ギャップ加減がとても
既にアスファルトの地面が淡く発光し始めておりました。もう間もなくして駐車場中央部の何もない空間から眩い光が放出されていきます。
仮にこの光景を時空の裂け目と呼称してみますが、転移の様子を傍目から見るとこうなっていたんですのね。今更ですがファンタジー感満載なド派手な登場をしていたみたいですの。何だかカッコいいのです。
とはいえ明順応の乏しい私の目ではとてもではありませんが直視し続けていられません。
ましてついさっき暗いところから出てきたばかりなのです。眩しさがいつもよりも更に倍増しておりますの。
必然的に目を逸らしてしまいます。
「来たプニッ! やたら強い反応プニよッ!」
カツ、カツ、と。地に降り立つような足音が聞こえてまいりました。
否応なしに肌をヒリつかせる凄みにご警戒なさったのか、魔法少女のお二人がさっと端の方に避けられます。いつでもバトルに移れるようにそれぞれ杖まで出して身構えていらっしゃいますの。
あらあら、これはまた大層な警戒をされてしまって大変ですわね。確かにカメレオンさんの戦闘力を鑑みれば妥当な評価だと思いますけれども。
お二人に反するように、私は目を細めつつも光の中心に歩みを進めていって差し上げます。こちら強者ゆえの余裕に見えますかしら。
やがて、光の中からこの耳に聴き慣れた声が聞こえてまいりました。
「おいおい青ガキぃ。なんだこの状況、ザコ同然の戦闘態勢が二人たぁ大層なお出迎えだナ。ひょっとするとお前の方が謀叛かぁ?」
徐々に光が晴れていきます。腕を組んで少々ご不満そうなご表情です。キツめの三白眼がこちらをギロっと睨んでいらっしゃいました。
けれども舌先をチロチロっと出されて、冗談らしくケラケラと笑っておられます。あくまで口上はいつもの皮肉らしいのです。付き合いが長いので分かりますの。
「おばか仰いまし。説明する暇もなくアナタがお越しになってくださったからでーすのー。お出迎え、誠に感謝いたしましてよっ。ホントに珍しいですわね」
私もすったたと駆け寄って、腕を組んで大袈裟な媚び媚びアピールをして差し上げます。
ほほ〜ん。今日はヒトの姿に擬態されていないのでザラザラお肌が実に爬虫類的ですの。頑張ればダイコンだって擦りおろせるかもしれません。
「オイ離れろ、ただでさえクソ暑ィんだからよぉ」
「またまたぁ、カメレオンって平温動物さんなので温かいのはお好きなのでは?」
「ジメっぽいのは好きじゃネェ」
まったくこの人もこの人でツンデレさんなんですから。素直に私の汗と温もりを受け取ってくださればよろしいですのに。
「お姉さんッ! ソイツから離れくださ――ってッ! この怪人、どこかで会ったことが!?」
一瞬、ピンクさんの焦り声が飛んできたかと思いましたが、次の瞬間には顔をしかめて蹲りなさいました。そのまま手に持った杖をカランカランと落とされます。
独り頭を抱えて混乱なさっていらっしゃいます。見た感じ結構な頭痛に苛まれていらっしゃるようですの。
「桃香、大丈夫プニ!?」
「大丈夫、です。なんだか一瞬寒気がしてしまって」
すぐに体勢を整え直されました。
よかったですの。大事ではなさそうで一安心です。
この隙を見てカメレオンさんにこっそり耳打ちいたします。
「あの、もしもしカメレオンさん?」
「ナんだよ」
私よりも背がお高いので爪先立ちをして高さを合わせますの。つい足先がプルプルしてしまいます。
「……アナタって以前に花園さんを攫ってきたことがございますのよね? もしやそれが影響してたりしまして?」
「かもナ。帰りに飲ませた忘れ薬の作用でほとんど記憶を失ってるはずだが、この拍子に記憶回路のどっかが紐付け直しちまったのかもしれネェ」
「ふぅむふむ。なるほどですの」
ついでに私のことも思い出してくださるとスムーズなんですけれどもね。情報収集の為にときにはキツめの尋問や拷問を繰り返した日々もございましたが、基本的には地下施設ではそれなりに仲良く過ごせていたはずなのです。
私の魔法少女引退エピソードの補完くらいにはなってくださるかもしれません。
「まっ、コイツの程度なら記憶が戻ったところでそんなに大した問題はネェだろうナ。んなことよりも、だ」
カメレオンさんが魔法少女のお二人に一歩近付かれます。そして。
「変身装置っつーのはお前のことだナ? ピンク女の肩に乗っかってる赤い餅みたいなヤツ」
「プニに何か用プニか。……ん? お前、よく見れば過去に何度か会ったことがあるプニね。まだ茜と美麗が二人とも現役だった頃プニ」
「ほほう。なかなかの記憶力だナ」
初めてお会いした日のこと、私だってもちろん覚えておりますの。
透明化していたカメレオンさんをとっ捕まえて返り討ちにあってしまったんですのよね。あのときは野菜連中の情報を集めていらしたんでしたっけ。
他にも強大なオーラを振り撒く総統さんと一緒に突然現れたり、いつの間にか我が家に忍び込んで壁に貼り付いていたりと神出鬼没な方でしたの。
一度認識してしまうと脳裏から離れなくなってしまう濃ゆさがございますわよね。まぁでも、基本的に人前には姿を晒さない隠密担当さんゆえに多少キャラ個性が厚くてもお仕事に支障はないのかもしれません。
カメレオンさんが鋭さのある声でお告げなさいます。
「お前、超絶ラッキーだったナ。特別にうちの総統閣下様から施設入場の許可が下りたゼ。ただし、さすがにそのまま何の条件も無しにというわけにはいかネェ」
「プニ?」
「お前の持ちうる情報を結社に提供してもらうこと。そして、施設の中にいる間は常にこのカゴの中で過ごしてもらうことが条件だ」
いつの間にかカメレオンさんの手の上には透明なガラスもしくはアクリル製の小さな鳥籠が乗せられておりました。
モノとしてはメロンを縦に少し引き伸ばしたくらいの楕円柱です。上部には簡素な持ち手が、下部には何やらメカメカしい平たい機械がガッチリと取り付けられております。
色とりどりのランプが今も細かな明滅を繰り返しておりますの。
で、何ですの? これ。初めて見ましたけれども。
早速カメレオンさんに疑問の目を向けて差し上げます。
「コイツぁ開発班が寄越した〝通信ジャミング装置〟だよ」
珍しく目をキラッキラさせながらお続けなさいます。
やっぱり男の子ってこういうのがお好きなんですの?
総統さんといいカメレオンさんといい、なんだかギャップ加減がとても可愛らしく思えてしまいます。