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てへっ☆

 






「……ふわぁ……あふ……ふぇあああぁ」


 窓から差し込んだ光に目が覚めました。

 まぁこれ、別に太陽光とかではなくて廊下側の照明なんですけどね。昨晩カーテンを閉めるのを忘れておりましたの。


 さて、と。

 大きな欠伸と共におはようございます。


 まだ虚ろな瞳で目覚まし時計の時刻を確認してみれば、なんとただ今は夕方の16時。寝坊も寝坊の大寝坊です。完全にやらかしましたの。


 昨日の夜更かしに甘んじて、睡眠欲に任せたらこんな結果になってしまいました。だって仕方がないでしょう。夜通しス○ブラ大会やってたんですから。


 ただし今更にDXっておかしいですわよね。初代に比較すればあのスピード感は病みつきになりますけれども、


 どなたか最新ハードはお持ちでないのかしら。


 ちなみに昨晩のルールは「負けたら脱衣」の真剣勝負なのでした。私の結果はなんと靴下一枚を残してのギリギリ逃げきり勝ちでしたの。


 はたしてカナヘビ怪人さんの脱皮を脱衣と呼んでいいものか未だに疑問に思っているのですがこの際不問に致しましょう。


 勝てばよかろうなのでございます。


 一緒に居た怪人の皆様からはそれは慰安要員としてどうかと口々にぶーぶー言われましたが、真剣勝負の世界に慈悲はないのです。私とリアル○マブラをイタしたかったら私の桃姫に勝ってから言ってくださいまし。



「……ふふっ」


 昨日の光景を思い出すと笑いが込み上げてきてしまいます。


 いやー、とにかく昨日は楽しかったですの。

 今度はアイテム有りの時間制でのびのびプレイでいたしましょう。機会があればまた参加したいんですのー。


 一台のテレビモニターを前に、最終的にほぼ全裸の私と、それを取り囲む完全全裸の怪人の皆様方。


 側から見れば何事かと驚くような光景でしょうが、昨晩そこに居たのは皆少年のようなピュアな闘争心を持った者たちで、本当に仲良く遊んでいただけなのです。


 地下施設の娯楽というのは何も獣になることだけを指す言葉ではありませんのよ。怪人さんだってたまにはゲームに白熱してもよろしいじゃありませんか。


 毎日毎日命かけて戦うのは疲れるのです。

 そして同じく私たち慰安要員も、ただひたすらに腰を振っているだけでは疲れてしまうのです。



「……ふぐぬぅっ……ふわぁあぁあ……」


 大きく伸びをいたしますと、またまた欠伸が溢れてしまいました。


 しっかしまたまた夕方スタートの一日ですか。

 これが土曜日とか日曜日であれば更に少し損した気分にもなるのでしょう。


 しかしながら生憎私は毎日がお休みです。

 つまりはエブリデイがホリデイタイム。

 何にも縛られることもなく勝手気ままに生きているのでございます。



「……それでは、今日も向かいましょうか」


 捕らえられた見習いの魔法少女、花園桃香さんのところに、ですわね。


 本日で拘束9日目になるでしょうか。


 さすがにこのところはやつれ細り、精神的にも参ってきた様子が見て取れます。そろそろ解放して差し上げてもよさそうなんですけどね。


 疲労困憊したあの子をエサに、新しいサカナを釣りに行った方がよい頃合いかと思いますの。更に痛めつけても逆さ吊りにしても、これ以上の目新しい情報は出てこないでしょうし。


 心の内ではそう思っておりますが、まだ聞けていないことが一つ、明確にあるのでございます。


 まぁ聞けるとも思っておりませんが。他の方にもその事をご納得いただきませんと。



 私は上層に向かうため、寝巻きから正装へと着替えます。


 別にネグリジェのまま会いに行っても誰も気にしないとは思いますが、これも与えられた立派な仕事ですからね。私にも一端の恥と言いますかマナーを守る気持ちはありますの。


 求められる品位の無い者は淑女とは呼べません。


 私は茜と違って裸でそこら辺を歩き回ったり、身清めしていない垂れ流しの状態で怪人さんのお部屋を梯子したりはしないのです。あ、脱衣ゲームは例外中の例外ですの。


 これらの破廉恥行為と一緒にしないでくださいまし。


 さて、無駄口はこれくらいにしておいて、準備ができました。出発いたしましょうか。






――――――

――――


――




 もう移動の過程には触れなくともよいでしょう。


 人通りの少ない通路と、利用者の少ないエレベーターと、人口密度の居住&待機空間を通った後、独房エリアに到着です。


 今日も相変わらず冷たくて陰気な空間ですね。


 おや、今日はローパー怪人さんの姿が見えませんね。外回り営業の日なのでしょうか。辺り一帯も少しばかり静かに感じられます。


 周りを見回してみても、今日は捕虜の数が少ないようです。


 せいぜい壁に鎖で繋がれた男性捕虜が数人と、檻の中でさめざめと啜り泣く女性捕虜が幾許か、という状況でしょうか。


 まぁこんな下々の方に注目していても意味はありませんの。せいぜいこの程度の人たちは、どうせ入れ替わり立ち替わりの流れ作業で一緒くたに洗脳改造されて、一般戦闘員か低級慰安員になるだけの塵底辺ランクなのですから。


 私が用があるのは、最奥に収容された逆VIPな扱いを受けている可哀想な女の子なのです。彼女がお気付きなるよう、わざとカツカツと足音を立ててその場所に近づきます。


 目的の檻の前で、くるりと回転ご挨拶。


「ごきげんよう。お元気にしておりましたか? 昨日ぶりですね。おかげさまで私は昨晩ぐっすりスヤスヤと眠れまして、目が覚めたらもうこんな時間になっておりました。てへっ☆

花園さんはいかがでして?」


 ぐったりと檻の縁に半身を預ける彼女に、ストンと言い放って差し上げます。



「……くっ。あいにく猛反発の鉄格子枕と、風通し良すぎてお腹冷やしそうな檻環境、ついでに夜通し聞こえる甲高い悲鳴のおかげで毎夜毎晩寝不足の雨嵐ですよ。不機嫌全開、くそったれの極みな気分です」


「あら、それは残念でしたわね」


 近くに歩み寄るまで気付きませんでしたが、いつの間にか腕も足も鎖と手錠でガッチリ固定されているようで。


 ほんの少しの体の自由まで奪われておりましたのね。

 なんとお気の毒なこと。うふふふっ。


「あの、私、いつになったら解放されるんですか?

もしかしてずっとこのままなのですか……?」


「ダメ!弱気になってはいけないのですわ!

ほら元気を出してっ! 希望を諦めないでっ! 今を耐え抜けばきっと明るい未来が待っておりますわっ、それファイトっ」


「…………ちっ、です」


 挑発的にキラッキラな態度と目線を向けてみましたが、返ってきたのは悪態じみた舌打ちだけでした。


 それだけ元気な反応を返せるならまだ大丈夫でしょうが、彼女の目の下には大きなクマができております。


 頬もだいぶ痩せこけてきましたでしょうか。

 ここ数日の劣悪な環境変化に体が対応しきれていないようですわね。


 まぁ無理もありませんの。

 囚人にはロクな食べ物が支給されませんからね。


 このままではずっと腹も膨れず、ロクな睡眠もとれず、やがて衰弱してしまうのも時間の問題でしょう。


 ああそうだわ! そんなときはローパー怪人さんに頼んで栄養満点な体液を啜らせていただけば万事解決でしてよ。


 代わりに一度味わってしまえばその後は強烈な中毒性と催淫性に身を焦す、何とも素晴らしい焦らし生活を毎日を嫌というほど送っていただく未来が待っておりますけどね、うふふのふ。


 冗談はさておき、とりあえずの現状報告をいたしましょう。



「……さて。それでは、真面目な話をさせていただきます。

以前にもお伝えいたしました通り、貴女が全ての情報を吐きさえすれば直ぐにでも解放してもよい、という条件は変わっておりません。

ですが貴女もお分かりの通り、解放のGOサインが上から降りてきていないのが現状ですの。

上はまだ貴女には隠している情報があると判断しているようです。これについては私もローパー怪人さんも同意見ですわ。

いいですか花園さん。これは警告ではなく心からの助言です。変な意地を張っていないで、全部吐露してしまいなさい。早く楽になりますの」


「…………お断りです」


「貴女も分からない人ですね。今更何をそんなに隠すことがお有りになりまして? 減ってしまうものでもあるまいに」


 花園さんからは既に沢山の有益な情報をいただいております。


 連合本部からの指示内容、見習いの役割とその教育課程、街の巡回ルート、今まで使ってきた魔法の種類、得意な戦法、苦手な怪人、その他諸々、エトセトラ。


 これだけではありません。個人的な質問で言えば、彼女が魔法少女を目指した理由に家族構成、学校での成績、趣味嗜好に好きな食べ物、嫌いな食べ物、ついでに好きな男性のタイプ、お風呂での洗う順番からホクロの位置まで、聞けることは全て聞いたつもりです。


 いえ、全てというのは嘘になりますね。

 私からはあえて振っていない話題もあるのでございます。


 彼女もこれまで一度として触れようとはしませんでした。


 その理由も分かりますの。

 私も薄々とは勘付いているのです。


 正直な話、私がこの話題を突くのは間違っているとさえ思ってしまうくらいなのでございます。



「……このままでは状況は変わりませんのよ」


「……分かっています。確かにブルーさんの言う通り、減ってしまうものなんかありません。

けれどもし言ってしまったらそれがずっと気掛かりになって、後ろめたさになって、きっと私は一生後悔してしまいます。私は、私は……」


 彼女は必死に何かの言葉を呑み込んでいるようでした。



 私が得ていない情報と言えば、ただ一つ。



 それはお仲間の魔法少女さんのことですの。

 

 

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