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胸糞悪いまま終わるのは嫌なんですの……!

  

 緑の小道を駆け抜けて、パドック裏へと急ぎます。


 正直に言って、か弱い乙女のまま走るのは失敗でした。せめて事前に偽装変身(disguise)しておけば、地を滑るように移動できたものを……!


 ですが、終わったことを気にしてはいけませんわね。


 ゼェハァと重たい息を吐きながら、また膝に手を付きながら、ひとまず辺りを見渡します。


 なんとかパドック裏のあの場所に到着いたしましたの。



 メインレースの周回が終わった後なのか、既に観客のほとんどはレース場の方に移動してしまったようです。


 道すがらにチラ見いたしましたが、この付近にいらっしゃるのは数人のスタッフの方と、カメラの撮れ高をご確認なさっているファンの方々くらいでしょうか。


 爆発が起きてしまった際、一人でこの場の全員を守り切るには心細い気もいたしますが、私が何とかするしかありませんの。


 私は正義のヒロインではありませんが、胸糞悪いまま終わるのは嫌なんですの……!



「……ふふっ。何だかんだ言って、私ったらちっとも変わっておりませんのね。きっと本質的に自己犠牲が好きなんですの。己の枷に、今もずぅっと囚われたままだなんて……」


 観客もスタッフさんも、直接的には自分とは関係ない方々なのです。放っておけばよろしいですのに。


 それが出来ないから私は甘ちゃんなんですの。


 けれど、だからこそ自暴自棄にならずに済んでいるのです。最後の尊厳を失わずにいられるのです。


 一度は壊れかけてしまった自分自身(こころ)を守りたいというこの心の弱みこそが、今の私の最大の強みなのでございます。


 ゆえに存分にわがまま言わせていただきますの。

 誰も傷付かなくてよい選択肢があるのなら、私はそれを貫き通すだけですの!



 時間はもうあまり残されておりません。爆弾を隠しておけそうな物陰から調べた方がよいかもしれませんわね。


 植木の裏、柱の陰、地図看板の脚元など、目に付いた箇所から詳しく調べ上げて差し上げます。



 けれども……ちっとも見当たりませんの。



「まっずいですの。真面目に大ピンチですの! 予想が外れてしまいまして!? それともどこか大事なところを見落としておりまして?」


 こういうときは、もし私が仕掛ける側なら、を考えてみるのです。

 

 さすがに誰かを殺めて差し上げようと思ったことはカケラほどもございません。しかしながら、人やモノを隠す悪戯くらいは何度も行なっているのでございます。


 例えば総統さんを驚かそうと、茜と一緒にドッキリを仕掛けたことがありますの。


 彼がご不在の間にこっそり司令室へと忍び込んで、お越しになるまで身を隠していたことがあったのです。鬼のいないかくれんぼですわね。


 茜はカーテンの裏を選択なさいました。

 かなり浅はかでしたの。察しの良い総統さんのことですから、ものの数秒で見つけてしまいました。


 かくいう私はと言いますと……カーペットを引っ剥がして、床下に隠れていたのです!


 確かにすぐには見つかりはしませんでしたが、何を思われたのか上側を塞がれてしまいまして、少しも身動きが取れなくなってしまいましたの。


 出して〜と懇願したので事なきを得られましたが、その後にこっ酷く叱られてしまいました。



 あのときは夜ご飯も夜伽も抜きにされてしまいましたっけ。正座で一晩過ごしましたの。まさに拷問極まりない行為でしたの。


 目の前でお預けというあのもどかしさにはかなり興奮してしまいましたけれども。身体ダメージ的には二度とやりたくないですの。



 ふぅむ? ちょっと待ってくださいまし?

 

 床下ですの? つまり地面……?



 さすがの私でも、足の下までは確認しておりませんでしたわよね?


 ここら一帯は固くて厚いレンガ状の床材が敷き詰められておりますので掘り返すことは叶いません。その痕跡もありませんの。


 地面に隠せるとしたら、それこそ植木の根元部分しか……!


 先ほど探したのは幹の表面と裏側だけですの。地面は眺めるくらいでスルーしてしまっておりました。


 駆け寄って靴底でワサワサと探ってみます。


 

 あら? どうして雨も降っていないのに、ココだけやけに湿っておりますの……はっ!?



「こ、ココっ! なんだか他よりフカフカしてますの! それに踏めば踏むほど甘酸っぱい香りが漂ってきますの! もしかして……っ!」



 気が付けばここら一帯だけ不自然さが極まっておりました。ほとんど草が生えておらず、落ち葉も積もっていないのでございます。


 もちろん全くのゼロではありません。ちらほらと葉っぱが転がっておりますの。


 しかしながら、どれも土を被ってしまっているのです。まるで雑な()()()()に巻き込まれてしまったかのように。



「くぅぅ、お土弄りは趣味ではございませんが……!」


 こうなっては仕方ありませんの!

 お手々が若干ばっちくなってしまいますが、命と安心には変えられません!


 しゃがみ込んで、ドロドロかつベタベタになっている土を素手で掻き分けて差し上げます。今日は帰ったら即刻大浴場に飛び込ませていただきましょう。


 働くおじさま方の気持ちが少しだけ分かったような気がいたします。



 20センチほど掘り返したところでしょうか。


 爪の先が、何か固いものに触れました。


 感触的にただの石ころではありません。



 やけに表面がすべすべとした、直方体の塊のような……!?



「あーっ! ありましたの間違いないですのー!」


 グイと引っ張り上げてみると、つい15分ほど前に見た爆弾と全く同じ形をしております。


 極め付けなのはその表面に描かれた数字でしょう。

 付着した土埃をぱっぱと払い退けます。


 大きな白丸の中に数字の〝1〟が描かれておりますの。紛うことなく探し求めていた番号の爆弾です。


 内部からはカチコチという規則正しい機械音が聞こえてまいります。

 すぐさまひっくり返してセグメントディスプレイを確認いたします。



 表示されている4桁の数字は、0025……あ、たった今0024に変わりました。


 ってことは、ですの。



「爆破のタイムリミット、あと20秒でして!?」


 まさに万事休すの一歩手前でしたの。


 私にブツがあったら間違いなくタマヒュンしてましたの。冷や汗さえも引っ込んでしまいました。


 っていうか脳内ボケをかましている暇はございませんのッ!


 私の秘策、どうか間に合ってくださいまし!



「偽装! - disguise(ディスガイズ) -」



 泥だらけの手で胸のブローチを握り締めながら言い放ちます! いつもより語勢が強めになっておりますの!


 余裕なんてものは小指の先ほどもございませんのッ!

 

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