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私の〝やりたいこと〟を

 


「……蒼井さん」


 静かにそばで見守ってくださっていたハチ怪人さんが、慰めるように背中を撫でながら、私の名を呼んでくださいました。


 彼女からはかつてのメイドさんと同じ大人な温かみを感じますの。この心に空いた隙間をじんわりと埋めてくださるような気がするのです。


 その瞳には不安そうな私の顔が映り込んでしまっておりました。


 このままではっ、ダメですわね……っ!



 ぶんぶんと首を振って気を取り直しておりますと、さすがにやり過ぎたのか、パシリと背中を叩かれて止められてしまいました。


 やれやれといった顔でハチ怪人さんが口を開かれます。



「私も医者として、そしてイチ科学者として、全力で解明に努めております。彼女の体力的には何の問題もございません。いつ目を覚ましてもおかしくはないのです。

だからそう独りで抱え込んではいけませんよ。その時が来るまで、我々は常に万全を尽くすのみ。違いますか?」


「……分かってますのっ。あったりまえですのっ」


 だからこうしてワガママで気の短い私もいい子にして待っていられるのです。いつか彼女が起きてくださったときに、きっと褒めてくださるから!


 そう確信しているから……ッ!


 元気にお目を覚まされるその日まで、私にはこの人の安全を守り続ける義務がございますの。この場所を確保し続けなければならないのです。



 しかし、ここで新たに生まれてしまった〝翠さんの誤解を解く〟という悩み。


 この難問を解消しなければ真の安寧は手に入らないのです。まして返せと語勢を強く言われてしまっては尚更ですの。


 彼女とキチンと和解するか、もしくは力尽くでご理解いただくか、どちらにせよメイドさんの状況を正しく認知していただく他に道はありません。


 ヒーロー連合の故意で傷付けられてしまったこと、下手には動かせないこと、本当の〝悪意〟はどちらの勢力にあるのかを心の底から知ってもらう必要があるのです。


 

 正直なところ私には荷が重過ぎる内容ですの。後のことを考えるだけでしんどいですの。


 けれども誰にも話せずに抱え込んでしまえば、ハチさんの仰る通りにいずれ独りで潰れてしまうだけです。

 

 そうなってしまった現役時代を私は忘れません。そして、同じ過ちを繰り返すつもりもございません。



「ふぅむ。となりますと、やはり」


 こういう複雑な問題は総統さん方にご相談するのが筋というモノですわよね。

 直接的にせよ間接的にせよ、彼なら何かしらのお力になってくださるのは間違いないのです。


 オトナに必要な報告(ほう)連絡(れん)相談そうってヤツですの。


 庇護下に置いていただいている身として、またイチ愛玩人員として、お上のお人を頼るのが一番安全な道だと重々に理解しております。


 ご迷惑をお掛けしてしまうことは避けられませんが、より大きな問題になる前にカタを付けておくのが吉というモノでしょう。


 ちなみにっ。オトメに必要なのは報酬(ほう)恋慕(れん)相思相愛(そう)の方ですのっ。


 

「…………はぁ」


 私にとって、一番の相談役はメイドさんでしたのに。貴女がお仕事をご放棄なさるのズルいですのよ。


 だからさっさとお目覚めくださいまし。



 寝返り一つしない彼女を見つめながら、私は静かに決意の拳を握りしめます。



「……しっかし果報は寝て待てといいますが、この方の果報はいつ訪れてくださるのでしょうね……。さすがにお寝坊が過ぎましてよ。寝坊助ねむねむメイドさんですの」


「ひょっとしたら王子様のキスで目を覚ますかもしれませんよ?」


 くすりとハチ怪人さんがご冗談を仰います。


「うふふ。だといいのですけれどもっ。残念ながらここに居るのは恐怖の権化な総統様か、あるいは悪ぅい魔女か、もしくは末恐ろしい怪人さん方だけですの。そのせいで怖くて震えて起きられないだけではありませんことっ?」


 肝の据わったメイドさんに限って、そんなことはないと分かっております。むしろ目を覚ましたら、周囲の殿方から姐御と呼ばれるような未来が簡単に想像できましてよっ。



「……ねぇメイドさん。また近いうちに遊びに来ますの。ホントにホントにっ! そろそろ痺れを切らしてしまいますからね。

起きたら何でも言うこと聞くの刑、確定してますの。逃げても隠れても無駄でしてよ。持てる力全てを駆使して見つけ出して差し上げますから」


「ふふ、本当に大好きなんですね。嘆かわしい(羨ましい)執着は見苦しいですよ(きっと幸せ者でしょう)


 んもう。触角羽付きツンデレさんはお黙りくださいまし。口振りと表情が矛盾しておりましてよ。私の心を和ませようとしてくださっているのだとは分かっておりますけれども。


 しっかりと伝わってきておりますの。お茶目なお人。



「ではお邪魔いたしましたの。ハチ怪人さん。今後ともメイドさんをよろしくお願いいたしますの。もし起きたらすぐにご連絡くださいまし」


「ええ。確かに承りました。貴女も、そして小暮さんも、いつでも顔を出してくれて構いませんからね」


「ありがとうございますのっ。了解ですのっ」


 ぺこりと一礼して元来た扉の方に戻ります。病室を後にいたしまして、改めて自室への帰路を辿るのでございます。



 とっても心の休息になりましたの。


 自分のすべきこと、少なくとも踏み出す第一歩目くらいは見つけることができました。


 大切な方々の為に行動したいですの。この根底だけは少しも揺らぐことはございません。


 逃げるという言葉を知った私は無敵ですの。

 これ以上の負けを知らないのですから。


 ですがそれ以上に頼るという行動を覚えた私は超絶最強なんですの。

 強い個が合わさることで強固になるのですから。


 過去よりもずっと強くなった私と、元からずぅっとお強い秘密結社が結び付くことで、更に大きくて有意義な行動が可能となるのですっ!



 私、メイドさんの妹さんを〝敵〟のままにしておきたくありません。翠さんとは口と拳で語り合って、早いうちにキチンと和解しておきたいのです。


 その為には花園さんを巻き込む必要もございますの。まだ幾分か冷静に話を聞いてくださるような気もしております。


 その為にはカメレオンさんと総統さんを説得する必要がございますわね。双方からご許可をいただいて、私の望む未来を勝ち得る為に邁進させていただきますの。



 私はもう自由なのです。

 無駄な枷からは解き放たれてますの。


 ただし傍若無人とはちがいます。私の〝やりたいこと〟を正しい手順で全うするだけ。



 今日はオトナの話をするから忙しいと、カメレオンさんが仰っておりました。であるならば日を改めてお話のお時間を設けていただくまでですの。


 ワガママな私が、いい子のままである為に。


 

「さぁ蒼井美麗。これから忙しくなりますのよっ。心構えはよろしくて?」



 自身の胸に問いかけます。時間はたっぷりとあるはずですの。入念に練り練りさせていただいて、確実に堅実に、数多の手を施させていただきましょう。


 最初に出来るのは自室に戻って頭と身体を休めることでしょう。




 紆余曲折あった長い長い外出Dayは、こうして決意を新たに、深い深い夜を迎えるのに至ったのでございました。






――――――

――――


――



 

 


 さぁ、次ページより、第3章後半戦にまいります。

 本音を言えばもっと外出させたかったけどな!

 本編ストーリーとは逸れちまいますからなッ!


 すれ違う〝元〟と〝現役〟とがぶつかりあうとき。

 物語は加速度的に進んでゆくのでございます。


 茜ちゃんにもそろそろ活躍してもらいたいなぁ……!

 

 

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