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私のワガママを許していただけるのであれば

  

 ただ単に競馬を楽しむつもりでしかございませんでしたのに、後輩の魔法少女ちゃんたちの戦いを観戦して、更には爆弾探しに翻弄することになろうとは。


 いったいどこの誰が予想できましたでしょうね。


 解体や対処にしたって一歩遅ければ大惨事になっていたのです。この疲れた頭では想像したくもありません。


 被害者が出なかったことが一番の喜びなんですの。それ以外はもうどーでもいいですのっ。


 本来であればこういう事件が起こる前に後輩ちゃんにしっかりと防いでいただきたいものですが、さすがにそこまでを求めてしまっては酷でしょう。



 ……あ。


 そういえば今更感も甚だしいのですが、魔法少女側に協力するって、悪の秘密結社的にはどうなのでしょうか。


 もっとこの子たちを苛めたり虐げたりした方が組織のプラスになっておりまして?


 ほら、ピンクさんなんて弊社に誘拐されてきたこともございましたし。投与されたおクスリのおかげでご本人の記憶からはすっぽりと抜けていらっしゃるでしょうけれども。



「……ま、何にせよどーでもいいですの。何事もないのが一番ですのっ」


 同伴のカメレオンさんもモグラさんもお邪魔を推奨してこなかった辺り、単なる対立煽りだけが本質ではないような気もいたします。


 もしくは、お上の方で何か思惑があるのかも……?


 今日はグリーンさんの存在とその戦力を知れたことだけでも値千金な収穫を得られた、と考えても問題はございませんでしょう。



「本当に、お姉さんのおかげさまでした」


 私の呟きを勝手に良いように解釈してくださったのか、ピンクさんが私をヨイショしてくださいます。


 何だかこそばゆいですの。



「…………コレでホントに、終わりだと思われる。……疲れた」


「ええ確かに。さすがの私も疲れましたわね」


 グリーンさんも目を細めてほっとしたようなご表情をなさいます。あなたの強さはホンモノでしたの。


 もし真っ向からやり合ったら、余裕を持っていられるかどうか……あれが成長の途中だとしたら恐ろしい限りですの。

 

 一緒に過ごして多少は分かりました。


 力不足ながらも、この子たちはこの子たちなりに頑張っていらっしゃるようです。

 

 引退したOGがとやかく言う必要はなさそうなんですのよね。遠目から温かく見守って差し上げましょう。



 ただし。忘れてはなりません。

 

 今回はオレンジ怪人に私怨がございましたからお味方して差し上げたような形ですが、次にお会いしたときがどうかは分かりませんの。


 私は、今は悪の秘密結社側の人間なのです。


 本来であれば魔法少女は敵ですの。今後、弊社に歯向かってくるようなら容赦はいたしません。


 アナタ方が守る世界があるように、私にも守りたいモノがあるのです。


 お邪魔なさるおつもりなら、その首に尖杖を突きつけて差し上げる覚悟は出来ておりましてよ。ちょっとばかり悲しい現実ですけれども。



「…………うふふっ」


 ただ。私のワガママを許していただけるのであれば、ですの。


 貴女方とは背景を考えない普通の乙女同士としてのお付き合いが出来たらと思っておりますのよ。


 私と〝お外〟でのお友達になっていただきたいのです。


 例えば休日に会う約束をして、何気なく待ち合わせして、お洒落なカフェで一緒にティータイムを楽しめるような、そんなゆるぅい関係をゆっくりと築いていければ、と……。



 さすがに甘すぎるお話でしょうか。



 ええ、分かっておりますの。

 敵さんと仲良くするだなんてもちろんダメですわよね。

 

 今回が特例的なお付き合いだったんですの。

 出来るだけ接点は少ない方がお互いの為にもなりますでしょう。



「…………あの、お姉さん」


「ふぅむ?」


 思いに耽っていた最中、グリーンさんに唐突に声をかけられてしまいました。


 ほにゃーっと気を抜かれるピンクさんと違って、こちらは何やら真剣そうな表情をなさっておいでです。どうなさいまして?



「…………改めて、度重なるご協力、誠に感謝する。貴女がいなかったら、もっと大きな被害が出ていたと思う。

巻き込んでしまって本当にすまなかった。連合を代表して、改めて礼を言わせていただきたい。求められたら感謝状も贈呈する所存」


 胸に手を置いて、誠意を示していらっしゃるのでしょうか。そのままグリーンさんがぺこりと頭をお下げなさいました。


「あら、そんな畏まらないでくださいまし」


 謝られる理由が分かりかねますわね。もしや赤の他人に力を借りてしまったこと、引け目に感じていらっしゃいまして?


 今回に限っては別に構いませんのよ。シェフの気まぐれコースよろしく、私の粋狂でお手伝い差し上げただけなのですし。


 競馬場に遊びにきたイチ競馬ファンとして、この場を壊されない為、私に出来ることをしたまでですの。偶然にチカラを持ち合わせていただけに過ぎません。


 つまりは貴女が気に病む必要など一ミクロンほどもございませんのっ。



「ほーらっ頭を上げてくださいまし。首を突っ込んだのはむしろ私の方でしたから全然構いませんの。

それに久しぶりに緊張感を味わえて満足しておりますわ。ご来場のお客様方にも大事がなくて、ホント何よりでしたわね」


「…………そう言ってもらえると、大変ありがたい」


 くすり、と柔らかな微笑みを零してくださいました。


 あら。あなたそんなふうに笑えるんですのね。クールそうに見えて、実は人懐っこそうな、まるで妹さんのような微笑みですの。なんだか茜と被ってしまいますわね。


 報酬はそれだけで充分でしてよ。


 秘密の変身ヒロインは人知れずに事件を解決するのがお仕事ですの。誰からも感謝されず、不特定多数の方からの承認欲求を満たすことも叶いません。


 だからこそ、貴女に感謝してもらえただけ、あの頃よりも何倍も達成感がございますの。


 何かを守れたという喜びが、それを誰かに感謝してもらえたという実感が、私の心を温かくしてくれるのです。


 実際問題、死傷者が出なかっただけ何億倍もマシな話なのですから。

 モノなら壊れたら取り替えたり直したりすれば元通りに出来ますが、人の人生だけは修正しようがないですからね。


 私の疲労感くらいお安いものですの。



「あ、あのっ、私からも! 今日は迅速なご対応と聡明なご判断、誠にありがとうございましたっ! 全部お姉さんのおかげですっ」


「まったく貴女まで……別によろしくてよ。こんなに持ち上げられたら恥ずかしくなってしまいますの。悪い気はいたしませんけれどもっ」


 ピンクさんもお喜びのご様子です。


 なんだか誇らしく思えてしまいますわね。


 この温かな気持ちが正義感とは思いたくないですが、こちらこそ、誰かのために頑張りたいと思う気持ちが私元来のモノだったのだと再認識できましたの。


 私は貴女たちのような無償の奉仕をするつもりはございませんが……まぁ、気が向いたらまた手伝って差し上げてもよろしくってよ。


 お次は万が一の確率でしょうが。

 更には明確な報酬をいただきますがっ。

 やりがい搾取はこりごりなんですのっ。


 お気になさらずという言葉の代わりに腰に手を当てて胸を張って、渾身のドヤ顔を見せて差し上げました。胸とおヘソの露出度の高さはご勘弁くださいまし。


 二人ともホッとしたように微笑みを見せてくださいます。私も微笑んでしまいます。



 一悶着はありましたが、これにて事件解決ですの!



 傾き始めた西日と変わらぬ曇り空のせいか、辺りにはもう良い子は帰る時間な雰囲気が漂ってきております。

 カラスが鳴いたら帰るアレですわね。


 只今は最後の第12レースが始まるくらいの頃合い、つまりは16時頃なのでしょう。本格的な夕方と呼ぶにはほんの少しだけ早いお時間でしょうか。


 これから暗くなってくる世界に、どうしてか、ほんの少しだけ寂しさと胸騒ぎを感じてしまいます。

 

 


 暗くなりゆく曇り空。

 何も起きないわけもなく……?


 キラキラな日々が、

 ただずっと続いてほしかったのに。


 

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