最期の発言こそが罠
休憩スペースから出て、少し歩いたタイミングで魔法少女のお二方と目が合いました。私の近くまで歩み寄ってきてくださいます。
ただ後ろのカメレオンさん方を見られてしまうと厄介ですの。少しでも離れた場所で合流いたしましょうか。
私もほんの少しだけ早足になって差し上げます。
「ふぅっ……ふぅっ……お待たせいたしましたわね。すみませんの、わざわざこちらまで来ていただいたようで。そちらの首尾はいかほどでして?」
「無事任務完了ですっ! お姉さんの言った通りでした。光を当てたら跡形もなく消え去ってくれたんです!」
「あら、それは何よりでしたの」
私の問いかけに真っ先にピンクさんがお答えくださいます。グリーンさんも無表情ながら隣でコクコクと頷いていらっしゃいました。
内心ほっとしておりますの。アレは完全な口から出まかせだったのですから。ただ爆弾に対してホントに効果があったのであれば今更何も言うことはありません。
嘘から出た真とはまさにこのことでしょう。実際のところ、浄化の光は対怪人相手ならピカイチの性能を発揮しておりましたからね。
彼らの創作物にも効く可能性はございましたの。
もしやと思って正解だったのです。
「私の方は絶賛解除中でしてよ」
尋ねられる前にお知らせして差し上げます。
実際の作業者は私ではなく、私の保護者的立ち位置のモグラさんなのですけれども。
耳を澄ましてみれば、風が水面を撫でる音に加えて、微かながら工具がカチャカチャ鳴る音が聞こえてくると思いますの。
「あっ、もしかしてお邪魔してしまいました?」
「いえいえ。もうほっといても大丈夫でしょうし。お気になさらず」
「…………?」
こちらとしてもあまり深入りしていただきたくありませんからこの話はこの辺で締めますわね。解体の方はその道のプロにお任せしてありますのでご心配なくなんですの。
タイムリミットまではもう少しだけ時間があるのですし、と仕事モードのモグラさんは凡ミスをなさるような方ではございませんし。
あと数分も経てばここにいる皆が自由の身となれるんですの。気を抜くにはまだほんの少し早いですが、一安心したらどっと疲れを感じてしまいました。
常に気を張っているのは疲れますから。少しくらい肩の力を抜いてもバチは当たらないでしょう。
「…………それはそうと、お姉さん」
しかしながら。
「ふぅむ?」
ふっと一息吐こうとしていたタイミングでございました。やけに神妙な面持ちのグリーンさんが、地味に言いづらそうな語り口で言葉を切り出しなさったのです。
何故だか含みを感じてしまいましたの。
「……浄化に際して一つ気になったことがある。情報共有も兼ねて、状況を確認しておきたい」
「ふぅむ、どうされまして?」
無表情さは相変わらずなのですが、瞳の向こう側に不安と恐れをちょうど二で割ったような、複雑な色が見え隠れしておりますの。
解体作業中に何か気が付かれたところがお有りでして? よろしいですの。今ならお姉さんが何でも聞いてあげましてよ。
少しでもお話しやすいように、頷きと目線とでお言葉の続きを促して差し上げます。
「……爆弾に書かれていた数字……何だった?」
「ほむほむ、数字でして?」
表面に白いペンキのようなモノでデカデカと刻まれていたアレのことですわよね。
「ええと〝2〟でしたけれども」
下を覗き込んだ際も、ベンチを丸ごとひっくり返して直視した際にも、この目でガッツリと確認いたしましたから覚えておりましてよ。
指折りVサインを向けて差し上げます。
「ちなみに私は〝3〟でしたっ。大きな白丸に囲まれてましたから結構印象に残ってて」
すぐ後に続くようにピンクさんもお答えしてくださいます。
私たちの回答を聞いて、でしょうか。
グリーンさんの眉間に明確にシワが寄ったのです。
間違いなく怪訝そうな顔付きに変わられたのです。
嫌なことが的中したような、予想した結果になって欲しくなかったかのような。
そんなマイナスな感情が見える顔をしていらっしゃいますの。
「…………私は……〝4〟だった」
ボソリと小さく呟かれます。
「「はぇっ?」」
漏れ出た言葉がピンクさんと被ってしまいました。
私が2で、ピンクさんが3で、グリーンさんが4の爆弾ってことですの?
どうして始まりの1が無いのでしょうか。
なんだかしっくり来ませんわよね。
グリーンさんがお続けになられます。
こちらも図らず固唾を呑んでしまいます。
「……この数字にランダム性があったのならまだよかった。けれど、二人の話を聞いて、数字が連番だと知って……ここで、ある一つの仮説が出てきてしまう」
やけに後ろに引っ張るような話し口をなさいます。
自然と冷や汗がたらりと流れてしまいました。
グリーンさんのご発言を聞いて、彼女の仰りたい結論が何となく察知できてしまったのです。
この懸念は、そもそもの1が永久欠番と知っているのであれば特に起こり得ないのです。
試作段階でボツになっていたり、既に別の日の別の作戦で使われていたりして、もう既に存在していないのであれば全く構いませんの。
しかし、そうではないとしたら。
今このときもしっかり存在していて、おまけに今日の現場に使われていたのだとしたら。
「それってつまりッ!?」
「……まだ、この会場内に〝1〟の爆弾が隠されている可能性がある。オレンジ怪人の最期の発言こそが罠。本命はもっと別の場所にある、と考えた方がいいかもしれない」
「くぅぅ。杞憂と言い切れないところが怖いですの……ッ!」
つまりはこの競馬場内に私たちが発見出来ていない〝第4の爆弾〟が隠されているかもしれないということなのです。
更に深読みするのならば、今まで解体したのはあくまで保険やダミーであって、本命はもっと別の場所を狙っているのかもしれません。
もっと的確にダメージを与えられる場所に仕掛けられている可能性だって捨て切れないですの。ここまで来ると可能性は無限大になってしまうのです。なんだか頭がクラクラしてきましたの。
「こ、こうしてはいられません! 急ぎましょうグリーンちゃん! お姉さん!
早く見つけ出して浄化しておかないと! さっき爆弾に表示されてた時間から考えても、あと10分もないかもしれませんよッ!?」
ピンクさんが血相を変えて大慌てなさいます。
顔こそこちらを向いていらっしゃいますが、既に踵を返し始めていらっしゃいますの。今にも全速力で飛び出してしまいそうな体勢です。
横にいるグリーンさんも表情から一切の余裕が消えておりました。こちらもこちらで前傾姿勢な駆け出す一歩手前なご様子です。
「私も今のが片付いたらすぐに捜索に戻りますの! お二人は先にお探し再開していただけまして!?」
「「了解!」」
二人とも私の問いかけに一切振り返ることなく、短く力強くお答えしてくださったのちに、魔法少女パワー全開な大跳躍でこの場からお立ち去りなさいました。
私ものんびりしている暇はありませんわね。一息つく時間はまだずっと先ということですの。
せめて今後も安全かどうかを見極めてからでないと、娯楽にも休息にも集中できそうにありません。
急いでカメレオンさんとモグラさんに報告いたしましょうか。思わぬ知恵を貸してくださるかもしれません。
息を切らしながら休憩スペースまでの道を辿り直します。