役者は揃いましたの
現れたのは完全お初の緑の魔法少女さんでした。
見た感じはとっても小柄な子ですの。けれども何とも頼り甲斐のありそうな強者なオーラを放っていらっしゃいます。
翡翠色の髪が木漏れ日に照らされて、ツヤツヤとしめやかに煌めいておりますの。
ピンクさんの盾になる位置で、一ミリも隙を感じさせない立ち姿を披露してくださいます。
「…………ピンク。アイツを倒せば、いいの?」
やや長めのステッキを居合抜きの刀のように腰横に据えて、絶えず目の前の怪人に殺気を向けていらっしゃいます。
少しも振り返らないまま、ピンクさんに確認の問いを向けられました。
「ええ。正直なところ、あの怪人は私とは相性が良くないみたいで……」
「…………了解。速攻でカタをつける」
半月状にステッキを振って、改めて集中するようにふっと息を吐かれます。続いてとられたのは下段の構えですの。
張り詰めた空気感がこちらにも伝わってまいります。
杖の間合いに入ったら容赦なく斬り伏せる、間合いに入らなくても問答無用に斬りに行く、といった攻めと守り両方の気概を感じられますの。
まだお若そうに見えますのにこんなにも自信に満ち溢れた雰囲気を醸し出せるとは。この子、間違いなく只者ではございませんわね。
ふと見てみれば、彼女たちのすぐ後ろの壁面に扇型の凹跡が二つ増えていることに気が付きました。
ちょうどゴルフボールを半分にしたような形の凹みですの。それもピンクさんの位置を綺麗に避けたような配置になっております。
今もオレンジ色の液体が滴り落ちていることから、ついさっき出来たばかりの跡だと判断できそうです。
放たれた果汁弾はたった二発だけですの。
頬を掠めた先の一発は既に壁を穿っております。
後に放たれた直撃不可避な一発は、もしかすると……!
武士のような居合の構えと……!?
背後にある二つに割れた弾痕から……!?
導き出される答えは……ッ!?
「はぇっ!? ってことはこの子、超速度の銃弾をお手持ちのステッキでバッサリと斬ってみせたんですの!? そんなの全盛期の私でも厳しい超巧テクニックでしてよ!?」
思わず口から感嘆が漏れ出てしまいました。
予め杖を構えて防ぐくらいなら私にも出来るかもしれませんが、駆けつけざまに飛んでいる銃弾に杖を振るって、更には見事にブチ当てて真っ二つに斬り捨てて差し上げるというのは完全に別次元のお話なんですの。
日頃より相当な武芸を嗜まれていなければ、それこそまさに達人級の腕前をお持ちでなければ叶うはずもありません。
……緑髪の魔法少女さん、恐るべしですの。
相当な手練れと考えてよさそうですわね。戦闘技能においてなら現役時代の茜にも匹敵するかもしれません。
私が敵なら是非とも直接相対するのを避けさせていただきたいお相手ですの。
「ふぅむ、こんな子が後輩ちゃんになっておりましたとは、今後の手強さの極みですのね……」
プリズムブルー時代の力で何とか互角、大幅強化を見込んだイービルブルー化でようやく善戦、といったレベルでしょうか。
これは一大事です。戦闘の一部始終をこの目でしかと見収めて、総統さん方に申し伝えて差し上げませんと。
「ふむふむ、ふぅむ、ですの!」
久しぶりに使命感に燃えられそうです。
ここに来た甲斐がありましたわね。
「……あれ? お姉さん……なんでここに?」
「あっ」
私の独り言を拾われてしまったのか、チラリとこちらにお振り向きなさった彼女と目が合ってしまいます。
なぜ私がここにいるのか、という疑問符を頭の上に並べておいでですの。仕方がありませんわね。
答えてあげるが世の情けというものでしょうが、全てを答えて差し上げるほど私はザルではありません。
「あっと、えっと、私のことはお構いなく。ただのしがないイチ見物人に過ぎませんの。
そんなことより、私たち、以前にどこかでお会いしたことなんてございましたっけ? ふぅむぅ?」
さりげなく話題を切り替えて差し上げます。
少なくとも初対面のはずですの。そもそも茜と花園さんの他に魔法少女の知り合いが居るわけでもございませんし。
「…………いや、他人の空似だった。なんでもない」
誤魔化して目を逸らすかのように、彼女はすぐさま正面にお向き直りなさいました。
何か引っかかりますわね。
私の数倍怪しいご反応ですの。
直近の記憶から遡って整理してみましょう。緑髪の魔法少女さんになんて一度も会ったことはないはずです。
ただ、緑髪という点がなんとも……。
はて、緑髪、緑髪……そしてショートボブ……。
「へぁっ!?」
脳の思考回路が繋がりました。
ソレっぽい方がお一人該当なさいましたの。
貴女、もしかしなくてもお昼に出会った不思議な女の子さんですわよね?
たしかお名前を翠さんと仰いましたっけ。
背格好やら醸す雰囲気やら、思い返してみればやたらと酷似しておりますの。
小さいながらも張りと透明感のある声や、寡黙で聡明さを感じさせるご様子など、全てがあの緑髪の少女のモノと合致いたします。
ああー、だからお昼頃に不審者を探していらしたんですのね? 花園さんと同じく、貴女も張り込み捜査の真っ最中だったんですのね?
ふっふっふ。私ったら察知能力が高くて困ってしまいますの。人間観察を趣味と言ってしまっても過言ではないかもしれませんのーっ。
「はっはーん、ですの。おやおや〜? ですの」
合点がいきましたのでニヤニヤドヤドヤとして差し上げます。世間というのは思ったよりも狭いんですのね。
どんなところに出会いが転がっているか分かったものではありません。恐れよりも驚きの方が優ってしまいます。
「…………え、と、一応。魔法少女プリズムグリーン。以後、よろしく」
感慨に耽っていたところ、ぺこりと首を下げてご挨拶してくださいました。無口ながら案外律儀な方のようです。
「あらあらご丁寧にどうもですの。こちらこそ、私は蒼――」
「あの、危ないから、顔は出さないで。じっとしてて」
「あ、すみませんの」
声高らかに名乗って差し上げたかったですのにまたしても言葉を遮られてしまいました。しかしまぁ今のは私が悪かったですわね。
ただ今は戦闘中なんですもの。安易に首を晒せば、そこにつけ込んだフルーツ怪人が果汁弾を浴びせてくるかもしれません。
正直言って助かりましたの。礼儀正しさだけでなく、他人を気遣う心優しさも持ち合わせていらっしゃるようです。
魔法少女向きの性格かもしれませんわね。外見が物静かなだけで、胸の内には熱いソウルを秘めていそうな印象がありますら、
「…………じゃ、気を、取り直して」
翠さん改めてグリーンさんがステッキを構え直されます。
「私もそろそろいけそうですっ。二人揃った私たちの華麗な連携プレイ、まじまじと味合わせてやりましょう!」
息を整え終えたピンクさんも再度小さめの杖をご生成なさいます。すぐさま両手で逆手持ちして、トンファーのように構えられましたの。
「フゥン。魔法少女一人が二人になろうと同じ話だと思うけれどぉん?」
「それは、どうでしょうかねッ!」
威勢のいい掛け声と共に、ピンクさんが姿勢を低くしながら一気に駆け出しなさいます。
そのすぐ後をグリーンさんが追いかけます!
さぁ、役者は揃いましたの。
これより第二ラウンド開始ですの!