やってやろうではございませんの。
「大変ですの! 一大事なんですの!」
現実問題、かなりアウト寄りにおりますの。勝利と敗北の瀬戸際ですの。終わりよければの真逆で終わってしまうかもしれないのです。
休憩スペースに駆け込みますと、カメレオンさんもモグラさんも、二人してキョトンとした顔でこちらを見つめていらっしゃいました。
「どうしたんす? お嬢。そんな血相変えちまって。
ほれ解体は無事に終わりやしたぜ。部品、貰ってっても構いませんかね。仕事と趣味に使いたいんで」
モグラさんが指差して見せてくださいます。
元の位置に戻されたベンチの上に細々とした電子部品が並べられておりました。とってもマメですの。
確かにこのままここに放置していくことも出来ませんからね。引き取っていただけるならそれに越したことはないのです。
「別に構いませんのっ! それよりもですの!」
柱に寄りかかりながら息を整えつつ、新たに浮上した疑念点をご報告して差し上げます。
「もしかしたらもう一個! どこかに爆弾が隠されている可能性がございますの! しかも今度の場所は皆目検討も付いておりませんの! お二方、どこか予想は出来ませんでして!? もうあまり時間が残されていないのです!」
「「もう一個!?」」
あら、テンプレ的なご反応をありがとうございますの! けれども一々ツッコミを入れている暇さえ今は惜しいんですの!
こうしている間にもどこかで被害が出てしまう可能性があるのです。
もちろん闇雲に探すという手は残されておりますが、それを行うには時間がありません。何より効率が悪すぎますの。下手したらその場に居合わせて巻き込まれてしまうかもしれません。
「そうか、妙な違和感はコレだったか。確かにおかしいとは思ってたんだ」
納得されたようなご表情のカメレオンさんが、平手に拳をポンと打ちつけなさいます。
「と、仰いますと!?」
「いやぁナ、設置された場所があまりに被害の少ない場所すぎたんだワ。もちろん完全スルーされるわけでもネェだろうが、それにしたって地味過ぎる。
一ヶ所くらいはド派手な場所に仕掛けてもいいはずだ。もっとずっと注目されやすい場所にナ」
「なるほどですの……!」
例えばこの和風庭園にしたって、せいぜい休憩スペースが使えなくなって、池の水が辺りに漏れてしまうくらいなのでしょう。
競馬場の運営自体は問題なく続けられるはずです。
南門にしたって、旧殿堂入り馬記念館にしたって、付近への立ち入りを禁じてしまえば、そこまで大きな問題にはならないはずです。
痛手と言うにはそこまでのレベルかもしれません。
「でも、あくまでこの爆破は交渉用のネタの可能性が高いのでしょう? 運営に支障が出るような場所になんて……。
それに人の沢山いる場所で、白昼堂々と設置ができるような都合のよい場所なんて、早々思い付けませんの……」
「まぁナ……。いや、待て」
「ふぅむ?」
またもやカメレオンさんが何かを思い付いたような顔をなさいます。
「一ヶ所だけあるナ。俺たちがさっき話してた場所ならイケるかもしれん」
ふぅむ? 何ですって?
先ほどお話していた場所ですって?
この和風庭園を訪れる前の場所と言いますと、パドックくらいしかございませんでしてよ?
あ。ちょっとお待ちくださいまし。
正確にはパドックではございませんの。
観客の皆様方に聞かれないように、また怪しまれないように、少しだけ場所を移動いたしましたわよね。
確かに人通りは少なかったですの。
物陰となっていたせいか、内側のお馬さんを眺めることもできなければ、通路としてもあまり機能していないその場所は……ッ!?
あんまり目立たない、けれども競馬場に対して大きな打撃を与えられる場所と言えば……ッ!?
「パドック大液晶の裏手!?」
そうですの! 灯台下暗しとはまさにこのことでしてよ!
ここに来る際にお二人と井戸端会議を繰り広げたあの場所ですの!
あそこなら人目を気にせずに爆弾を設置することができますの!
支えとなっている柱を爆破してしまえば上の液晶がドンガラガッシャンとなって大打撃を与えることが可能となるわけですのね!
もちろん液晶の交換で解決できる話ではございましょう。しかしながら、インパクトと被害度合いで言えば解除済みの三箇所とは比較になりません。
パドックとは競馬を行う上では無くてはならない場所なのです。二度目の被害を考えたら、運営側だって交渉の条件を呑んでしまうような気もしてしまいます。
「急げ青ガキ! もう解体してる時間はネェ!
さっさと見つけて引っ剥がして、出来るだけ被害の少ネェ場所に持ってくんだ!」
カメレオンさんが語勢を強めにご指示くださいます。
「被害の少ない場所!? それこそドコでして!?」
「ほら空高くとか! そうなったらこの俺がキッチリ木っ端微塵にしてやる! こうなりゃ周りの客連中には花火か何かと間違えさせる他手がネェだろ!?」
「ふぅむ!?」
そんなんで上手くいきますの!?
散らばった破片が逆に危ないのではございませんの!?
私、地上で暮らしていたときに、1センチ角の雹が降っただけで車のボンネットがボコボコになってしまうと聞いたことがございましてよ!?
「ぐぬぬぬ、ですが了解ですの……ッ」
まぁでも、直接その場で起爆させるよりは何倍もマシかもしれません。
「はっ。そうですの」
咄嗟に一個だけ策を思い付けましたの。
我ながら自分を褒めて差し上げたいですわね。
上手くいくかは分かりませんが試してみる価値はありそうです。っていうか試さないと私の懸念と不安が収まりそうにありません。
木っ端微塵化の際にビックリされてしまうかもしれませんが、今の私ならではの必殺技があるのです。やらぬ後悔よりもやる後悔、ですわよね。
いいですの。やってやろうではございませんの。
「では行ってまいりますの! もちろん死ぬ気はございませんからご安心を! ただいざというときはこの変身装置を使わせていただきますのであしからず!」
胸のブローチをしかと握り締めます。
「しゃあネェ緊急事態だ。総統閣下様にゃあ俺の方から言っといてやるから好きにしろ!」
「了解ですの! 言質いただきましてよっ!」
きっと魔法少女のお二人は見当違いな場所をお探しになっているはずです。
ということは、止められるのは私ただ一人ですの。
現役を離れて久しいこの私が。
華麗に優雅に暗躍して差し上げますの!
そして上手いことやってのけて、カメレオンさんにもモグラさんにも、もちろん総統さんにも沢山褒めていただきましょう!
そうなればもうウッハウハ間違いなしなんですのっ!
さぁ、行きますわよ蒼井美麗。
ここからは絶対的本気モードなのです!
今日一番の全力疾走を開始いたします。
せいぜい気持ちの良い汗をかいて差し上げましてよッ!