ふぉぉおおおぉおおおおっですの!
総統さんがくすりと微笑みを零されました。
「ま、可愛い子には旅をさせよっつーのが半分。飼い殺しは勿体ないよなっつー気持ちがもう半分だ。
展望自体はまだ伏せさせてもらうが、夜の方以外にも多々に経験を積んでおいてくれってこった。その方が結果的に結社の為にもなる」
「ほぇ……お世辞でも可愛いと言っていただけるのは嬉しいですけれどもっ! まーたご主人様お得意の〝そのうち分かる〟な感じなんですの?」
分からないまま前に進まされるのってわりとドギマギしてしまうんですのよ。流石にへの字口を結ばせていただきたいご案件なんですの。
ココにお世話になり始めた際の慰安要員についてだって、その、私がそこそこに興味のある人間だったから受け入れられてしまっただけでっ! 俗世を生きる普通の方々だったらきっとビックリ仰天のドン引き間違いなしなのです!
「ただ、貴方がそう仰るなら、別に構いませんけれども。それに」
組織のトップである方の思惑に関して、末端の人員が何かを言うつもりはありません。
それでももう少しくらい手の内を明かしていただけてもバチは当たらないのではございませんこと? もしくは……!
「全部上手くいったら、もちろんご褒美をいただけますのよね?」
それなりの見返りを要求したくなりますの。
総統さん一日独り占めコースとか相思相愛おデートコースとか、貴方としてみたいコトは無限大にあるのでございますっ!
見つめ合い、ほんの数秒。
「あった方がお前の士気が上がるなら、な」
「ふぉぉおおおぉおおおおっですの! 言質いただきましてよ! 漢に二言は無しですの!」
ググイと天に向かって拳を振り上げます。
直接的な報酬があった方が燃えましてよ!
俄然やる気が沸いてまいりましたの!
別にいつも通りのしっぽり蜜夜三昧でも構いませんが、たまにはプラトニックな男女関係を楽しませていただいてもよろしいかと思うのです!
後々でご許可をいただけるかはまた別のお話として!
イチ慰安要員が過ぎたことを宣ってしまうだけかもしれませんけれども!
ともかく後の喜びが見えているのなら、全力闘魂させていただくのが私の第二の信条とも言えましょう。
「この蒼井美麗、必ずやご主人様のご期待に応えてみせますの!」
「ああ。俺も楽しみにしてる」
胸のブローチに手をかざして誓いの意を示します。貴方から頂戴したプレゼントを常に身に付けて、心から尽力させていただきますの。
私の見せたひたむきな姿に、彼は優しげに包み込むように微笑みを返してくださいました。照れのせいかつい頬が熱くなってしまいます。
思わず熱のこもってしまう身体を手の中の宝石がヒンヤリと冷たさを以て落ち着かせてくださいました。
「……あ、そうですの」
変身装置を握ったまま、言葉を続けさせていただきます。
「おう。どうした?」
「この変身装置に関して、ちょーっとした機能の追加要望というか、こんなのがあったら便利なんですけれども〜っていう内容があったりしまして。今、お伝えしてもよろしくて?」
競馬場にて実際に使用した感想をといいますか、簡単なフィードバックレビューをさせていただければと思いましたの。
「おう。ソイツはまだ治験第一号機だからな。使用者の声を反映できるに越したことはない。いいぞ。好きなだけ言ってみろ」
私の問いかけに総統さんは嬉しそうに首を傾げられました。そういえばプレゼントしていただいた際も、スペックについて少年のようにキラキラとした目で語ろうとしていらっしゃいましたわよね。
きっと機械弄りがお好きなのでしょう。そのうちメカやロボットは男のロマンとか言い出し始めるのではありませんこと?
くすくすと微笑みながら続きをお伝えさせていただきます。普段とのギャップに言いようもない可愛らしさと覚えてしまった私をどこの誰が責められましょう。
「コチラにお電話機能を付けてほしいんですの。離れた場所にいるときでも連絡できる手段があった方が、何かと便利かと思いますの」
衣装チェンジのお手軽さに関しては何も言うことはございません。身体能力増強もバッチリでしたの。欲を言えばの補助機能を充実していただければ幸いでして。
競馬場で爆弾探しに奔走していたときも、お電話が可能であればもっとスムーズにやりとりが出来ていたかと思うのです。
遠距離から指示を乞うたり、逆に合流する前にしていただきたいことを事前にお伝えし合えたり。
今後私がお外で活動する際にも、定期的な業務連絡をするのに必要になるのではありませんでして?
通信方法なら何でも構いませんの。音声でも今流行りの骨伝導とやらでも、何なら組織の謎技術による念話通信でもおっけーですの。
映画の無線機のような非双方式でも、それはそれでカッコいいので満足できましてよ。
「分かった。技術開発班に伝えておこう」
「ありがとうございますの」
ぺこりと一礼いたします。
ここで総統さんがすっくと立ち上がられました。
「じゃあまた、そのうちカメレオンの奴を捕まえて話を進めておいてくれ。アイツのことだからまた面倒くさがって逃げ回りそうな気もするが……実際、いざというときは頼りになる奴だからよ」
「ほいですの。存じ上げておりますの。今度は最初から首根っこ捕まえて引き摺り回して差し上げる所存ですのでご心配なく」
私のお守りをしていただきたいのはヤマヤマですが、普段のお仕事の方が優先だと重々に承知しておりますの。
ときが来るまで静かに待っていられる気概は持ち合わせておりましてよ。チャンスを見つけたらすかさずGOいたしますけれども。
以上で報告や確認は終わりということなのでしょうか。踵を返されて、ギムナジウムの入口へと歩みを始められます。
途中でチラリと振り返りなさいました。
「あと、お前もあんまり気負って鍛えすぎないこと。少しくらい柔らかい方が俺は好きだ」
「んもう。ご主人様のどすけべえっち。変態好色魔。このすっとこどっこい欲情大魔神」
「それはお互い様だろ」
「むふふっ」
なかなか厳しいところをご指摘なさいますわね。正直反論できないではありませんの。うふふ。
ご安心くださいまし。ムキムキマッチョウーマンになるつもりはございません。求めるのはせいぜいやんわりと六つに割れた腹筋レベルか、もしくは腕を曲げた際にほんのりと力瘤を浮き上がらせられる程度です。
目指すはインナーマッスル系乙女ですの!
食後のデザートを気兼ねなく食べられるようになるんですの!
手を振り去っていく総統さんを瞳に映しながら、私は気を改めて筋トレを再開いたします。
ちょうどエアロバイクに腰掛けているのですし、今日はもう足腰を鍛える方向にシフトチェンジいたしましょうか。
たくさん汗をかいたら大浴場に直行いたしますの。よく動いてよく休んでよく寝てよく食べて、そうやって健康的な身体を作っていくのです。
こうして、大きな動きこそありませんが、着実に身の周りから固めていく〝下準備の日々〟を過ごしてまいりました。
お仕事の合間のカメレオンさんを捕まえては説得し、途中にあった月一の健康診断も無事にクリアし、晴れて再度の外出の手筈を整えていったのでございます。
また、それから二週間ほどが過ぎた、朝――
私は上層の転移室へと足を運んでおりました。