡単に説明しといてヤんよ。コイツはな、どんなに優れた電波機器だろうと光通信装置だろうとただの能無しデクの棒と化させちまう便利グッズだ。

帰る時にゃあ出してヤっから安心しナ。ウチが情報漏洩のリスクを負う以上、念には念を入れさせてくれっつー話さ。他意はネェ」


「なるほど。交換条件というわけプニか……」


 ふぅむ。そういうことになるんですのね。


 プニだってノーアポイントメントでお越しになるわけですから、簡素でもそれ相応の対処をさせていただかなければ弊社としては素直に首を縦に触れないわけなのです。


 ……でも、いきなりにしてはやたらと物品のご用意と到着がお早かったですわね。確か総統さんのご指示と仰いましたっけ。今度時間があったらお尋ねしてみましょうか。



 この場にいる全員の視線がプニの元に集まっております。


 件のプニは私の顔と通信ジャミング装置とを交互に見比べていらっしゃいますの。ぐむむと小さく唸りながら、ゆっくり目をお閉じなさいます。


 そして。



「分かったプニ。その条件呑んでやるプニ。本来なら罠を疑うべきところプニが、そこにいる美麗を信じてやるプニよ」


「話が早くて助かる」


「ふっふんっ。何だか全然よく分かりませんがえっへんドヤドヤですの。良きにお計らいくださいまし」


 別に私自身は何もしておりませんし何も知らされてもおりませんが、とりあえず腰に手を当てて胸を張っておきます。こういうときはアピールが大事なのです。


 ポーズを決めている裏腹に、事態が丸く収まってくださったことにこっそり安堵している自分もおりますの。



「そんじゃ早速だがこン中に入っといてくれ」


 カメレオンさんが通信ジャミング装置の持ち手部分をぱっくりと開かれました。


 軽く助走をつけたプニが勢いよく中に飛び込みます。キュポンと音を立ててすっぽりと収まってくださいました。


 蓋を閉めると透明だったガラス面が軒並み真っ黒に切り替わります。一時的に視界をシャットアウトできるみたいですの。


 そのままぽいっと私の方に投げ渡してきました。



「青ガキ、ソイツはお前が抱えてろ」


「了解ですのっ」


 ちょっと乱暴かもしれませんがカメレオンさんらしいと言えばカメレオンさんらしいのです。


 ちなみに受け取る際にバランスを崩して落としてしまいそうになったのは私だけの秘密ですの。



「ぐぬぅ……もっと大切に扱ってほしいプニ。今天井に頭ぶつけたプニ」


「頭……? アナタある意味頭しかないじゃありませんの……」


 一見では半透明の赤色水饅頭にゴマみたいな目がチョンチョンと付いているだけなのです。間違いなく一頭身ですの。


 このプニプニな塊のどこに変身機能やら通信機能やらが備わっているんでしょうね。私は開発班ではありませんので分かりませんの。ヒーロー連合側のブラックBOX解明をお待ちしておりましてよ。



 中から微かに息遣いが聞こえてまいります。


 完全に密閉されているかと思いきや音声会話くらいは可能なようです。通信ジャミング装置、なかなかに便利ではありませんの。


 ともかくこれでプニの下ごしらえは完了いたしました。

 それでは、次の工程に移りたいと思いますの。

 今度は現役魔法少女さんのお二人の番です。



「花園さん翠さん。貴女方も警戒していないで駐車場の中央に来ていただけませんこと?

ご安心くださいまし。この人見た目は怖いですが別に取って喰べたりはなさいませんの。それに私たちは……守備範囲外らしいので」


 ガキの相手はしてくださいませんのよ。

 私もうオトナですのに。


 呼びかけに現役ちゃんたちがこっくりと頷いてくださいます。素直でよろしいですの。話が早くてホント助かりますの。



 懐から二つの黒い輪っかを取り出します。


 こちら私が地下施設にお世話になる際に総統さんからいただいた愛玩首輪(チョーカー)のコピー品です。


 あくまで紛い物ですのでこれ自体に〝特別なご加護〟は施されておりませんが、弊社内の暗黙のルールくらいは作用してくださるはずです。


 お二人に一つずつ手渡して差し上げます。



「では、何も仰らずにご装着くださいまし」


「……?」


「重ね重ねお伝えいたしますがタネも仕掛けもございませんの。ただちょっとした弊社内のルールがあるのです。そちらを身に付けている限り、他の怪人さんや戦闘員さん方に手出しされなくなりますの。何事も安全第一でまいりましょっ」


 このチョーカーを巻けば〝ご主人様のお手付き(総統さんの客人)〟という意味合いを視覚的に示せるのでございます。


 ほら、触らぬ神に祟無しということわざがありますでしょう? 皆さん総統さんの強さを理解しているからなのか、キチンと決まりを守ってくださいますのよ。


 この私こそが生証人ですの。



 花園さんは恐る恐る、翠さんは渋々というようなご様子でしたが、お二人ともゆっくりと首に巻き始めてくださいました。


 側から見ているとペット感が物凄いですの。実に愛玩的で加虐心をそそられてしまいます。


 ですが私が手を出したら、他の怪人さん方と同じくキツいお仕置きをされてしまいますの。今はノータッチを決め込みます。


 ……いえ、待ってくださいまし? でもそれって捉え方を変えればかなりのご褒美ではございませんでして?

 

 合法的に総統さんにご指導いただけるんですのよねッ!? 

 メリットしかないのでは!? 今度は被虐心がそそられてしまいますッ!



 ……いえ、やっぱりやめておきましょう。

 彼に嫌われたくはありませんもの。



 お二人とも無事に首輪を巻き終えてくださいました。首元の違和感に慣れないのか、指先でスリスリと付け心地を確認していらっしゃいます。


 とにもかくにもこれで弊社に向かう支度が整いましたの。言葉の代わりに頷きでカメレオンさんにお知らせして差し上げます。



「ヨシ。んじゃ準備はいいナ? そいじゃ魔法少女共、今はまだお前らは――寝てろ」



 冷たく鋭いお声を発せられた、次の瞬間でございました。



 横にいらしたカメレオンさんが唐突に姿を消された(・・・・・・)のです。



 と、ほぼ同時に。

 花園さんと翠さんが膝から崩れ落ちます。



 地面に倒れ込む直前にカメレオンさんが両腕で抱え上げて、ぐったりと気を失うお二人を左右の肩に俵担ぎなさいました。



「はえー、相変わらず神がかり的なスピードですのぉ」


「ま、移動の手段を見せるわけにゃいかネェからナ」


「オイ! 何が起きたプニ!?」


「心配すんナ。ちょっくら眠ってもらっただけだ」



 今の、恐ろしく速い手刀でしたの。

 私でなければ見逃しておりましたわね。

 

 

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