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悪党にも満たない小物風情

 

「一般の方に協力を求めるのは本来であればNGなのですが……仕方ありませんね。今の司令なら許可してもらえると思いますし、いいでしょう。こっそりお話いたします」


 ほむほむ。過去に比べたら規約もだいぶ緩くなっていそうですわね。付け入る隙を見せてくださいましてありがとうございますの、今の司令さんとやら。


 何故だか握手を求められてしまいました。こういうのはノリが大事だと思います。この際ですのでガッチリと平手で握り返して差し上げますの。


 少しは警戒心を解いてくださったのか、花園さんが意気揚々と語り始めます。


「私はですね、大きめの黒いフードパーカーを着た、背の高い男性のことを追っていたんです」


「黒い、フードパーカー、でして?」


「はい。そうですけど……」



 とりあえずはほっと胸を撫で下ろします。弊社のお二人は両方ともダンディなハットを被っておいでですからね。そんなラフな若者みたいな格好はしておりませんの。


 ゆえに今回は対象外と考えて問題ないでしょう。



 となると、その怪人さんは別の勢力の方という結論に至ります。

 ご主人様(総統さん)の率いる悪の秘密結社とは、発端も方針も異なる別組織の人員の可能性が高いのです。


 怪人組織は世の中にたった一つだけではありません。


 例えば他の勢力で言えば、私が滅ぼした野菜連中であったり、その後に現れ始めたフルーツ連中なんかが挙げられますわね。


 

 余計なことを考える私を他所に、花園さんが淡々と言葉を続けます。


「何やら物陰で不審な動きをしていたという情報もあります。聞いたところによると、チラリと見えた頭部の色がド派手だったとかなんとか。ビビットなカラーが目に眩しい、と」


「ふむふむ、ふぅむ……」


 適当に相槌を打ちつつ、思考を整理いたしますの。


 ド派手な頭部とはまさに私たちが過去に争っていた食物系怪人の連中みたいですわね。


 フルーツに関してはもう3年も前の話ですので今がどうなっているかは存じ上げませんが、今日も変わらず世の中に猛威をふるっている可能性もございます。


 彼らのやり方は個人的にはあまり好きではありません。一般人に対して見境がないのです。悪党だという誇りのカケラもないのです。クールさやスマートさなんて言葉はトイレに流されたかと錯覚するくらいですの。


 所詮は悪党にも満たない小物風情なのですっ。



 弊社の方針としましては、ヒーロー連合と同じように、縄張りを荒らす小規模団体も敵対組織として扱うようになっております。


 ですから、フルーツレベルの勢力であれば容赦なく浄化してくださっても構いませんの。機会があれば私も進んで協力して差し上げてもよろしいくらいですのよ。


 とにもかくに、横道に逸れかけた話を私自らの力で戻させていただきます。



「ええと……つまりはこの競馬場内に悪い奴が忍び込んでいて、何やら怪しげなことをしようとしているはずだから、悪さをする前に引っ捕らえておきたい、と。

こんな感じで合っておりまして?」


「理解が早くて助かります。っていうか早過ぎてビックリしてます。あなた、ホントに一般の方なんですか?」


 ジトーっとした目を向けられてしまいました。


「あ、えっと、いえ……その……あ! そそそうですの。

ついお昼前にも同じように不審な人物を探している女の子にお会いしたものですから。デジャヴを感じてしまっただけで……うふふ。

きっとそういう流行りでもあるんでしょうねー、なぁんて。うふ、うふふふ」


 咄嗟の誤魔化しにしては都合が良すぎる話題かもしれませんが、嘘自体は吐いておりませんの。


 不思議な緑髪の少女に話しかけられて、不審な人物を見かけていないかと問われたのは紛れもない事実なのです。


 そのときは普通に見かけていないとお伝えいたしましたが、新たな情報を得た今では違う見方で人ごみの中を歩けるもしれませんの。


 花園さんが今その不審者を探しているように、別の方(緑髪の少女)だって同時間軸で探している可能性があるのです。


 ほら、自然でしょう?

 ですからここは黙ってご納得くださいまし。


 決して経験者()から生まれた発言ではないのです。まったくの偶然の産物なのでございます!

 

 私の熱意が届いたのか、彼女は疑いの目を弱めてくださいました。


「ん、まぁいいです。話を進めましょう。

私はつい先ほどその〝不審な人物〟を見つけることに成功しました。それが私がここにいた理由です」


 ふぅむ、なかなかやるじゃありませんの。

 現役の名は伊達ではありませんのね。


 そこまで言い放ちますと、今度はほんの少しだけ顔を顰められます。


「すぐさま叩き潰してもよかったのです、が。ここは人通りも多いですし、いざ彼と戦闘になってしまっては周りにどれほどの被害が出てしまうか分かりません。

そういう懸念から、まずは奴を尾行することにしたのです」


「ふむふむ。状況は理解いたしましたの。して、その()というのは? 今どこにいらっしゃいまして?」


 捕らえるのでしたらこんなところで私と油を売っていて大丈夫なんですの? 私に気を取られて、周囲への注意が散漫になっていらっしゃいませんでして?



「…………あ」



 彼女が声を漏らすや否や、木の陰から身を乗り出して向こう側をご確認なさいます。

 わたわたと落ち着きなく震えては、額から大粒の冷や汗を垂らしているのが見て分かりますの。


「ちょちょっとどうするんですかぁ! お姉さんのせいで見失っちゃったじゃないですかぁ!」


「あらあら。これはこれは」


 大変失礼いたしましたの。私が悪いというのも憤慨モノですが、全くの非がないとも言い切れません。

 なんだか悪いことをしてしまいましたわね。


 連合さんのお仕事のお邪魔をしてしまいましたの。うふふのふ。


 ……しかしながら、今日の貴女は弊社の怪人さん目当てではないのですし。幸い私にも少しは自由時間がございますし。


 本当の意味で手伝ってあげてもよろしくってよ。



「残念がるのはまだ早いですの! 項垂れている暇はありませんの! そんなに時間は経っていないのですから、まだこの近くにいるはずですの! とりあえずは消えた先を探してみましょう!」


「了解です! ってなんであなたが主導権を握ってるんですか!?」


「こまけぇこたぁいいんですのッ!」


 真っ当な質問を遮りまして、指を構えてビシィッとキメポーズをさせていただきます。


 久しぶりのこの感じにテンションが上がってまいりましたの。別に私が何かをするわけではございませんが、もしかしたら現役の子たちの戦う姿が見られるかもしれないのです。


 ヒーロー連合の敵情偵察もさることながら、私自身の興味心を満たせるチャンスですの。私と茜が抜けた穴を、この子たちがどう補っているのか、一見の価値は十分にあると思います。



「……ふっふ〜ん、ですのっ」


 この慌ただしさにこの上ない懐かしみを覚えつつ、不審者が消えたと思われる方向へと足を動かします。



 緑の小道を抜けた先にあったのは、周囲から浮き上がるように聳え立つ古びた建物でした。


 その壁面には旧・殿堂入り馬資料館という薄汚れた看板が取り付けられております。


 今日は空いていないのか、それとも今現在はもう使われていないのか、入り口は固く閉ざされているようでした。


 ここより先に続く道は見当たりませんの。必然的にここが終点ということになりますでしょう。

 

 死角に警戒しながら、私も辺りを見渡します。




 左前方の野茂みが今微かに不自然に揺れ動きました。

 

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