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白ピンク VS 黒ブルー

 

 花園さんに疑問の目を向けて差し上げます。

 彼女はとても落ち着いたご表情できっぱりとお続けなさいました。



「お話の先に、私と一度手合わせし(模擬戦し)てもらえませんか?」


「はぁ? お手合わせ?」


 最初は何を仰っているのか分かりませんでした。耳に届いた音を頭の中で一周させて、そこでようやく言葉の意味を理解いたしましたの。


 でもどうして戦闘訓練がしたいんですの?


「なぁんでまた急に。先ほどもお伝えいたしましたでしょう? 私、今日はお話しに来ただけなんですの。戦うつもりなんて少しも」


「私が戦ってみたいんですッ!!」


 びっくりするくらいの大声でございました。


 それはもう喉の奥からズイと搾り出された思いが何倍にも何十倍にも増幅されて、ズドンと一度に放たれたかのような勢いでしたの。驚きのあまり動悸がしてきたくらいです。


 小さく息を吐かれると、再び落ち着きを取り戻された花園さんが静かに言葉をお紡ぎなさいます。



「……その、私やっぱり信じられないんです。あの伝説の魔法少女さんが、どうして今は怪人連中の味方なんかをしているのか。どうして翠ちゃんのお姉さんを拉致なんてしたのか。

拳を交えて分かること、きっとあるはずなんです。言葉を交わす前に、この手でも直に確かめておきたいんです……!」


「不器用なお人ですの……っ!」


 とても真剣そうな瞳でした。考えなしに放たれたものではないと否応無しにも理解できてしまいます。



 きっと、貴女も貴女で不安なんでしょうね。

 どうしていいか分からないから、必死に分かってみようともがいてくださっているのだと思いますの。


 貴女の仰りたいことも何となくは分かります。

 

 卑怯な方の戦い方は卑怯そのものでした。


 けれども貴女は違いましたの。とてもまっすぐ戦っていらっしゃいましたの。まっすぐな方の戦い方はとても実直で、この胸の昂りを更に高めてくださいますの。



 よろしいでしょう。貴女の理解の方法が私と拳を交えることなのだと仰るのなら、先輩として真摯にお付き合いして差し上げるだけなのです。


「……分かりましたの」


 大切なモノを守りたい欲望が私の力の源ですの。全力をぶつけて差し上げなければ失礼に値してしまうことでしょう。


「……うふふ。なんだかんだで貴女も脳筋の系譜を受け継いでいらっしゃるんですのね。心中お察しいたしましてよ」


 魔法少女なんてものは、結局は己の信念を曲げられない故に自身が傷付くまで戦いに明け暮れてしまう……不器用なだけの存在なのです。


 でも。それがよいところでもありますの。


「花園さん、よろしくて? しっかりコテンパンのフライパンに叩きのめして、その耳に私の要求を捩じ込んで差し上げますからご覚悟なさいまし。手加減なんていたしませんの」


「あ、ありがとうございますっ!


 腰を90度曲げて一礼してくださいました。まったく律儀な方ですの。



「では、(わたくし)が勝ったら、静かに正座しながらお話を聞いていただきますので」


「それなら、(わたし)の方が勝ったら、お姉さんの心の内を隠し事無しに吐露してもらうということでっ」


「ふふ。よろしいでしょう」


 どちらが勝っても結果は変わりません。片方(ブルー)がお話をするだけ、もう片方(ピンク)がお話を聞くだけなのでございます。



 真剣勝負には違いありませんが、これは命と命のやりとりではございません。

 意地と意地のぶつかり合いとも、思いと思いのぶつけ合いとも言えるモノなのでしょう。


 私、実はこういうのは嫌いではありませんの。過去に忘れてきたはずの青春を今更になって味わえている感じがいたしましてよ。



 お互いにこっくりと頷きます。

 目には決意の炎が宿っておりますの。



 花園さんがおブルマの後ろ側に右手を突っ込みなさいました。


 なるほど、身に付けていらっしゃるショートパンツにはポケットが見当たりませんから、その空き空間に変身装置を収納なさっている感じですのね。


 何か(装置)を握り締めながら、胸の前に手を置いていらっしゃいます。


 おおっと見惚れている場合ではございません。私も急いでブローチに平手をかざして目を瞑ります。



――そして。




「着装ッ! - make up - 」



「……偽装 - disguise - 」



 ほぼ同時のタイミングでございました。


 新旧それぞれの変身文句が声高らかに宣言されたのでございますッ!


 花園さんの手の中から眩い光を感じますの。目を閉じていても明確に分かります。


 今の私には扱えない、酷く清廉すぎる白い光……!


 それを遮る盾のように、頭上の麦わら帽子や体表のワンピースが溶け出していってドロドロの黒泥となり、やがては私の身体全体を優しく包み込んでくださいます。


 黒泥の繭に篭もります。


 サンダルは形状を変化させて先の尖ったヒールに変化いたしました。


 その他、ツヤツヤのラバータイツ。ふんわり調の青紫のスカート。そしてヘソ出し肩出しスタイル。胸の上に乗っかる形の艶やかなリボン……!


 背中にも一際鋭くて大きなリボンが生成されておりますの。黒く輝く変身装置のブローチと頭の上の王冠とが光を反射させて煌めきます。


 固くて長いステッキを生成しましたら、これにて変身完了です。



 正面の花園さん……いえ、プリズムピンクさんも変身が終わっていらっしゃいます。


 私の過去の姿をそのままピンク色で再現したかのような……ふわふわなお姫様スタイルの衣装です。よくお似合いですの。


 二本生成された杖を逆手持ちなさっております。始めから全力投球とは素晴らしいご覚悟ですの。やはり双剣スタイルで来られるんですのね。


 こちらもフルパワーで応えて差し上げましょう。

 受けて立ちますの。



「甘い香りに誘われて! 心に宿すは正義の炎! 魔法少女プリズムピンク! ここに参上です!」


「対して魔装娼女イービルブルー、淫美に妖艶に見参ですの♡

一肌脱いで差し上げたいのはヤマヤマですが、ドン引きされたくはございませんので今回は控えて差し上げましてよっ!」


 お互いに決めポーズを見せつけ合います。


 ここまではいわゆる様式美なのです。やるとやらないではテンションの上がり方が変わりますの。やっておいた方が絶対に楽しい気分になれるのです!



 ふっと息を吐き、姿勢を低くいたします。


 杖を右手に構えつつ、左手は血が止まるくらいに握りしめて怒涛の連撃の準備をしておきます。



「「では、お手柔らかにッ!!」」



 変身開始と同じく、駆け出すタイミングもほぼ同じのようでございました。


 そうなりますと最初に攻撃をクリーンヒットさせた方が今後の攻防のペースを握れると言っても過言ではございません。


 予想的には先手が文字通りの必勝となる確率85%くらいです。競馬のオッズで言ったら1.6倍くらいの固さなんですの!


 白ピンク VS 黒ブルー。


 現と元との単純な力&技量比べの始まりです。


 先輩かつ伝説かつ上位互換の実力、貴女の身体の芯から感じさせて差し上げましてよっ!


 

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