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指先一つで

 

『お前の言う変身装置っつーことはアレだろ!? 連合連中の自立型通信機だろ!? つまりはGPS機能搭載型ってわけだ。居るだけでアジトの位置がモロバレしちまうじゃネェか』


「あっ」


 なるほど確かに。言われてみればカメレオンさんの仰る通りです。


 現役の頃にも何度かございましたが、プニやポヨなどの変身装置たちは連合本部から直接指示を受けたり、レーダー機能を利用して怪人さんの位置を特定していたりと通信機器としても大いに活躍しておりました。


 もはや現在地の特定などは朝食前レベルのスキルなのでございましょう。



 ここで困ったことに弊社の所在地は何よりのトップシークレットになっているのでございます。


 もう三年以上も社内で寝泊まりさせていただいておりますが、私だって未だに詳しい場所を知らされていないほどのスペシャルマル秘情報の一つなんですの。


 まして外部の方になんて決してバレてしまうわけにはまいりません。


 となりますと。



「えと、それではしばらくの間、あの子には通信機能を切っておいてもらえばよろしいのではなくって? ぷっちんオフラインですの。省エネモードをご推奨ですの」


 機能的にはできますのよね? いつだか貴方自身が仰っていたかと思います。


 私がまだ現役時代の頃でしたっけ? 不安なら本部との通信は切断しておけよーというやりとりがあったはずです。



『あー、そりゃまぁ不可能じゃあネェだろうが、ソイツ自身には手を出せネェ根幹的な部分にパッシブな機能がくっ付いてる可能性もある。

それに……信じられるのか? ホントにオフったかどうかはこっちからにゃ分からネェだろうし、同一個体じゃネェとはいえ、過去にお前を裏切った変身装置だぞ』


「……なかなか痛いところをお突きなさいますのね」



 信じて裏切られる際の辛さは何よりも耐え難いものだと知っておりますの。二度目ともなれば尚更です。


 懸念の通り、プニに釘を刺して弊社内で見聞きした情報を口止めできたとしても、彼の位置情報などは否応無しに連合本部に垂れ流しにされてしまうのかもしれません。


 プニ自身にも知り得ない通信傍受機能が搭載されていることだって、全くの0%とは言い切れない状況なんですの。



 たかが位置情報、されど位置情報とも言えましょう。



 弊社の所在地が敵側に伝わってしまえば、一気に攻め込まれて一般戦闘員や上級怪人の皆様方に危害が及んでしまう恐れがございます。


 もちろん静かに眠っているメイドさんや前線から退いている茜に危険に晒してしまうことに直結いたします……ッ!


 それだけは絶対に避けねばなりませんの。



「ふぅむぅ、となると困りましたの……」


 諦めるのは簡単です。敵方の装置一体の為に組織全体を窮地に招くわけにもいきません。


 しかしながらそれはさすがに冷たすぎですし、懐かしの彼女らに会いたいというプニの思いを、無下にはしたくない私もいるのでございまして……!


 正直かなり板挟みな状況になってしまっております。


 

 今更になって身体にのしかかり始めた疲労感も合わさって、既に思考が止まりかけてしまっておりますの。


 色のない沈黙が私とカメレオンさんの間を支配いたします。




 すると、まもなくして通信先からとにかく大きな溜め息が聞こえてまいりました。一度だけではございません。二、三度はございます。



『……ハァァァ。こーなることを総統閣下様は予見していたっつーわけか。まったくあの人は末恐ろしい存在だゼ』


「ふぅむ? えっと? 今なんて?」


 カメレオンさんがボソボソと何かを呟いていらっしゃいましたの。音声自体は大変クリアなのですが、いかんせん音量が小さいもので上手く聞き取れませんでした。


 今、総統さん? と仰いまして?


 聞き返してはみたものの、どうやら言い直してはくださらないようです。



「あの。私はいったいどうすれば……」


『そんなの自分で考えろ――といつもなら軽く言い捨ててやるところだがよォ。ま、青ガキ。ちょっとそこで待ってナ。今から俺が直々に迎えに行って(・・・・・・)やんからよ』


「あ、はい分かりまし……へぇぁ!?」


『ったく。いつまで経っても手間のかかるガキンチョだぁナ』


「え、ふぇ!? ままま待ってくださいまし。今から来てくださるんですの!? 貴方が!?」


 基本的に面倒事をお避けなさる性分(たち)のあのカメレオンさんが!?


 この真夏のドド暑い真っ只中に!?


 すこぶる善意感マシマシなイメージのまま!?


 もしかしなくても今から雨でも雪でも、もしくは槍でも降ってきてしまいますの!?


 ねぇねぇ気になる貴方のお答えは!?

 いったいどういうご心境の変化なんでしてッ!?



「もしもし!? もしもーし!?」


 残念ながらウンともスンとも仰ってくださいません。


 彼のニヒルめなご回答を期待したのですが、間髪入れずにプツン、と。頭の中で通信切断音が鳴り響いてしまいます。


 どうやら一方的に通信を切断されてしまったらしいですの。以降どんなに呼びかけてもカメレオンさんのお声は返ってきてくださいませんでした。


 ……再びの静寂が私の周りを包み込みます。



 ふぅむ。わざわざカメレオンさんが来てくださる理由を考えたところで答えなんて見つかるはずもございませんわよね。


 彼なら滞った現状を打破する策をお持ちということなのでしょう。ともすれば今は信じてお待ちするのが最優先事項とも思えます。


 別に一人で抱えなくてよいものは一人で抱えなくてもよいのです。口に出さずとも当たり前のことです。美麗構文誕生の瞬間ですの。


 今の私にできるのはこの会話の内容をプニと現役ちゃんたちに伝えて差し上げることでしょうか。要するに善は急げということです。



 物陰から出て彼らの場所に戻ります。



 私の再登場に早速彼らの視線が集まってまいりました。


 特にプニから顕著に感じられておりますの。不安と期待が入り混じったような瞳をしていらっしゃいます。



「美麗。どうだったプニ。何か進展あったプニか?」


「ええ。なんだか大丈夫そうですの。全然よく分かりませんでしたけども」


「……プニ?」


 今度は疑問の瞳を向けられてしまいました。でも仕方がないじゃありませんの。私だって状況を正しく理解しているわけではないのです。


 あれよあれよと言う間に事態が進んでしまうことだって相応にあるのでございます。


 だから私はお素麺のごとく勝手気ままに流れに身を任しますの。どうか優しくお箸でつまみ上げてくださいまし。最到達点のザルの中でビチャビチャと水に打たれ続けるのは無しの方向でお願いしたいものですわね。



 先ほどとは少しだけ座り込む位置をズラしまして駐車場の中央が見える場所に移動いたします。


 カメレオンさんのご到着早々に駆け付けて差し上げる為です。おそらく転移のお知らせとして辺りが青白く発光し始めると思いますので、そしたら中央部分にGOいたしますの。


 用意周到な姿をお見せして彼をビックリさせて差し上げましょう。



 むふふとほくそ笑んでいたその最中のことでございました。



 唐突に眼前のプニがその身を小刻みにお震わせ始めたのです。まるで携帯電話のバイブレーションのようですの。視界がブレそうなほど細かく振動なさっていらっしゃいます。



 あ、でもこの兆候、とても懐かしいですわね。現役時代はまたかまたかとその都度溜め息を吐いてしまったものです。



 変身装置が身を震えさせる理由、それは一つしかございません、



「プニ!? 怪人の反応プニッ!? しかもかなり近くだプニッ! 桃香! 翠!」


「「ッ!?」」


 怪人襲来の合図です。



「あっと、えっとあのー、そんなに身構えなくても今回は大丈夫だと思いますけれども」


 今からお越しになるのは私の保護者的な立場の方ですし。

 多分いきなりバトルを始めるほど血気盛んな怪人さんでもございませんし。


 何よりピンクとグリーンのお二人が全力で束でかかっても敵わない実力をお持ちなんですの。十中八九指先一つでダウンしてしまうと思いますのでお止めになった方が身の為かと。



 ひょろっとしていてけろーっとしていて掴みどころがないわりに、ああ見えて組織の中では一、二を争うほど実力派なのです。まさに今、出世街道を直進中ですの。


 さすがはカメレオンさんです。これで私の夜のお相手もしてくだされば本当に最高でしたのに。



 冗談はさておき、スタコラと駆け出した現役ちゃんたちの後を追うように私も建物から出て駐車場へと走ります。

 

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