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一人の魔法少女として

 


「……ブルーさんとレッドさん、お二人の活躍は伝説級に凄いものだったんです。倒した怪人の数、助けた人の数、どれを取っても比類ない魔法少女なんですよね! 今も沢山の見習いたちに語り継がれてます。私だって! お二人に憧れて魔法少女になろうって決めたんですから!」


「はえー、知らなかったですの」


「はえーって、そんな他人事みたいに」


「いや、だって、ねぇ?」


 私たち、そんな伝説になるようなことしてましたかしら。


 確かに茜とコンビを組んでからというもの、ほぼ毎日のようにひたすらに怪人さんたちを撃退なり退治なりしておりましたが、結局は戦うことに嫌気が差して戦場から退散した負け犬なんでしてよ。


 こうして捕らえられても健気にまっすぐ反抗してくる貴女のほうが、私はよっぽど偉いと思いますの。


 もちろんこれは弊社の人間としてではなく〝元〟としてのイチ感想に過ぎません。


 決して口には出しませんし、むしろ今の私なら無駄な抵抗はやめて早く楽になった方がよいのにと平気で思ってしまうくらいです。


 けれども……何でしょう。

 あんまり悪い気はいたしませんわね。

 後輩たちに憧れられているというのは。


 少々興奮したご様子で花園さんがお続けなさいます。



「特にっ! ブルーさんは成績も優秀で、品行方正で、誰もが認めるお嬢様な存在だったって聞きました。蝶のように舞い蜂のように刺す可憐なお姿に、戦う怪人でさえうっとり目を奪われていたとか!」


「あら、そうなんですの?」


 チラリと視線を真横にズラします。


「オレニ聞カレテモ困ル」


 横にいらっしゃるのはローパー怪人さんですの。

 まぁそりゃそういう反応なさいますわよね。


 いちいち敵の態度なんて覚えていられないと思いますし。

 そもそももう何年も前のお話なんですし。


 花園さんがテンション高めにお続けなさいます。



「それに! レッドさんだって同じです。学力はともかく、皆に優しくて元気いっぱいで、誰からも愛されていた明るい人だったって!

お二人とも凄いですよね! 毎日毎日ちゃんと学校に行ってたのに、夜は怪人と戦って、お休みの日だって街を守り抜いて! お二人ともいつ寝てたんですか?

そうやって沢山の人を助けていたから伝説になってるんです! ……この話、嘘じゃないですよね!?」


「……ええ、ご安心なさいな。全て本当のコトですの。明くる日もそのまた明くる日も、それこそ毎日ゆっくり休む暇もないほど……私たちは戦いに明け暮れる日々を過ごしておりましたわ」


「うわぁ! ホントなんですね!」


 キャッキャッと檻の中で弾み喜ぶ姿に、少しだけ頬が緩んでしまいます。


 ふふ、あの辛い日々にも意味はあったのですね、と。


 記憶の片隅を思い出します。

 確かに輝いていた日々は沢山ありましたの。


 市民の皆さんの安堵するお声が嬉しくて、その期待に応えるのが心地よくて。


 がむしゃらに前だけをまっすぐ見ていたあの頃を、今でも手に取るように思い出せるのです。


 あの頃の私はしっかりと世の為人の為に輝いていられたということでしょうか。少なくとも恐怖に怯える人々の盾にはなれていたようですし。


 ホッと温かい溜め息を零させていただきますの。


 流れ的にこの辺りで過去の回想を……そしてその後の展開に期待――としておきたいところなのですが、むふふふ。


 まだそのときではありませんの。

 ここには茜という役者が足りておりませんもの。



 しかし、嬉しそうな花園さんのお顔も、長くは続きませんでしたの。ふと見つめてみれば顔色に少しばかり影が差しているのが感じ取れます。



「けれど、私がまだ魔法少女の存在を知る前……三年ほど前でしたか。突然お二人が行方不明になったという話を伺いました。確か聞いた噂によれば、まずレッドさんが先に居なくなって、その後すぐ跡を追うようにブルーさんも姿を消してしまって、と……。

あの、もしかしてレッドさんもココに居るんですか!?

お二人とも、怪人たちに負けちゃって、捕まっちゃって、ここから逃げられないでいるんですか?」


「いえ……私たちは……」



 好きでここに居るのです。


 その回答は、私の口からは言えませんでした。


 彼女の憧れを消したくなかったのか、それとも尊敬されたままでいたかったのか。


 色んなプライドが邪魔をしております。

 上手く言葉にできませんでしたの。


 この胸の内を知ったら、正義感に溢れる貴女はきっと、私たちを無責任だと笑うでしょう。そして負け犬と罵るでしょう。


 けれど、これだけは言わせてくださいまし。

 正しく伝わるかは最初から気にしておりません。



「花園さん。お一言だけよろしくて?

私たちは〝私たち自身〟に負けたのです。

怪人さんも街の皆さんも関係ありません」


「えっと、それって、どういう……」


「茜のこと、お尋ねなさいましたわよね?

答えは正ですの。彼女もここにおりますの。彼女なりにとってもお元気で……とっても……幸せそうに見えますのよ……」


 何もかも忘れて自由に過ごすのが、今の彼女にとって一番よろしいのです。


 辛いことも悲しいことも、全部、記憶の奥底にサヨナラしておくのが、丸く収める秘訣なのでございます……っ。



「そんなっ、だったらなんでそんな顔するんですかっ! そんな、悲しそうな顔」


「貴女にはまだ分からないと思いますの」


 見習いから繰り上げされたばかりの貴女では、私たちの喜びや苦しみ、焦り、疲れ、そして諦め。どれだって一ミリたりとも理解できるとは思っておりませんの。


 これは貴女が魔法少女を続けていくうちに、少しずつ気付いていくことなのです。


 ここで貴女を堕とすのはあまりに簡単です。

 ローパー怪人さんが本気になれば三日と保たないでしょう。


 しかし〝元〟の私として、ここで未来の芽を摘んでしまうことが、少しばかり心惜しく感じてしまうのも事実なのです。


 ただの見習いのまま終わらせるよりも、もう少しだけ成長してから、改めて話を聞いてみたいものですわね。


 叶うのならば、私にだって夢を見させていただきたいのです。仮初でも、うつつを抜かした絵空事でも。



「花園さん。よろしいかしら」


「……なんでしょう……?」


 神妙な面持ちで、私は語りかけます。



「貴女はもうしばらくこの施設に拘留されるかと思います。その待遇はあまり良いとは言えません。檻の中だけで済めばまだマシな方でしょう。もしかしたら一生消えない傷を付けられてしまうかもしれません。


しかし、少し考えてみればそれは、この施設から出られた後だってずっと同じように続くことなのです。怪人たちは毎日のように街を襲いに来るでしょう。貴女にだって沢山危害を加えるでしょう。いつまた巻き込まれてしまうかは誰にも分かりません。


これからも魔法少女で有り続けるということは、日々誰かの笑顔を守るという喜びを得る代わりに、常に貴女の大切なモノや時間を犠牲していくということと同義なのです。


それでも貴女は一人の魔法少女として、世の人の為に尽くす正義のヒロインとして、これからも受け続けるその苦行に、耐えて、耐えて、耐え抜くことを誓えますか?」



 今の貴女には難しいかもしれませんが、これから必ず向き合うことになります。


 その時に何を思って、どのように行動するのか。

 それは貴女が決めることですの。


 案外私なんかよりもっとずっと気楽に対処してしまうかもしれません。



「……ブルーさんの言ってることは半分も分かりません。

けれど、私は、何にだって負けはしません……っ!

だって、だってだって私は! 正義の魔法少女ですから」


「ふふっ。正義の、ですか」


 なるほど、とても力強い良い笑顔をなさいます。



「その心意気、確かに聞き受けましたの」


 見習い、と表現して悪かったですわね。


 貴女はもう既に正真正銘の魔法少女ですの。

 意志の蕾はとっくに花開いていらっしゃるようです。


 ともなれば、私のすべきことは一つでしょう。

 〝元〟としての立場で、施して差し上げられることを見出すだけですの。


 もちろん弊社に対して背信行為を働きたいわけではありません。両者の妥協点も探ってみるんですのっ。



「ローパー怪人さん。総統さんには私から連絡いたします。この子については篭絡ではなく、解放を視野に入れて対応したいんですの。もちろん今すぐに、というわけではありません。聞き出せる情報は全て吐かせてからが絶対条件です。いかがでしょうか」


「ホウ、解放カ。ソノセイデ傷付ク同士ガ増エルトイッテモカ。ソレヲ理解シテ言ッテイルンダナ?」


「ええ、百も二百も承知の上です。その分お疲れになった怪人さんへの慰安は、私が責任を持ってお引き受けいたしますわ」


「……ナラバ、分カッタ。俺モ方法ヲ検討シヨウ。マズハ総統閣下カラ許可ヲ得テクルガイイ。話ハソレカラダ」


「ありがとうございますのっ」


 ローパー怪人さんはその道のプロですから、素体を壊さないやり方もご存知なのでしょう。頼りにしております。


 私も終始付き添わせていただきますし、何なら今後の対応を是非とも勉強させていただきたい所存です。



 グッと拳を握りしめ、花園さんと向き合います。



「よろしくて? 下手に抵抗しないで、ちゃーんと知ってることを話すんですよ?

そうすれば貴女は晴れて自由の身となれるのです。ご安心なさいな。知っている情報を話すだけでは裏切りになるとも限りませんし」


 気安くゲロっておしまいなさいまし。

 お姉さんが全て優しく受け止めて差し上げますから。



「ま、つぅかぶっちゃけどーでもいいんですの。ヒーロー連合の連中なんてっ。アイツら自分らの都合が悪くなったらすぅぐに下々の首を切るような無責任連中なんですからね。何事も最初からトカゲのシッポの気分でやれば気楽に活動し続けられますの。独りで背負いこむだけ損でしてよ」


「えっと……よく分かってないですが、それってつまり、私を助けてくれようとしてるんですか?」


「さぁ、どうでしょう。もちろん情報提供が嫌なら身体で払ってもらうことも可能ですのよ」


「それは……」


 たしかに貴女の年齢ではまだお早いでしょうね。


 ですが私がここでお世話になる頃にはもう同じくらいの歳になっていたかしら。


 うふふふふ、この話題はグレーゾーンとして伏せておきましょう。



「それでは一旦席を外させていただきます。総統さんとのお話が終わったらまた戻ってまいりますわね。それまでローパー怪人さんと仲良く。ケンカしちゃダメでしてよっ」


 あの人がこの子を任せてくださった意味、少しばかり分かったような気がします。ホントに何となくですけれども。


 しかし、この捕縛自体に何のメリットがあるんでしょう……? いっそのこと客人扱いしてしまう手もありますのに。


 まぁ諸々私の知ったこっちゃないですの。


 真意やら目的やらも含めて、彼に直接伺ってしまえばよろしいんですからね。

 

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