この三人で手分けして
すっ転がっているオレンジ怪人の身体をつま先でツンツンとして差し上げます。
「さぁさぁお二人とも、さっさとコイツをご浄化くださいまし! 終わり次第、爆弾捜索に切り替えますわよ!」
「あ、はい分かりました!」
私の勢いに促されてピンクさんが怪人の上半身に向けて手の平から浄化の光を照射なさいます。グリーンさんも近くの下半身に光を当て始めてくださいました。
少しずつ光の粒となって奴の身体が宙に霧散していきます。最期こそ呆気なかったですが、コイツったら大変なモノを遺していきやがったのです……!
まさか爆弾なんていう物騒極まりないシロモノですの。
にしても困りましたわね。奴の仕掛けた爆弾とやらがいつ爆発してしまうか分かったものではございませんし。何よりこの広い場内のどこに隠したかも分かりませんの。
三箇所に設置という情報を聞き出せただけ、まだ希望は残されていると思うべきでしょうか。
「ふぅむ……」
そうですわね。今は前向きに考えることにいたしますの。こんなところで項垂れている暇はございません。
「あれ? そういえば、なんでお姉さんが浄化のことを知って……」
「こまけぇこたぁいいんですの!」
あまり深堀りしないでくださいまし。
疑問の声を零されたピンクさんを、これまた言葉と手指のポーズの勢いで制して差し上げます。
ビクリと肩を震わせなさいましたが、今はそれどころではないと察してくださったのか、すぐに真剣な表情に戻ってくださいました。
この流れにあやかって指揮をとって差し上げますの。
「お二人ともよろしくて!? 規模も得体も知れない爆弾とはいえ、怪人たちが作り出したモノであれば、貴女方の浄化の力できっと止めることが出来ると思いますの。
この三人で手分けして見つけ出しますわよ! 私が見つけたモノについては……えと、気合いで何とかいたしますの!」
「りょ、了解です」
戸惑いながらも、両者とも力強く頷きを返してくださいました。心強い限りですの。
正直に申しまして私の発言に裏付けなんてのは一切ございません。浄化の光が効くかどうかも完全に口からの出まかせ嘘八百ですの。
全て彼女たちを勇気付ける為の妄言なのでございます。
こういうときは根拠のない自信が大事なんですの。大抵は魔法少女の力がイイ感じに働いてくださるのです。
だって、浄化は対怪人専用の特効能力なのですから。
ちなみに私はもう浄化の光は使えませんの。物理的に木端微塵にぶっ壊して差し上げるか、もしくはドラマの見様見真似で起爆線の解体を試みるか、選択肢の二つですわね。
もちろん冗談ですの。モグラさんなら爆発物のお取り扱いに慣れていらっしゃいませんでしょうか。地下施設のお仕事柄、発破ッ! とか普段から行っていらっしゃると思いますし。
競馬というご趣味をお楽しみのところ申し訳ありませんが、一大事なのでお許しくださいまし。
となりますと? まず私が向かうべくはパドック付近ということでして?
あちらで待っている保護者のお二人に相談して指示を乞うてみましょうか。
その間に、後輩ちゃんたちには近辺調査から手を付けておいてもらって、それから……!
頭がパンクしそうですの。
オレンジ怪人の浄化が終わったのか、グリーンさんが近くまで駆け寄ってきてくださいます。
「…………あの。お姉さん」
「はいはい、いかがなさいまして?」
とっても真剣なご表情をしていらっしゃいますの。
「……おそらくだけど、人の立ち寄りが多い場所には、奴は近付けていないはず。それに、建物の中も私がずっと見張っていた。故に可能性は薄い」
「ふぅむふむ?」
「……設置の候補というか、それらしい場所をいくつか絞り込めるはず。確証は、ないけど」
「ナイスですの充分ですのっ! 何より時間が惜しいこの状況なのです! シラミ潰しでは効率が悪いと思っておりましたから尚更ですの。素晴らしいご提案ですのっ!」
無闇矢鱈では効率が悪いですからね。候補があるならそちらを当たってからの方がよさそうです。
「して、それらしい場所というのは?」
「……第一にこの建物の近辺が怪しい。こんな休館施設、用が無ければまず訪れない」
言われてみれば確かにその通りですの。それに、袋小路に追い込んだはずでしたのに、何故か変なところから現れなさいましたからね。
茂みの中とか建物の裏手とか、目立たなそうな場所を攻めてみるのがよさそうです。
「……次に南門入り口付近」
「はて、それは何故でして?」
「……正門に対しての裏門。地下通路を通って行く必要がある。つまりは移動が目立たない。しかも今のシーズンは終日閉鎖されてるとのこと。私が設置する側なら、まず候補に入れる。見回りの際も、怪しげな場所をいくつかピックアップしている」
「ほほうですの」
とても信憑性のある発言でございますわね。南門ですか。駅直結の正門や駐車場のある東西門と違って、南門はパドックからもスタンド席からも極端に離れている場所みたいですの。
確かに暗躍行為をするにはうってつけの場所かと思われます。そもそもの人の立ち寄りが少ないですわけでし。閉鎖中とのことであれば尚のことでしてよ。
「……最後に、パドック――」
「パドックでして!? あそこほど人の立ち入りが多い場所はございませんでしてよ?」
「――その裏手。小さな和風庭園が設けられている。皆パドックで立ち止まって、その先には赴かないことが多い。つまりはここも人の立ち寄りが少なく設置のチャンスあり、言い換えればピンチの可能性が大」
「はぇー!」
そんなところがあったんですのね。後で場内地図を再確認してみましょうか。
私自身、パドックとレースコースの往復ばっかりに気を取られて、その奥にまでは全然足が及んでおりませんでしたもの。素晴らしい着眼点だと思いますの。
「でしたら私、ちょうどパドック付近に用がありますの。そちらの確認は私が担当させていただきましょうか。
であればピンクさんはこの付近の捜索を、グリーンさんは南門の怪しげな場所を。
それらしきモノを見つけた際は浄化の光を空に向けて照射してから撤去にお取り掛かりくださいまし」
「了解ですっ!」
「……了解」
やることは決まりましたわね。久しぶりの力仕事に腕が鳴りますの。私の心の鈍刀を研ぎ澄ませるまたとないチャンスですの。
お互いの頷きを確認し合ったのち、私たちは三方に走り散らばっていきます。検討を祈りましてよ。今だけは全面的な協力関係ですの。お助け合いの精神ですの。
パドックまではおよそ500メートル強……!
まったく、動きにくいセミフォーマルワンピースとお洒落ヒールで来るんじゃありませんでしたわ。こんなに走るとは思ってもみませんでしたもの。
この際ですから物陰で〝disguise 〟し直して差し上げようかしら。これなら短パンとスニーカーの方が絶対に良さげですの。再会した時の説明がまた面倒になってしまいますけれども。
とにかく今はカメレオンさんとモグラさんに合流することだけを考えて必死にこの足を動かします。いくら人混みに溶け込んでいらっしゃるとは言え、ダンディなお帽子とお佇まいを見れば一発で分かりますからね。
ええと、お二人とも、どちらにいらっしゃいまして、と。
あ、よかったですの。見つかりましたの。
向かい側の柵付近で内を歩くお馬さんとお手元の新聞とを比べっこ&睨めっこしておいでのようです。
急いで駆け寄って差し上げます。