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今にもおゲロがこんにちは

 


「お前たちが茜を連れて立ち去った後、独り残されたプニは被害の大きかったフロアを観に行ったプニ。そこには気を失ったヒーロー二人を運ぶ医療班の姿と……ビチビチに飛び散ったポヨの残骸(・・)と……(おびただ)しい数の血痕があったプニ。一帯に凄惨な空気が漂っていたプニね」


「でしょうね……」


 ですがそこはもう全てが終わった〝跡〟でしかありませんの。


 私が角男と鳥男に一方的に嬲られ、心の軸をポッキリと折ってしまったそのとき、結社の総統さんが颯爽と現れて状況を打破してくださいました。


 いとも簡単に二人をボッコボコにやっつけて、おまけに後からやってきた警備の方々も巻いて連れ帰ってくださったのです。


 息をしていなかったメイドさんはカメレオンさんが事前に運んでくださいました。施設内ではハチさんが付きっきりで看病してくださいました。


 皆様のご到着やご対応があと一分でも一秒でも遅かったらと思うと……!


 私たちに今日という日は訪れていなかったかもしれません。そもそも明日さえ迎えられなかったかもしれませんの。こっそり手を合わせて感謝させていただきます。



 口の中でのお祈りも済んだ頃、記憶の回廊を辿るようにゆっくりとプニが続きの言の葉を紡がれます。



「事情聴取の為、プニはその日のうちに本部に召還されたのプニ。関係者として根掘り葉掘り状況を聞かれたものの、実際に現場に居合わせたわけではなかったからうまく答えられなかったプニ。

だからかすぐに解放されたプニが……。それから何日か経ったとある日……本部から一件の内秘通達が送られてきたプニ」


「ふぅむ? ご通達ですの?」


「……ああプニ。というのも〝美麗が事件の首謀者だった〟という荒唐無稽無な内容報告だったプニ。組織を裏切った魔法少女が謀叛を起こして、連合側の病院施設を襲ったと、それはもう動機から手順に至るまで超絶綿密に書かれていたプニよ」


「はぁああッ!? なんでそんな私がッ!?」


 思わず声を大にして叫んでしまいます。


 隣に居た花園さんがびくりと肩を震わせなさいました。どうやらだいぶ驚かせてしまったようですの。咳払いで誤魔化しておきます。


 にしても私が犯人とは!?

 せめて寝言は寝てから言ってくださいまし!?


 もちろん以前にも同じようなことを総統さんから聞かされたような気もいたしますけれども! こういうのは何度聞いたって許しがたい物事なんですの!


 だって嘘八百そのモノですの! 全部が全部捏造ですの! 奴らの悪意ある偽り事であって! 私自身は何の悪いこともしていないと! むしろ圧倒的な被害者側なのだと!


 この場を借りて断言させていただきたいくらいですのーッ!



「ふーっ……ふぅーっ……!」


 荒ぶ心に身を任せて力の限り壁をぶん殴って差し上げたくなりましたが、魔装娼女姿の出力では崩れかけの廃工場が一気に更地になってしまう恐れがございます。


 深呼吸をしてなんとか心を鎮めます。



「まぁ待てプニ。ヒトの話は最後まで聞くプニ。プニだって当然耳を疑ったプニ。お前はあんな無謀で野蛮なことをする奴じゃないプニ。一緒に過ごしていたプニが一番分かっていたプニからね。それに」


「それに?」


「さすがの美麗でも本部の主力ヒーロー二人を薙ぎ倒せるほど強くないプニ。

……そこでプニは奥の手を出したプニ。念のために現場から去る際に床に付着していた血液を採取していたのプニ。独自のルートで調べてみたら……お前の家のメイドのモノだったプニね。本来ならばあの現場に居れるはずもない人物プニ。美麗がわざわざ連れてくる理由もないのにプニ」


「…………ええ。仰る通りですの。だって私は、連れ去られたあの人をお救いするべく病院に駆け付けただけなのですから」


 あの現場で血を流されていたのは憎敵ではありませんの。ズタボロにされたメイドさんその人ですの。


 最終的には私も傷だらけになっておりましたが、彼女の滴らせた量に比べれば私のなんて汗ほどにも満たないと言えましょう。


 ポヨがはっきりとお続けなさいます。



「だからプニは改めて本部に問い正してみたプニ。けれども明確な回答は返って来なかったプニ。捜査記録の方にも何度かアクセスを試みたプニが……何重にもプロテクトが掛けられていて、全てを丸裸にするにはあまりに時間が足りなかったプニ。ただ明らかに裏があったのは分かったプニ」


「当ったり前ですの。むしろ裏しかないですの。連合のやり方に嫌気が差して、今にもおゲロがこんにちはしそうなくらいですのッ」


「おい待て汚いから止めろプニ」


 うっぷと口を抑えるジェスチャーをして差し上げますと、逃げるようにプニが花園さんの方にジャンプなさいました。


 もちろん冗談ですの。私だってこの心を暴れさせまいと、どうにかして和ませようと必死なのでございます。



 二、三回弾むようにしてプニが花園さんの肩に登られました。そのままむにむにと震えていらっしゃいます。



「…… それでだプニ。ここからがきっとお前の知り得ない情報プニ。実はプニは半年ほど前までは本部に幽閉されていたも同然の扱いを受けていたプニ」


「はぇ? そうなんですの?」


 私てっきり悠々自適な独り身ライフを過ごされていたものかと。もしくは新たな魔法少女探しに努めていらっしゃっていたものだと。


 だって私と茜の空けた穴を埋めるの、結構大変だったのではありませんでして? 


 この現役ちゃんのお二人だってまだまだ未熟な存在ではございますが、10万やら20万レベルの果てしない確率をくぐり抜けてきた猛者さんなのでしょう?


 そう簡単に魔法少女の適合者なんて見つかるものではないと現役時代に耳にタコが出来るくらい聞いておりますけれども。


 それにこんなに便利で貴重な変身装置を使わないで幽閉しておくだなんて、連合本部は何を考えておりますの?


 もしやここにいるどこのどなたよりもおばかさん(・・・・・)なんでして?



 数多の疑問符を頭の上に浮かべておりますと、すぐさまプニが拾ってくださいました。



「幽閉の表向きは魔法少女の〝監督不行き届き〟を理由にした厳罰プニ。けれども実際のところはただの不良品回収の一環としてだろうプニね。

……さすがの連合本部も、陰では今回の事件が〝ポヨの独断敢行〟が原因だったことに気が付いていたプニ。しかし止めはしなかったプニ。どうやらポヨの奴、日頃から誇張した業務苦情の連絡を繰り返していたらしいのプニ」


「……確かに……思い当たる節が無いわけではありませんの」


 私も最後の方のポヨとは何だか反りが合わなくなっていたのを覚えております。


 それに私の心と身体を気遣ってくださるメイドさんとも何度もぶつかっておりましたし、たまに私の存じ上げない誰かとも連絡を取り合っていたようですし……。


 この手で壊してしまった以上、真意を問い正すことは叶いません。この感情もろとも闇に葬り去るしか選択肢はございませんの。



 言い終わると赤饅頭さんはベコリと平たく凹んでしまいました。


 〝どうして相方の蛮行を自分が気付いて止めることができなかったのだろう〟と。

 何故だか彼のそんな心の声が推察できてしまって、私自身も沈んだ気持ちになってしまいます。



 でも、プニが気付けないのも仕方がないと思いますの。だってアナタは入院した茜の看病にほとんど付きっきりで、外界とはほとんど隔離されていたも同然なんですし……!



「……多分、ポヨとしては連合の意向に従わない美麗にちょっとしたお灸を据えるつもりだけだったんだろうプニね。けれども度重ねた過剰報告のせいで事態を深刻に捉えられて、とにかく粗暴で実力主義な連中が派遣されてしまったらしいのプニ。

それで、関係のないメイドまで人質に取られて、弄ばれて、その生命さえも危険に晒されてしまったと……。これが事の顛末と言えそうプニ……」


「ふぅむぅ……」


 膝を抱えて、腕に顎を乗せて、身体全体で悩みの体勢を取らせていただきます。

 

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