呼ばれて飛び出て颯爽登場です!
スカートの生地によるものなのか、ファサリという至極柔らかな音がこの耳に届きました。
振り向かなくても分かりますの。たった今ポップでキュートなあの頃の衣装を身に纏われたのでしょう。
「あ、あの! お待たせいたしましたっ!」
間髪入れずに弾んだ快声も聞こえてまいります。
溢れる自信の内側にほんの少しだけ恥ずかしさを入り混ぜたような、うら若き乙女の元気なご返答ですの。
準備万端のようですわね。
「うふふ。もう振り向いてもよろしくて?」
「はい! あっ、ただ私はさっき話されていた子とは全くの別人ですからね! たった今ここに来たばかりの、通りすがりの――」
「はいはい分かっておりますの。そういう設定の方が都合がよろしいのでしょう?」
身バレを避けたい気持ちも分かりますの。後でどこかの誰かさんにうだうだ言われたくはありませんもの。
ご安心くださいまし。その辺についても重々に理解しておりますの。私だって伊達に魔法少女を経験者していないのですから。
それでは、改めまして。
ひらりとワンピースを翻して、華麗に振り向いて差し上げます。
この瞳に映った花園さんなのですが。
あらおやまぁまぁ、これはこれは。
「とっても可愛らしいことっ。あのときとは違って薄汚れた感じも一切ございませんし、よくお似合いでしてよ」
「え? あのとき?」
「あ、こっちの話ですの。お気になさらず」
いけませんの。早速ボロを出してしまうところでした。
初めて魔法少女姿の貴女とお会いしたのは地下施設の懲罰牢でしたわよね。顔合わせのタイミングから既にお洋服もお肌も無惨な有様になっていたのを覚えております。
そこから更に汚したのがこの私なんですけれども。あの日々を下手に思い出されて逆恨みでもされたらたまったものではありません。
出来ることならずっと記憶を欠落させたままにしておいてくださいまし。その方がずっと都合がよろしいのです。
それにしても。
久しぶりに見ましたがやっぱり魔法少女の衣装自体はとても素晴らしいデザインをしておりますわね。
可愛い女の子こそこういう小綺麗な姿でいるのが一番だと思いますの。
溢れるお姫様感をベースにしながらも、そこに健気さやキュートさをブレンドして、更にはほんの少し儚さも付け加えているのが限りなくグッドなのです。
やたら抽象的に表現になってしまいました。
花園さんフィルターを通しながらもう少し具体的に言い表してみましょうか。
私の背後にいらっしゃった花園さんは、眩い光に包まれた後に可憐な魔法少女姿へと変身なさいました。
白とピンクを基調としたそのフリフリな衣装は、まるで高級なお人形さんのようにまとまった可愛らしさを演出してくださっております。
お手に持つ杖がピンクなら、胸に付けたブローチももちろんピンクです。どちらも外光をキラキラと反射させておりますの。
かつての私がサファイア色、茜がルビー色だとしたら今の彼女のはルベライト色でしょうか。もしくはピンクダイヤモンドのような高級品かもしれません。
「あら、頭のそれは……?」
「これですか? 髪結びのゴムがティアラに変化してるんですー! コレ、結構お気に入りデザインなんですよねー!」
二つ結いの髪型は一切変えることなく、ワンポイントアクセントで可憐さをアップさせておりますの。
私の方に頭を傾けて近くで見せてくださいました。
なるほどティアラですか。
私たちの頃とは唯一異なる点ですわね。
頭の装飾が王冠ではなく王妃冠に変わっているようなのです。独立した銀白の髪飾りとして、外装の中でも一際キラキラと輝いておりますの。
彼女のツインテールに上手くマッチしていて、三割増しくらいに煌びやかな印象を振り撒いてくださいます。
その他にも特徴的なふんわりもこもこに広がるスカートや、背中に取り付けられた大きなリボンや、細かな宝石で装飾されたヒールなどなど、全ての彩りが魔法少女感を際立たせておりますの。
私の後輩ちゃんなだけあって基本的には同系統の変身衣装なのでしょうが、所々がブラッシュアップされているように思えます。
真新しさと懐かしさの両方がありますの。見ていてなかなか楽しいですわね。
「それでは改めまして! 魔法少女プリズムピンク! 呼ばれて飛び出て颯爽登場です! 春一番と共に怪人さんを撃退してあげます!」
「おおー」
思わず拍手までしてしまいました。杖を掲げた決めポーズが様になっておりますの。
はにかみ笑顔がキュートさを更に引き立たせておりまして、傍目から見てもとってもナイスな感じです。
ああ、よかったですの。老婆心的な意味で少しだけ心配しておりましたが、貴女は貴女でキチンと務めを果たしていらっしゃるようですのね。
今後も根を詰めすぎないよう頑張ってくださいまし。死んでも私は代わっては差し上げませんので。
「ふふんっ。ではあとは頼みますの。私は物陰から温かく見守っておりますから」
「はい! お姉さんもっ、そのうち相棒が増援に来てくれると思いますので! それまでどこかに身を隠して、後で安全に保護されちゃってください!」
了解ですの……いや、ちょいとお待ちくださいまし。
「ほほーん、相棒とな、ですの……?」
これはいいことを聞きましたの。貴女の相棒さんがお近くにいらっしゃるんですのねぇ?
つまりはもう少しここで待っていれば、その方の戦う姿も見られるということなんですのねぇ?
私、相方さんにかなり興味がありますの。
だって地下施設で尋問していたときは、花園さんったら相方さんについては決して口を割ってくださいませんでしたし。
友情が成せる技なのか、はたまた身に降りかかる重責がそうさせたのか……!
これはまたとないチャンスなのです。
「うふふふ……それは〜楽しみですの〜」
是非とも新情報をガッチリ掴んで差し上げて、総統さんにお褒めいただくことにいたしましょう。ふっふっふ、これで夜の追加お戯れ権が獲得できそうですわね……!
湧き出でてしまった黒い微笑みを隠します。
後輩ちゃんを応援してあげたい気持ち以上に、ご主人様に愛していただきたい気持ちの方が優ってしまうのでございます。
天と地ほどの差がありますの。ああ、私ったら罪な女ですのっ。
とりあえずピンクさんの影に隠れます。
その勢いのまま建物の端まで移動いたしまして、ひょっこりと首だけを出して空気感を伺います。
「あらぁん? 青い方は今回はお休みィ? 別にアタクシとしてはまとめて相手してあげてもよかったんだけどぉ?」
「アナタなんか私一人で充分です! 一般人を巻き込むだなんて言語両断! ご覚悟をば!」
花園さん改めプリズムピンクさんがスタタと勢いよく駆け出します。
一般人もとい逸般人の私の出る幕が無いような展開を期待しておりますの。
早速血で血を洗うバトルが始まるみたいです。
私としても手は出しませんが口からは色々と出させていただきます。ここからの実況は私蒼井美麗、解説も私蒼井美麗が担当させていただきましょうか。
片時も見逃すわけにはいきません。空想のマイクを片手にほんの少しだけ身を乗り出して差し上げます。
さぁ、たった今ピンクさんが杖をフェンシングのフルーレのように構えられましたの!
蝶のように舞い、蜂のように刺す連撃が始まりますのねッ!? 超絶楽しみですのッ!
美麗ちゃんには
〝したたか〟という言葉も
よく似合う。