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こちら現場の蒼井美麗ですの

 


「……以上、今美麗に伝えられる情報はそんなところプニね。別にこれを話したからといって何かが変わるわけではないと思っていたプニが……気持ちは案外楽になるものプニ」


「そりゃそうですの。メカニカルなアナタもヒトと同じかはさておき、ストレスを溜め込むのはお身体によろしくありませんでしてよ」


「どうやらそうらしいプニ」


 二人して苦笑いしてしまいます。


 どうしてでしょうね。私の中にあった警戒心が徐々に薄れ始めてきているのを感じております。


 被せられた業を担う者同士、互いに相手への同情心を芽生えさせてしまったからでしょうか。


 いえ、そんな仰々しいモノはございませんわね。どちらかといえば久しぶりに再会した旧友と話し込んでしまったくらいの感覚ですの。


 ふふんっ。おかしな話です。

 今はもう敵同士でしかありませんのに。


 警戒心が薄すぎると喝を入れられてしまったらそれまでなのですが、もう少しだけこのぬるま湯(・・・・)に浸っていたいんですのっ。


 過去を憂いて懐かしむ一人と一体、それと今を生きる二人がいるだけなのでございます。


 プニからもお隣の魔法少女ちゃんたちからも、明確な〝嫌悪〟や〝敵意〟の類いは感じられておりません。



 ふっと溜め息を吐いたタイミングで、横の花園さんが何やらプンスカ顔をしていらっしゃいました。


 ふぅむむと目線を向けて差し上げます。



「司令ってば、肝心なところはいーっつもケムに巻いちゃって……全部独りで抱え込んじゃうんですよね。私たちのこと、全然頼ってくれないんですよ。弱音だって正直初めて聞きました」


「あらぁ。プニったら今もそうなんですの?」


「ってことはお姉さんも経験あるんですね」


 もっちろん。心からこっくりと頷きます。

 昔っからツン比率がだいぶ高かったですものね。いっつも私と茜とをご比較しなさって。


 対等に話せるようになったのは茜が過労で倒れた頃くらいからでしょうか。奇しくも使命感に囚われて、私がやらねばと誰がやると奮起していた頃ですの。


 私は腕っ節の強さの代わりに脆弱な心を獲得してしまいました。一度壊れたら二度と戻らないヒビ割れガラスのハートでしたの。案の定最後にはバリバリに砕け散らせてしまいましたし。



「いつまでもヒヨッコなお前らに縋るようになったらそれこそ装置の名折れプニ。プニもそこまでは落ちぶれていないプニよ」


「うぅ、そんなぁ〜……」


「…………力を、付ける……もっと……ッ!」



 この子たちがそう(・・)ならないようにお祈りするばかりです。せめて今度は装置のアナタが正しくお導きしてくださいまし。


 ただの部外者は口出しいたしませんの。


 蚊帳の外の私にできるのはせいぜい端から野次と応援とを交互に飛ばしておくことくらいでしょうか。



「ふふんっ。皆さま仲がよろしいことっ。それでもって随分と平和ボケしていらっしゃいますのねっ。お幸せなことでっ」


 暗い空気に引き戻すわけにもまいりません。

 代わりに当たり障りのない挑発文句でお茶を濁させていただきました。


 なんだかんだで仲がよろしいのは当たり前なのです。


 私たちとサヨナラしてからもう三年と余月が経っているのですから。新たな人間関係が構築されていても何ら不思議ではございません。


 やはりココにも私の入る余地などは一ミリたりとて残されていないのでしょうね。


 瞳の奥に憂いの心を隠しておきます。





「……さて、プニ」


 ここでプニが手のひらの上でぽむんと大きく跳ね上がりました。


 この場にいる全員が彼に注目いたします。



「それでだ美麗。本題が後手に回ってしまって申し訳ないのプニが」


「なんですの? 珍しくシュンとしなさって」


 なんだかアナタらしくもない。

 とってもしおらしく見えますの。


 ただならぬ雰囲気に思わず息を呑んでしまいます。彼の発声を見守ります。



「プニも、この子らと一緒に連れて行ってはもらえないだろうかプニ。プニもメイドに……そして茜に会いたいんだプニ」


「おぉ、なるほど……ふぅむむ……」


 今日このタイミングでいらっしゃったということはもしや、と。頭の片隅では思っておりましたけれどもこれマジでガチな感じですのね。



「正直に申しまして私の判断だけでは決められませんの。お上に確認してきてもよろしくて? ちょっとだけ席外しますの」


「ああプニ」


 彼の頷きを拝見いたしまして、よっこらと立ち上がって崩れかけの壁の裏手へと回り込みます。


 別に目の前で通話して差し上げても問題はないのですが、その、人前でお電話するのって気が引けませんこと?


 現役時代にワイヤレスなイヤフォンを付けたまま会話している方が街中にいらっしゃいましたが、虚空とお話ししているように見えて怖かった思い出がございますの。



 胸のブローチを握りしめて、困った時の便利屋さんをお呼び出しいたします。転移管理のスタッフさんではございません。


 幸いなことに電波状況は悪くありませんので大丈夫そうですの。今日だけは何も言わずに出てくれるはずです。そういう決め事をいたしましたからね。


 最近私が懐いて差し上げてるのに、一向に愛情を差し向けてくださらないツン要素がバリ三なお方ッ……!



 そうですの。皆の憧れカメレオン怪人さんです。



「あー、もしもし? こちら現場の蒼井美麗ですの。会議室ではございませんの。聞こえまして?」


『おう。どした? ガキどもとの話は片付いたのか? やけに遅かったじゃネェか』


「そのことなんですけれども。えっと、トラブルというわけではございませんが、ほんの少ーしだけイレギュラーなことが起きてしまいまして」


『お前ナァ。厄介事はゴメンだって言ったばかりなんだが』


 仕方ありませんの。

 可愛い子の旅には事件が付きものなのでございます。


 しっかりご先導いただくのも上司のお務めでございましてよ。言ったら叱られてしまいますから口には出しませんの。


 気を取り直して真面目にお伝えさせていただきます。



「連合製の変身装置も、一緒に連れていってもよろしくて?」


『ハァァアッ!?』



 うわっ、耳痛っ。


 いや、脳に直接響き渡るタイプの通信音声ですので鼓膜へのダメージはないですけれども。錯覚的にそう感じてしまうこと、あると思いますの。


 咄嗟に耳を抑えてしまいましたが、思い返しまして改めてカメレオンさんの出方を伺います。

 

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